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お話の練習 52 [照山小6年3組 ももシリーズ♪]


52
日曜日の朝、ももは、ぱっちりと目が覚めました。
閉め忘れたカーテンの向こうから、夜が明けきっていないようすがわかりました。
(何時だろう?・・・5時?こんな朝早くに目が覚めるなんて、すごいかも)
早く寝ると目が覚めるのも早いものです。
ももは、起きて着替えると、そっと玄関から、おもてへ出ました。
小鳥たちはとっくに起きて、元気にさえずっていました。それを聞いていると、まだ暗い静かな町もさびしくないように感じられました。
(お父さんやお母さんが起きてこないうちに、なくしたかばんを見つけなきゃ)
忘れっぽい人ナンバーワンの座を誰にもゆずったことのないももは、忘れ物のことで、お母さんに怒られることが、頻繁にありました。
学校から上履きで帰ってきたとか、傘を忘れてきたとか、消しゴムをなくしたとか、数え上げればきりがありません。
なかでも一番怒られたのは、今年の春、体操着袋をグラウンドに、ランドセルを公園に置いたまま帰ってきたときでした。
しかも、学校から電話がかかってきて気がついたのです。
「ランドセルも体操着袋も両方、別々の場所に置いてくるなんて、来年中学にあがるというのに・・・。忘れっぽいを通り越して、この子はどこかおかしいんじゃないかしら」
お父さんとお母さんは、もものことを、真剣に話し合っていました。
たぶん、また、かばんを忘れてきたなどと言ったら、極度にがっかりされるか心配されるか、怒られることでしょう。
ももは、親に気がつかれる前に見つけてくるつもりでした。
それに、かばんの中には、大事なものが入っていました。

・お財布(ゆうこちゃん手づくりのビーズの可愛い犬のストラップがついている、所持金約3千円)
・メモ帳(思いついたことが書いてある)
・ボールペン(お正月に買ってもらったお気に入りのペン、スヌーピーの絵入り)
・水玉のハンカチ(可愛いのでお母さんから時々借りている)
・リップクリーム(おいしいシトラス味)

かばんは、布のフリルのついた手提げかばんでした。こちらも、お気に入りの品。
ももは、自転車に乗って、照山古墳公園へ続く道を、まっすぐに走り抜けました。
(もう一枚、上着を着てくるべきだったみたい)
朝の空気は、まだ太陽に温められていません。一生懸命にペダルをこぎました。
時折まだ、街頭が点いているところがありました。
夜明け前というのは、夕方に似た雰囲気ですが、どこの家の庭も電信柱でさえも、朝方の夢を見ているように静かに感じられました。
 


2007-12-17 18:42  nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
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お話の練習 51 [照山小6年3組 ももシリーズ♪]


51
その晩、ももは、いつもなら遅くまで起きてテレビを観ているところですが、早めに自分の部屋へ引き上げました。本当はずっと居間にいたかったのですが、お母さんから、今日は早く寝なさいと、無言の圧力がかかってきたのでした。
おにいちゃんがお笑い番組を観て笑っている声が、天井と壁を通して聞こえてきました。
あ~あ、楽しそう。いいなぁ、おにいちゃん。
ももは今すぐにでも居間に戻ろうかと思いましたが、やめました。ふとんから出るのが寒かったのです。
ふとんの中は、あっけなく、暖かく心地よい場所へと変わっていました。
いろんなことがあると、眠れないものです。
ももは、ベッドの中で、今日の出来事を思い返していました。
(病院へ迎えに来てくれた時、般若のように怖い顔をしていたお母さん。
どうして、心配しただけで、あんなに怖い顔になるのか不思議。
浜口くんのお父さんとお母さんは、うちのお母さん程怖い顔じゃなかったよ。
松平くんが、浜口くんのことで泣き出しそうな顔になったとき、あたしちょっと感動しちゃったな。
なんだかんだ言っても友達思いじゃんって思った。
あたしのことは、すぐ見下すけどね。何なんだろうね。
ゆうこちゃんには絶対、そんな言い方しないのに。ゆうこちゃんが人に見下されるの大嫌いなことわかってるのかなぁ。
それにしても、ゆうこちゃんと一緒に、男の子を追いかけた時、偶然に、『幸せの家』を見つけちゃって驚いた。あたしが思い描いていた家よりも、ずっといい雰囲気の家だったから嬉しかった。
あたしがもし、ひめ子さんだったなら、あの家で幸せに暮らしていたかなぁ。
今度、遊びに行って中を見せてもらいたいな。でも、そんなことしたら、先生に怒られるかな。
先生の初恋の人、ひめ子さん。
マラソン大会の時に見つけた古い家のおばあさんの娘、ひめ子さん。
小学生の頃、高校生の男子とかけおちをしようして補導された、ひめ子さん。
先生から借りた、中学校卒業アルバムにのっていたひめ子さんは、本当にきれいで、可憐で、どんな人も魅了するような人だった。
あたしは、どうしてこんなに、ひめ子さんが気になるのだろう。関係のない、知らない人のことなのに・・・。そうだ、同じことを誰かにも言われたっけ。
そう、その後、俺は、やらなきゃならないことでいっぱいだって言ってた・・・松平くんだ。
松平くんか・・・。また出てきた。あの子のことなんか、どうだっていいのに。
そうだアルバムちゃんと先生に返してくれたかなぁ・・・。
あたし、明日早く起きて、公園に行かなくちゃ。かばん見つけにいかなくっちゃ・・・)
ももは、いつの間にか、すやすやと眠りに落ちていました。


2007-12-14 00:59  nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
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お話の練習 50 [照山小6年3組 ももシリーズ♪]


50
一方、松平くんは、浜口くんがゆうこちゃんのことを好きだと言っていたことを、思い出したのでした。
格好悪いところを見られて、宣伝されるのは嫌だろうから、友達であるももにも、その姿を見せるわけにはいかないと思いました。
それに、女の子から同情を受けるなんて、最悪です。
男は、強く格好よくありたいものです。
「松平くん、浜口くんのことが心配でしょ?あたしだって、気持ちはおんなじだよ。このまま家に帰ったって、帰った気がしないもん」
「うーん、でも・・・」
さらに言えば本当は、ももが女の子だから、あまり夜遅くまで、巻き込みたくなかったのでした。
そんなことは、言いませんでしたけども。
すると、さっきの男の人が数人の大人を連れて、こちらへやって来ました。
聞けば、救急車を呼んだとのことでした。
「君、場所わかるね。案内して」
「はい」
そうして、浜口くんは無事に救急車に乗せられて、県立病院へ搬送されていきました。
松平くんも、病院で、一緒に診察を受けることになりました。
松平くんは、すり傷だけ治療してもらい、診察室から出てきましが、浜口くんは、足にひびが入っていたため、しばらく入院することになってしまいました。
ご両親がかけつけてきて、浜口くんをしかりつけたり、ほっとした表情で話したりしていました。
ももは、病院までついていき、そこからお迎えを呼びました。
時刻は、まもなく19時になるところでした。


2007-12-10 01:30  nice!(0) 
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お話の練習 49 [照山小6年3組 ももシリーズ♪]


49
「僕の友達が、堤防の崖で怪我をしたんです。歩けないので、助けを呼んで欲しいんです」
「待ってな。今、祭りの関係者に話してきてやるぞ。怪我をした子は、今、どこにいるんだ?」
「この先のサイクリングロードを1キロほど山のほうへ行ったところです。俺、怪我をした友達を置いてきてしまって・・・」
松平くんは、急に目頭が熱くなり、言葉に詰まってしまいました。
胸がいっぱいになり、泣きそうでした。我が事ながら、信じられない気持ちでした。 
男の人は、松平くんの肩に手を置いて言いました。
「よしよし、大丈夫だぞ。おじさんたちが、友達を助けてあげるよ」
松平くんは、自分にがっかりして、無力感を覚えました。
思わず、涙ぐんでしまったことや、子供扱いされてしまったことが、くやしかったのです。
「友達って、もしかして浜口くん?」
ももは、心配そうに訊ねました。
「・・・ああ」
「松平くんも、どこか痛いんじゃない?大丈夫?」
「べつに痛くなんかないよ!」
はねのけるように言葉を返しました。
こんな時、思いがけず、優しい言葉をかけられると、調子が狂ってしまいます。
お祭りのライトが明るく感じられ、いつの間にか、日は暮れていました。
ももは、かばんを捜しに来たことを、思い出しました。
「あっ」
「何?」
「・・・ううん、なんでもない」
松平くんの顔には、「変なやつ」と書いてありました。
「赤城、祭りに誰かと来てたんでしょ?」
「ううん、あっ、ううんじゃない。そうなの。ゆうこちゃんとね。でも、ゆうこちゃん、もう帰っちゃったから。あたしも、ここに一緒に残る」
松平くんは、はっとしました。
「・・・いや、だめだ。赤城は帰って」
「えっ?どうして!?」
「赤城がいたって・・・役に立たないから!」
ももには、松平くんという人が、わかりませんでした。
さっきは、泣きそうな顔をしていたくせに、今は、こんな憎まれ口を叩くのです。


2007-12-09 03:05  nice!(0)  トラックバック(0) 
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お話の練習 48 [照山小6年3組 ももシリーズ♪]


48
ももは、ゆうこちゃんと別れて、街道沿いを歩いていました。
今日は、たくさん発見や楽しいことがあって、満足な気分でした。
直後に、あれっと違和感を感じました。
(かばんがない?やだ!どこに置いたんだっけ)
ももは、自分の足取りを思い出しました。
照山古墳公園で、たこ焼きを買ったときは、かばんを持っていたよね。
その時、お金を出そうとしたら、ゆうこちゃんが、おごってくれるって言って、だけどあたし、お金を払ったんだった。

ももは、急いで、泣きたくなるような気持ちで、公園にひきかえしました。
きっと、照山古墳公園のどこかに落ちているのです。
カバンの中には、お財布が入っています。
今月のおこづかいが、ほとんど使わずに入れてあるのです。
こういう時のももの足の速さは、マラソン大会の比ではありません。
全速力で公園めざして走りました。街道の歩道を長い間走っているうちに、公園の入り口が前方に見えてきました。

(ああ、こうやって走ってるとあの時の悪夢がよみがえってくる)
そういえば、松平くんにいじわるをされた時も、ももはこうやって、必死になって走ったのでした。
「赤城!」
突然、名前を呼ばれたような気がしました。
悪夢の繰り返しです。
ももは、聞こえないふりをして、でも気になって、走るのをやめました。
公園内は、お祭りの人手でにぎわっていました。
「赤城!何やってんの?」
「えっ!?」
みすぼらしいボロの服を着た少年が、立っていました。
ももと同じく、息を切らしています。

「松平くん!なあにその格好!誰かに襲われたの?」
松平くんは、本当にひどい格好でした。
顔は傷だらけ、上着は木の枝や枯葉やとげがついてボロボロ、おまけに上着のしたは、ランニングシャツ1枚しか来ていません。
「襲われたって・・・あのねぇ!まあいいや、今それどころじゃないんだ!赤城、携帯持ってる?救急車を呼ばなくちゃいけないんだ」
「わかった。松平くん、怪我したのね。待ってて!」
「違っ、俺じゃなくて・・・」

ももは、自分が携帯を持っていなかったため、急いで、付近にいた大人の男性に声をかけました。
「すいません!あの、救急車呼んでください!」
「はぁ?」
男性は、間の抜けた様子で、ももを見ました。
「どうかしたの?」
「えっと、えっと、あの・・・」
こんな時、説明を求められるのが、ももの最も苦手とすることでした。
松平くんが、ももに代わって、その男性に声をかけました。


2007-12-03 16:51  nice!(0)  トラックバック(0) 
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お話の練習 47 [照山小6年3組 ももシリーズ♪]


47
ももとゆうこちゃんは、照山古墳公園に着きました。
もみじ祭りの前夜祭は、これから夜になっても続きます。どこからかにぎやかな歌声がしていました。ライトアップの用意もされていました。
2人は、屋台村で、たこ焼きを買い、どこで食べようかと話していました。
「ねえ、あっちから、川の流れる音がするね。あたし、大好きなんだ。水が流れる音って」
「すごい音。心に直接響いてくる」
「川原へ降りて、たこ焼き食べよ?」
ももは、川原へ降りる階段のてすりをしっかりと握って、下を見ました。
「わっ、結構急な階段。降りられるかな?大丈夫?ゆうこちゃん」
「う、うん。今度からももちゃんと遊ぶ時は、スニーカー履いてくることにする」
「うん」
ゆうこちゃんは、先のとがった可愛いくつをはいていました。今日は、そこらじゅうを歩き回って、足が痛くなってしまいました。ももの肩につかまりながら、階段を一歩一歩降りました。川辺には、落ち葉がたくさん散らばっていました。
「きゃー、きれいな水ね」
「ほんとだ。よいしょっと。じゃあ、たこ焼き、いただきまーす」
「あれ?ももちゃん、もう、たこ焼きあけたの?早~い」
「はい、ゆうこちゃんの。・・・うん、ちゃんとたこ入ってた~よかった」
「だって、たこ焼きだもの」
「ところがね!昔、屋台で買ったたこ焼きにね、たこが入ってなかったの。それ以来、ちょっとした『たこなしトラウマ』なんだ」
「完全にサギだわね!たこ焼き屋さんに言った?取り替えてもらった?」
「うううん」
「もしもよ、もしも私だったら、一個目のたこ焼きにたこが入っていなかった時点で、全部のたこ焼きを、つまようじでさして、確認しちゃう」
「食べながら、あれっ?これもない、こっちもないって、結局食べ終わっちゃって」
「証拠は胃の中かぁ」
「おいしかったから、まあいいかって、なっちゃった」
「ももちゃんって、おおらかなのよねぇ」
「すごい小心者だから」
たこ焼きを食べ終わった2人は、そろそろ帰ろうと、階段を登りました。
「ねえ、この細い道は、どこへ続いているの?」
「鈴鳴川のそばをずっと通っているみたいだよ。春になると、桜並木が、すっごくきれいなの」
「私、お花見の時、ここへ何度も来ているのに、まだ桜並木を歩いたことって1度もないの」
「いいんだよ。お花見は、屋台のためにあるんだもん」
「そうそう。桜は、校庭でいつも見てるし。にぎやかなお祭りの雰囲気がいいのよね」
「紅葉も、学校のグラウンドにあるのを見ていればいいし」
ゆうこちゃんは、くすっと笑いました。
「食べ盛りなんだものね、私たち。花よりだんご。だんごよりたこ焼き、ねっ?」
「そういうこと!」
いつか、この少女たちにも、青春とともに、桜や紅葉を愛でる日が来ることでしょう。それはまだ何年も先になるのか、それとも、もうすぐなのかはまだちょっとわかりませんが。


2007-12-01 01:28  nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
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お話の練習 45~46 [照山小6年3組 ももシリーズ♪]


45
松平くんと浜口くんは、巨石の岩場をよじ登り、堤防の崖からさらに上の道路へ出ようと行動を開始しました。
「気をつけろ、そこ、石がぐらぐらしてるから」
「わかってるよ!うわっ」
ぐらぐらしている石の上に全体重をのせてしまった浜口くんの足首を、不安定な石が、はさみこみました。
「痛ぇ!・・・助けて!」
石をどけようと、両手で血が出そうなほどいっぱいに石をひっぱりましたが、びくともしません。
「だめだ!動かない!」
必死に足を抜こうとしますが、抜けません。
松平くんは、巨石の岩場をすごい勢いで探し回り、漬物石くらいの大きさの石を持ってきました。てこの原理で、石をどけようというのです。
「うっ!」
ところが、石はかすかにごろっと動くだけでした。もっと、棒のように長いものでなければ無理なのです。浜口くんは、足を挟まれた痛みと恐怖に、失神寸前でした。岩場がななめになっているため、下手に足をひけば、反動で、体が下へころがり落ちてしまいそうでした。
「待ってろ!」
松平くんは、今度は、巨石の岩場の上へ登って、丈の高い草むらから、蔓性の植物とすすきを根こそぎひっこ抜いて持って来ました。それらをほどけないように結び合わせ、石に巻きつけて縛り、手で持つ場所をつくりました。
「いくぞ!俺が石をひっぱるから、少しでも持ち上がったら、足を抜くんだ!せいの!」
今度は、うまくいきました。浜口くんの足は、可哀相に、大きくすりむけて、紫色になり、血が出ていました。
浜口くんは、ほっとしたのもつかの間、自分の傷を見て、あまりなことに、すぐ眼をそらしました。それから、余裕を見せようと、口元で軽く笑みを作りましたが、痛みが一気に押し寄せてきました。
「わ、笑えないや・・・」
「傷口ふさがないと。それと、よもぎどっかに生えてないかな。血止めの効果があるから」
松平くんは、そう言いながら、上着を脱ぎ、その下に来ていたトレーナーを脱いで、浜口くんの傷口に包帯の変わりに巻き付けました。
「・・・いいよ。サンキュー」
浜口くんは、松平くんの肩に手をかけ、力なく立ち上がりました。気がつけば2人とも、肌寒いくらいの気温にもかかわらず、汗びっしょりになっていました。
「・・・俺につかまって!大丈夫か?ハマー?登る?それとも降りる?」
「・・・降り・・いや、の、登る、いやどうすっかな・・・やっぱ、そうだな、登るしかないっしょ!」

46
松平くんたちは、巨石の岩場を登りきりました。
途端に、胸の中にさっと暗雲が立ち込めました。わかっていたことですが、前方に、広がる世界に圧倒されてしまったのでした。彼らの行く手をはばんでいたのは、藪でした。草というには、あまりに生長しすぎた、小さな木のようにも見える枯れ草、すすき、つる性の植物たちが、びっしりと絡まって、藪をつくっていたのです。
「ここを行くしかないのか・・・」
まったく整備されていない堤防を上がってきたのです。ここを進むしかありません。ここさえ通れば、間違いなくサイクリングロードに出られるのですから。
「行くぞ」
勇気を出して、藪をかきわけながら進んでいくと、間もなく、足元に蔓が絡まりました。足を高く上げながらそこを踏み越えた時、くつが泥だらけになりました。泥なんかないのにおかしいと思い、よくよく眺めると、それは、泥ではなくて、小さな黒いとげが、びっしりとくっついたものでした。
松平くんは、背中越しに、浜口くんに声をかけました。
「なんだこれ?黒いとげがいっぱいくっついてるよ」
すると突然、足首や袖口や首の周りなどが、ちくちくし始めました。よく見れば、トレーナーやズボンやくつにまで、びっしりと黒いとげのようなものがくっついていました。
「うわっ、なにこれ?いつの間にこんなに?落ちない、落ちないっ」
手で払っても全然とれません。このとげを取るには、ひとつずつつまむしかなさそうです。でも、今はそんな悠長なことをしていられません。取っても取っても、まだまだいっぱいくっつくでしょう。

ササッ ササッ

 草むらで、何かが動いたような音がしました。どこもかしこも藪だらけですから、何が動いたかまではわかりません。あるいは、風かも知れませんが。
そういえば、さっきから、あらゆる大きさのバッタや見たこともないような虫を見かけます。もしかすると、そういった虫などを食べるへびなどがいるのかも知れません。
松平くんたちにとって、藪の中を進むのは、思っていた以上に大変なことでした。口に出さないでいたのですが、 ついに、浜口くんが、耐えかねて口を開きました。
「マツ!今なにか変な音がしたよ・・・。俺、おっかねぇよ。ここから出ないと、気が狂いそうだよ。さっき、絶対、そこを何か通ったよな?へび・・・大蛇・・・とかだったらどうする?ばくって、俺ら、飲み込まれてさ、そうして、行方不明になって、探してもどこにもいないって、大騒ぎになったりしてよ」
「『はい、こちらは現場です!照山小6年の男子2人組が、行方不明になりました。どうやら、川で大蛇に飲み込まれ、遭難したもようです・・・』」
2人の背中に悪寒が走りました。
「怖ぇよー!冷静なおまえまで、変なこと言うと余計怖いっ」
ようやく藪を抜け出した2人は、サイクリングロードにへたりこみました。
お互いの姿を見れば、いかに大変な旅だったかがよくわかります。
「ああ、写メしたい!おまえ、携帯持ってる?俺、家に置いて来ちゃったんだよね」
「何言ってんだよ、持ってねぇよ~」
空にはバサバサと、鳥の群れが飛んでいます。
「鳥になりたいって、思わん?こういう時。空から飛んでいけば、あっという間に家につくし学校にも遅刻しない。しかも、毎朝、3階の窓から、おはようございまーすだよ」
「俺、これからおまえを、おんぶするわ」
「おっと!おんぶなんて、現実的だね。、ドラえもんにタケコプターを出してもらえば早く済むのに!」
「非現実的・・・」
「どこでもドアのほうがいいけど、かさばるからねぇ」
「ドラえもんをまず、呼んでみろ」
浜口くんは、ひとしきり、軽口を叩いた後、はぁ~っとため息をついて言いました。

「こんなこと言いたくないんだけどさ、俺、足が痛くてもう、我慢の限界。俺を・・・置いていけ」
「まじかよ!のび太くん!タケコプター!」
「誰か助けを呼んできてよ。俺、ここで待ってるからさ」
この近辺には、人が通る気配がありません。浜口くんは、寂しがりやです。こんなところに1人で置いていかれることを好むはずもないので、よっぽど足が痛むのでしょう。
「・・・わかった!すぐ戻ってくる!」
「ごめんな、迷惑かけて」
「命かけて戻ってくるから」
「大げさだなぁ、走れメロスじゃあるまいし。まだ明るいし、大丈夫大丈夫」
空を見上げると、山のすぐ上に、夕日がありました。


2007-11-29 02:22  nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
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お話の練習 44 [照山小6年3組 ももシリーズ♪]


44
一方、松平くんと浜口くんは、1キロ程歩いた川の上流で、巨石の上によじ登り、一休みしていました。ズボンとくつとくつ下を乾かしているところでした。
「俺、パンツいっちょで、原始人みたくね?」
「そんなひょろっこい原始人は見たことない」
浜口くんは、川の中をはだしで歩いていて、すべってころんで、ずぶぬれになってしまったのでした。
「うぉう!あったかいなぁ!地球温暖化ばんざい!はっくしょい!」
「すごいやせ我慢」
「小さい頃、子供は風の子って言われただろう?実践しとかなきゃ。おまえも川へ入っとけよ。俺たち、ゲームばっかしてさ、軟弱な子供だと思われてんだ。ムカつかん?」
「全然。本当のことじゃん。それに、風邪引いたら元も子もないからね」
「べらぼうめ。・・・てか、寒ぃなぁ」
陽が傾いてきました。まだまだ日差しは明るいものの、もう数時間もすれば、日が翳って夕方になってしまいます。松平くんは、巨石の上から、草木で覆われた崖を見上げました。
(この変のどこかから道路に出られないかな?帰りは、川岸を歩かないで、道路から帰ったほうがいいかもしれない。この鈴鳴川は、途中、川岸がなくなり、川の中を歩かないと進めない場所があったし、足の長い草で覆われていて、ちょっと危険だ)
「ハマー。俺、この崖、登って上見てくる。おまえ、そこで待っとけ」
「どこいくの?」
「道路に出られる場所を見つけて、そこから帰ろうと思って」
「探検おしまいにする気かよ。つまんねぇな」
「つまんないけど、仕方ねぇじゃん。俺まで、風邪引きたくないもんね」
「げっ?卑きょう者!なら、俺も行くよ」
「大丈夫だよ、原始人。原始人は、ひなたぼっこして服乾かしてなよ」
「やだよ、マツ!待て!俺も行くから」
浜口くんは、濡れた服に袖を通しました。
「うぇ~死ぬ!」
「気合だ!気合で着ろ!」
「よっしゃ!くぉー!着たぞ!行くべ!」
さあ、崖登りに挑戦です。


2007-11-23 01:09  nice!(1)  コメント(1)  トラックバック(0) 
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お話の練習 41~43 [照山小6年3組 ももシリーズ♪]


41
グラウンドの横の道を歩いていると、もも達の50m程先に、小学生がいました。道の真ん中に座り込んでいます。ランドセルが大きく見えます。まだ低学年の男の子のようです。
「あの子、まだ1年生じゃない?ちっちゃいのに、今帰りかしら」
「下校時間、とっくに過ぎてるよね」
男の子は、道の真ん中で、ランドセルのふたを開け、なにか探しているようでした。ももは、自分がすごくお姉さんになったような気がして、男の子の横に座り、声をかけました。
「ちょいと通りがかりのもんだけど、きみ、どうしたの?」
男の子は、無視していました。
「お家の鍵をなくしちゃった?」
ももは、自分の経験から想像して聞きましたが、男の子は、何も言いませんでした。
「お腹が痛くて、休んでるの?」
「何か、落としたとか?」
「道の端っこによけないと危ないよ?」
男の子に何を話しかけても、首を横に振るので、ももは、困ってしまいました。ゆうこちゃんは、最初立って見ていましたが、スカートを手で払い、一緒に地面に座ると、ちょっと強い調子で言いました。
「ねえ、きみ。口があるでしょ。口は何のためについているんだと思う?」
男の子は、ちょっとびっくりして、ゆうこちゃんのほうを見ました。ゆうこちゃんは、にっこりとして、ももの背中に手を当てて、言いました。
「このお姉ちゃんは、きみのことが心配なの。だからいろいろ質問しているのよ。」
男の子は、きっと口を結んで、怒っているようでした。ゆうこちゃんは、強い態度で言いました。
「わかったわ。じゃあ、きみがここで、車にひかれたって、お姉ちゃんたち、知らないから!」
「ほんとに、車が来たよ」
ももとゆうこちゃんは、土手のほうへよけました。男の子は、顔を真っ赤にしながらも、意地になっているのか、よけようとしませんでした。前方から、クラクションを鳴らす音がしました。
「んもう!ももちゃん、あの子のランドセルごとひっぱって!私は、足を持つから!」
「OK!」
男の子のからだを2人がかりで持ち上げて、土手のほうへ移動させました。
「車にひかれたら、死んじゃうのよ!死んだら生き返ったりしないのよ!」
男の子は、ついに泣き出してしまいました。
「なによ、泣くくらいなら、最初からよければいいんじゃない」
そう言ったゆうこちゃんの顔も真っ赤になっていました。男の子は、立ち上がると、そのまま、とぼとぼと歩き出しました。
「あの子、なにかあったのかな?家に帰りたくなかったりして・・・」
「そういえば、名札を見るの忘れちゃったわ。・・・どこの子かしら?ちゃんと家に帰るかしら?ごはんだってまだなのよね、きっと・・・」
ゆうこちゃんは、さっき買ったチョコレートの残りをバッグから出しました。
「これ、あの子にあげてくるわ」
ももは、なにもあげるものがありませんでした。ゆうこちゃんは、走って男の子に呼びかけました。
「ねえきみ!ちょっとストップ!」
男の子は、一瞬振り向くと、途端に走りだしました。また、怒られると思ったのです。
「待って!待ちなさいってば!」
こうなったら、ゆうこちゃんも、意地になって追いかけます。男の子は、人の家の畑の間をぬって、道なき道をどんどん行きます。
「あっ、あんなところに!」
男の子は、畑の終わりで、ランドセルを空中へ放り投げました。ランドセルは、石垣の上のフェンスを越えて、向こうに落ちました。男の子は、すばやく石垣とフェンスをよじ登ると、中へ消えてしまいました。
「あたしが行く!」
ももは、ゆうこちゃんを追い越して、男の子の後を追いました。
「あ、待って、ももちゃん!チョコレート!」
ゆうこちゃんも、ももの後を追って、ゆっくりと畑の中を進みました。

42
「うわ!ロッククライミングしなきゃ!」
男の子が乗り越えて行った石垣とフェンスは、3mの高さがありました。けれども、勇気さえあれば登れると、ももは思いました。
 まず、右手と左手で石をつかみ、足をかけ、体重をのせます。そして上を見て、またさらに上の石をつかみ、足がかりをみつけ、体重をかけます。その繰り返しで上へ上がっていけばいいのです。よいしょ、こらしょ、どっこらしょ。何回か繰り返して、やっとフェンスへ手が届きました。するとその瞬間、なにか生暖かいものが右手に触れました。
「きゃぁーーーーーーーーっ!」
「どうしたの!ももちゃん!大丈夫!?」
ゆうこちゃんは、この時、道路のほうへ周りこんでいたのですが、驚いて走って戻ってきました。
生暖かいものの正体は、犬でした。犬が近寄ってきてフェンス越しに、ももの手に鼻息をかけペロペロとなめたのでした。
「なんだもう、ああ、びっくりした~。ゆうこちゃ~ん、犬がいたのぅ」
「それってどんな驚きの犬よ?ももちゃん、今、もし大声大会に出場してたら、間違いなく優勝してたと思うわ」
ももは、おっかなびっくりの声をだしながら、フェンスの上まで登ると、ふーっっと息をつきました。
「よぉしよし!いいこいいこ。静かに静かに・・・」
犬をてなずけて、地面に降り立った時、ゆうこちゃんが、正面の門から、いかにも驚いた調子で入ってきました。
「大変よ!ももちゃん、今度は正真正銘、驚いちゃっていいわ!じつは、この家は、例の家だわよ、『お騒がせの家』」
ゆうこちゃんは、急いだあまり、変なことを言いましたが、ももにはちゃんと通じました。
「まじで!?」
正しくは、『幸せの家』です。でも、2人にとっては、それはこの際、どちらでもいいことでした。いつの間にか探していた家の場所に到達していたという驚きが、ちょっとした言葉を間違えた驚きよりも、数百倍も勝っていたのでした。

43「これが施設?」
ゆうこちゃんは、ももと一緒に並んで、家を見上げました。丸太でできたロッジ風の家は、素敵なつくりでした。小さな庭と池、そして階段の上がり口には、テリア犬の形の案内板があり、「welcome幸せの家」と書かれていました。
敷地内には、ブランコや滑り台やジャングルジムがありました。付近の土地より少し高台ですから、ジャングルジムのてっぺんに登ったら、街一帯が見渡せそうでした。
「こんなに可愛い家だったなんて」
ももは、ひめ子さんが住んでいた養護施設は、もっと暗くて陰気な家なのだと勝手に思っていました。でも、そうじゃなかったことに、少しずつ嬉しさがこみ上げてきました。
2人は、窓から家の中をのぞきこみました。見えたものは、カウンターテーブルでした。目線を手前へ戻すと、他にも木製のテーブルと椅子がありました。ここは、食堂なようでした。本棚やストーブもありました。
誰かが明るいほうへ出てくるのが見えました。さっきの男の子でした。お盆を持って、テーブルにつきました。どうやら、これから食事をするようでした。
「いたいた。あの子、これからお昼ごはんを食べるみたい」
ゆうこちゃんは、男の子を見ているうちに、少し落ち込んだ様子になりました。
「ねえ、ももちゃん、また日をあらためて、ここへ来てもいい?その時には、私ね、こんなチョコの余りじゃなくて、もっとちゃんとしたお菓子をあの子のためにたくさん持って来たいの」
ももは、ゆうこちゃんが男の子に対してどういう思いを抱いているのか、なんとなくわかりました。ゆうこちゃんは、続けて言いました。
「男の子を、喜ばせる作戦を考えたいわ。なにもかもぶっ飛んでいくくらいの」
「『幸せの家』潜入計画ってとこだね」
「それよそれ!何をどうやって持っていくかよね。いきなり理由もなく入っていくわけにもいかないし、どうすればいいかしら・・・?」
その時、ゆうこちゃんのお腹がが、きゅるきゅると鳴りました。
「今何時?なんだか小腹がすいてきちゃったわ。おはずかしいことね、ほほほ」
ゆうこちゃんは、わざとらしくお嬢様っぽく笑いました。
ふと見ると、近くを歩いていた親子が、歩きながら、わたあめを食べていました。照山もみじ祭りへ行った帰りのようです。
「公園でもみじ祭りやってるんだよね。行ってみない?」
「そうね」
2人は、照山古墳公園へ向かって、歩き始めました。


2007-11-22 14:46  nice!(1)  コメント(1)  トラックバック(0) 
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お話の練習のつづき 39~40 [照山小6年3組 ももシリーズ♪]


39
松平くんと浜口くんは、照山古墳公園に到着しました。
照山もみじ祭りの前夜祭が催されているところでした。
サイクリングコースのところどころに、小さなお子さん連れの人たちがいて、楽しそうに笑ったり騒いだりしていました。
今日は、サイクリングには不向きな日のようです。
松平くんと浜口くんは、自転車を降りて、近くを流れている鈴鳴川の水がさわれるところまで下りていきました。
水は、ゆっくりと流れて光っていました。
松平くんが、突然、裸足になり、水の中へ入りました。
「おおっ!すげぇ」
「魚いる?」
浜口くんも、くつとくつしたを放り投げて、松平くんに続きました。
「冷てぇ!」
「なぁ、今度さ、つりしようぜ。魚つり」
赤や黄や橙色の葉が、浮かんで流れてくるのを手でひろって、上流へ目をやると、川岸のあたりの紅葉が、水の面へ映りこんでいました。
「前に、照山へ登った時に、釣り場があったのを、俺、見たんだ」
「行ってみよう!」
浜口くんが、目を輝かせました。
「このまま、歩いて上流へ行ってみよう!」
「おし!」
この川の名前は、鈴鳴川といって、照山の上流から流れてきているのでした。
川床は浅く、川の岸には、大小さまざまな石ころがあり、踏んで歩いていくのはいかにも楽しそうに思えました。
こうして、2人の男子は、川を遡る小さな旅に出たのでした。

40
ロボット公園の小山から下りて、ゴミを捨てた後、ももとゆうこちゃんは、「幸せの家」を探しにでかけました。
学校のグラウンドの真南に立ち、土に埋め込んであるタイヤの上にのって、それらしい建物はないかと背伸びして探しました。
「『幸せの家』って、何色の建物なんだろうね」
「わからないけれど、たぶん、ピンクかなぁ」
「それは、ももちゃんのカン?」
「うん。幸せって、ピンク色のイメージなんだよね」
それを聞いて、ゆうこちゃんは、考えました。
「幸せ。私だったら・・・幸せっていうと、明るい色。暖炉の火の色かな、オレンジ色。暖かそうでしょ」
ももは、タイヤの上に座りました。
「みんなにとっての本当の幸せの色は、何色なんだろうね?あ、ゆうこちゃん、あたし急にひらめいちゃった」
ももは、手をパンとたたきました。
「虹の色」
ゆうこちゃんも、パンと手をたたきました。
「きれい」
「なないろの虹の家を探しに行こうよ」
「行きましょ!でも、そんな家、現実的に、あるかしら?ももちゃん」
「あるかもしれないよ。行こう、ゆうこちゃん」
2人は、グラウンドを出ました。


2007-11-17 11:54  nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
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お話の練習のつづき 38 [照山小6年3組 ももシリーズ♪]


38同じ頃、松平くんと浜口くんは、自転車に乗って、川原の小道を走っていました。
浜口くんは、片思いの相手がばれたことで、恋話をしたくてしょうがないようでした。
「マッツ、今度はお前の番!俺が白状したんだから、ちゃんと言え」
「まじで好きな子いない。神様に誓って!」
「ほんと?」
「今んとこ」
「なんだぁ、よかった。最大のライバルが1人減ったぁ」
「最大のライバル?違うんじゃない?お前は、女子とよく話すほうだけど、俺、あんましゃべんないし」
「ばっかだなぁ!俺の研究では、そういうやつが一番、危ないの!モテようと思ってないから、逆に女子の気をひくんだよ!あぁ、またしゃべっちゃった!こんな女子にモテる秘訣しゃべりたくないのにさぁ」
「でも女子達、ほんとにそんなこと考えてるかなぁ。お前みたいなのが人気あるだろ」
松平くんと浜口くんは、川原の小道を照山古墳へ向かって自転車を走らせていました。
照山古墳には大きな池があり、その周りがサイクリングコースになっているのです。
そこをめぐって戻ってくるのは、とても気持ちのよいものでした。
「もうじき卒業だよな、そしたら中学。マツは、付属中受けるの?」
「俺は、受けないよ。照山中に行く。付属中は、金がかかる。もったいないじゃん」
「そうかぁ、お前ってさ、頭いいじゃん?だから、中学受験するんだとばっかり思ってた。そうかよぉ、なんだ、また一緒じゃん」
「おう」
「そうすっと、倉沢は、やっぱ付属中受けんのかな?塾でそんな話してない?」
「倉沢は、親が付属中に行かせたがってるのは間違いないよ。本人は、赤城と一緒に照山中に行きたいと思ってるんじゃないの?予想だけど」
「だよな。でも、本当はどっちなんだろな?」
「俺に聞かんでくれい」
「でもよ、倉沢に聞けないからねぇ」
「普通に聞いていいでしょ、全然」
「そんなことしたら、好きなことばれちゃうだろ、普通に!」
「なんだよ、ハマー!男らしく、びしっと!『倉沢!どこの中学行くつもり?俺に教えてくれよ』って聞けばいいだろ。いつもみたいに普通に!」
浜口くんは、シュンとしょぼくれてしまいました。
「だめなの!倉沢とは話せないよ。顔を見たら、あがっちゃうんだ」


2007-11-15 01:51  nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
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お話の練習のつづき 37 [照山小6年3組 ももシリーズ♪]


37
コンビ二で2人は、
おにぎり、
おでん(たまご、はんぺん、ちくわ)、
唐揚げ、
ほっとダージリンティーとミルクティー、
マンゴープリンとミルクプリン、
ポテトチップス、
カカオたっぷりチョコレートを買い込みました。
それでも、おつりは、5千円札一枚と千円札3枚分と小銭が残りました。

「好きなものをたくさん買ったのに、まだこれだけお金が残ったわ。ママに返さなくっちゃ」

ゆうこちゃんは、おつりを大事そうにお財布にしまいました。
 ロボット公園へ戻ってきて、あちこちにつかむ取っ手がついた小山の上まで登りました。
そして、買いこんだものを出して、お茶にしました。

「この小山の下って、くぐれるじゃない?私、小さい頃はね、怖くってだめだったの」
「ほんとに?どうして?楽しいのに」
「暗くて狭いところが苦手なのよね」
「ああ!修学旅行でさ、善光寺に行ったとき、お寺の下の真っ暗な道を通ったよね?
あの時、ゆうこちゃん、すっごく叫んでたよね!」
「そうそう!もう思い出したくない。
あの時、怖くて何が何だかわかんなくなって、一瞬前の人の手を離しちゃったの!
それから急いで、誰だかわかんない人の手をつかんだの!通路から出てみたらさ、それが男子だったのよ。
びっくりするやら、はずかしいやらで、急いで離したんだけど」
「そうだったの~あたし、その話、お初で聞いた」
「誰にも言ってないのよ、人生の汚点よ」
「え?その相手って誰だったの?」
「ちょっと待って。おでんがさめないうちに食べちゃおう」
コンビ二で買ったおでんの容器のふたをあけると、温かい湯気が上がりました。
「何から食べる?」
「たまご」
「あたしは、ちくわにしよう」
ももは、たまごは最後のお楽しみにとっておこうと思っていました。


2007-11-11 16:43  nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
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お話の練習のつづき 36 [照山小6年3組 ももシリーズ♪]

36
 ももは、家に帰ると、手を洗い、3匹のねこを一匹づつ抱っこし、ただいまを言った後、テーブルにつきました。
土曜日のお昼ごはんは、お母さんが朝のうちに作っておいてくれたサンドイッチでした。
6枚切りの食パンを包丁で2枚に分け4分割したものが、8つ皿に盛付けてありました。
具の組み合わせは、ベーコンとチーズとレタス、トマトと甘い入り卵のマヨ和えときゅうりの2種類。
サンドイッチの脇には、マーマレードが添えてありました。
ももは、NECOCHAN印のマグカップにポットのお湯で作った紅茶を入れ、そこにミルクと砂糖を入れ、かき混ぜました。
食べることに関しては、急いでいても手間をおしまないのが、赤城家流なのでした。
そして、ももが1人の時は、決して火を使ってはいけないことも、固く約束されていました。
「おいしい」 
ももは、おいしいものを食べている時は、必ず、「おいしい」と無意識のうちに言うのでした。
3匹のねこが、全員ひざの上にのってこようとしましたが、いつものことなのであまり気にせず、食べながら考えました。
(今日の午後は、やっとゆうこちゃんと一緒に遊べる。すっごく嬉しい。楽しみ!)
 待ち合わせのロボット公園に着くと、ゆうこちゃんがいました。
「ごめんね、ゆうこちゃん、遅くなっちゃった」
「だいじょうぶ。ももちゃん、お昼食べた?」
「うん。ゆうこちゃん、まだなの?」
「そうなの。帰ったら、お手紙があって、ほら」
ゆうこちゃんは、一万円札をひらひらさせました。
ゆうこちゃんのママは、お友達とランチに出かけてしまったので、お金を置いていったのでした。
「うわぁ、リッチ」
「これで、私のお昼ごはんと、おいしいものいっぱい食べに行きましょ!」
ロボット公園から見える場所に、コンビ二がありました。2人はまず、そこへ向かったのでした。
                                


2007-11-10 18:27  nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
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お話の練習 第一章 35 [照山小6年3組 ももシリーズ♪]


35
廊下を歩いて帰る途中で、松平くんは、気持ちがムカムカしていました。
「マツ、何持ってるの?」
浜口くんが、松平くんが何も言わないでスタスタと歩いていくのを追いかけました。
「先生から卒業アルバムを借りてたんだ。赤城にも貸しててさ、返してもらったところ」
「倉沢じゃなく?」
「違うよ」
「へえ。俺にも見せて」
「ん」
松平くんは、浜口くんに、袋ごとアルバムを渡しました。
「先生の若かりし姿を、見たかったってわけかよ?つまんねぇな。けど、女子は、そういうの、変に喜んだりするもんなんだよな。マツケンも、女子に目覚めたんかい」
「女子なんか、つまんねぇよ」
浜口くんは、テレビに出てくるジャニーズjrのバラエティ班にいそうな雰囲気の明るい子でした。学校の門を出て歩きながら、松平くんと浜口くんは、縁石を飛び移りながら歩いていました。
(どうしようか)
松平くんには、ももに言うべきか迷っていることがありました。
それは、昨日の夜、先生の卒業アルバムを見て発見した、白井ひめ子と黒川ゆり花がそっくりだったということでした。
「マツさ、うちのクラスで誰が一番、可愛いと思う?」
「誰も」
「なにカッコつけてんだぁ?おまえ、腹立つな~」
「ハマーは、倉沢ゆうこでしょ」
「げっ?まじ?おまえにいつ言った?俺?」
浜口くんは、頬っぺたがみるみる赤くなりました。
「見ていれば、わかるよ」
「えー!すごいな。マツは?マツは?」
しつこく聞かれて、松平くんは、答えるのがめんどうくさくなり、浜口くんから先生の卒業アルバムを受け取って、3年9組の黒川ゆり花を指差しました。
「こういう子がいい」
「年上かよ!?」


2007-11-09 00:33  nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
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お話の練習 第一章 34 [照山小6年3組 ももシリーズ♪]

34
きゃっきゃとはしゃぎながら目的を果たしたももとゆうこちゃんは、
松平くんの机に、アルバムを入れようと、教室に戻ってきました。
松平くんは、工作クラブに入っています。
今の時間は図工室にいるはずでした。
ももは、昨日、塾の時間をおしてまで付き合わせてしまったことを、松平くんに謝りたいと、ひそかに思っていました。
でも今日は、ゆうこちゃんと一緒に行きたいところもあるので、無理かもしれません。
松平くんの机にアルバムを入れて帰ることにしましたが、
彼の机の中には、ノートやら参考書やらが詰まっていて、入れることができませんでした。
「入らないね」
「何この机?あっ」
机の中から、本が何冊か、床へ落っこちました。
ゆうこちゃんが、しゃがんで拾いました。
「科学の本、SFマガジン、飛行機図鑑。学校にこんな本持ってきてるんだ、あの子」
そこで後ろから、声をかけられました。
「なにしてんの?俺の本、勝手に出さないでくれる?」
松平くんと友達の浜口くんが、クラブを終えて、戻ってきたのでした。
ゆうこちゃんは、早速カチンときたようでした。
「マツケンに言ってやろうと思ったの。弱いものいじめは最低よ!」
「弱いものいじめ?」
松平くんは、ももを見て、変な顔をしました。
「俺がそんなこと、するわけないじゃん」
今度は、ももがカチンときました。
「机の中は、物が一杯で入りませんでしたっ!」
「悪かったね!これから先生のところへ行って、アルバム返しに行くんだ。かしてよ」
ゆうこちゃんからアルバムをさっと取ると、松平くんは、教室を出て行きました。
ももは、どうしようかと思いました。
「いいじゃない、あいつにはいい薬よ。ほっときましょ」
ゆうこちゃんは、言いたかった一言が言えて、満足したようでした。
ももは、ゆうこちゃんほどには、なんだか気持ちが晴れませんでした。


2007-11-08 00:18  nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
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お話の練習 第一章 32~33 [照山小6年3組 ももシリーズ♪]


32
 その晩、ももの家の電話が、鳴りました。
かけてきた相手は、ゆうこちゃんでした。
「ももちゃん?ごめんね、今日先に帰っちゃって。私、塾かけもちの日で、急いでいたの。具合はどう?」
「うん、もうだいじょうぶ、ごめんね」
「そう、よかったわぁ」
ももは、今日の放課後、松平くんと一緒に、先生の家を訪ねたことを話しました。
「そういうわけか、マツケンが、塾に遅れたのは」
ももは、松平くんが、塾へ行くと言っていたことを、完全に忘れていました。
「あたし、思い切りサボらせちゃったんだね。どうしよう」
「マツケンが、自分から行くって言ったんでしょ。だけどねぇ、あの子がアルバムを見たがるなんて、おかしいと思うわ」
ゆうこちゃんは、思いついたように言いました。
「あのこって、意地悪なとこあるよね、ムカつく!今日さ、ももちゃんが倒れて、保健室へ連れて行ってくれた時は、いいやつだと思ったのに。見損なったわ。明日、文句言ってあげるね」
「ありがと。でも、いい、いい。あたしも、ちょっと、弱気なとこがあったんだ」
そして、明日、一緒に、マツケンからアルバムを取り返す約束をして、受話器を置きました。
 
33
土曜日は、いいお天気でした。
学校へ着き、教室へ入ると、自分の机の中に、少し見えるようにして、茶色い紙袋が入っていました。
(なにこれ?)
中身は、若山先生の卒業アルバムでした。
それと、一枚の紙切れが入っていて、次のように書かれていました。

『見終わったら、俺の机に入れておいてくだすわい 松平より』  

ももは、松平くんのほうを見ましたが、彼は、男子としゃべっていました。
予鈴がなり、全員、席に着きました。
朝の会が始まりましたが、ももは、落ち着かず、早くアルバムが見たくてたまりませんでした。
 土曜日の授業は、午前中で終わりです。
午後は、クラブ活動をする人だけが残り、後は帰りの時間になります。
皆とさようならをした後、ももは、ゆうこちゃんと2人で、先生のアルバムを持っていって、屋上へ続く階段の途中で、座りました。
ここなら、あんまり騒がしくないし、ゆっくりお話ができます。
秘密の相談をしたいとき、ちょっと泣きたくなったとき、ここは、とてもいい場所でした。
「この人が、ひめ子さん・・・きれい」
アルバムを開き、3年7組のひめ子さんを見て、ももは、鳥肌が立ちました。
中学生のひめ子さんは、ももの想像よりも、ずっと大人びて感じられました。
ゆうこちゃんは、ひめ子さんの写真を見つめて、うっとりと言いました。
「きれいなひと。先生の初恋の人がこの人って、分かる気がするわ」
そして、ため息をつきました。
「白ゆりの姫だわ、まさしく」
2人は、うなずき、続いて先生の若かりし姿を見て、思わず笑いました。
「坊主あたまだ。可愛い!」
「ほんとだ!」
「笑える!」
2人は、若山先生には悪いと思いながらも、階段の踊り場に響き渡るくらいの声で、笑っていました。


2007-11-07 00:43  nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
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お話の練習 第一章 30~31 [照山小6年3組 ももシリーズ♪]


30「よし、ゲットした!」
「やったぁ!」
「じゃ、これは、俺が、一晩、預かるから」
「え~!?なんで!?」
「当然でしょ。俺が、貸してもらったんだもん」
ももは、反論しました。
「待ってよ!私が、ひめ子さんのこと、どうしても見たくて、お願いしてたのに」
ももが、手を伸ばすと、松平くんは、さっとアルバムを隠して、
「俺が先!明日、返すよ。じゃね!」
松平くんは、さっさと自転車に乗り、ペダルを漕ぎはじめました。
「松平くん、なんて意地悪なの!」
ももは、松平くんの自転車を追いかけて、走りました。長ぐつを履いているのも忘れて、全速力で走りました。途中で、長くつが脱げて、ころびそうになりました。
松平くんが、自転車のブレーキをかけました。
「しつこいなー!いつまでついてくる気?」
「はぁ、はぁっ、アルバムを返してもらうまでだよっ」
ももは、長ぐつを脱いで、両手で持ちました。こうなったら、100M競争の時みたいに、走るしかありません。
「あぁ、赤城ん家が、見えてきた。じゃね!明日渡す!」
ももは、松平くんから、アルバムを取り返すことはできませんでした。

31松平くんは、家に帰り、夕食を済ますと、自室へ入り、机に向かいました。明日の予習を済ました後、いつもは、ゲームをしたり、ネットをしたりするのですが、今日は違いました。若山先生の中学校の卒業アルバムを、見つめていました。松平くんは、先生の時代の卒業アルバムが、どんなものなのか、単純に興味がありました。ももに、このアルバムを先に貸さなかったのは、もともとの動機はどうであれ、確かにあの時、自分が言い出さなければ、借りることができなかった、それが、理由でした。
「あいつが、まごまごしていたから、いけないんだ」
1ページ目には、校長先生の挨拶がありました。1組から9組まで、順にページをめくっていきました。
「クラスが多かったな、昔は」
若山先生の名前は、3年5組にありました。
「先生、変わってない!」
若山先生は、のっぺりとした顔立ちが、今と一緒でした。いかにも純朴そうな少年でした。
3年7組のページを開いた瞬間、写真前列にいた美少女が目に飛び込んできました。その美少女の名前は、「白井 ひめ子」と印字されていました。
「あ」
美醜の判断基準は、今も昔も、あまり変わらないのかもしれません。
(こんなにきれいな子は、学校中探しても、いないよな)
松平くんは、さらに、一ページづつめくり、3年9組のページを開きました。
「あれ?」
さっきと同じことが起こりました。ページを開いた瞬間、目に飛び込んできた美少女の写真があったのでした。その子は、髪はショートカットで、日に焼けて、活発そうな印象にみえました。
「俺的には、こっちの子のほうが。あれ?・・・にしても、この顔は・・・」
松平くんは、3年7組を、もう一度、見直しました。そして、もう一度、9組に戻りました。
「イメージは全然違うけどな、白井ひめ子と、顔がそっくりだ。名前は・・・黒川ゆり花」
松平くんは、アルバムを閉じました。


2007-11-06 01:48  nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
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お話の練習 第一章 28~29 [照山小6年3組 ももシリーズ♪]


28「何だい?母さん。今、取り込み中なんだ」
「聞こえちゃったのよ、あんたの学生の時のアルバムは、私が、全部取っておいてあるの。見る?」
「母さんが持っていたのかよ」
若山先生は、あきれた口調でいいました。
「引越しの時、あんたの部屋の押入れで見つけて、ちゃあんと、取っておいたの」
「人の部屋に勝手に入らないでくれよ」
「ごめんねぇ、でも、あんた、見ないでしょ、アルバムなんて。懐かしいじゃないの。母さんだって、たまに、見たいじゃないの」
「まったく、やめてくれよ。母さんは、どこまで人騒がせなんだ」
先生が、廊下で、ため息をついている頃、、客間で、松平くんが言いました。
「話がようやくわかってきた。赤城、なんでそこまで、他人のことが気になるの?俺にはどうでもいいことに思えるけど」
「それは・・・あたしにも、わからない。でも、どうしてだか、気になって仕方のないことが、松平くんにも、あるでしょう?」
「俺は、ない」
「あたしは、気になることばっかりあるよ」
「こっちは、やらなきゃいけないことでいっぱいだよ。なぁ、先生がアルバムを持っていないなら、ここにいても、仕方ないし、そろそろ、帰らない?」
2人は、立ち上がって、廊下へ出ました。
「先生、お邪魔しました」
先生は、玄関まで見送ってくれました。

29あたりは薄暗くなっていました。
「結局、見せてもらえなかったね、アルバム」
「骨折り損のくたびれもうけってやつ」
「ごめんね。もう遅くなったし、急いで帰らなくっちゃ」
すると、先生の家の石畳をかけてくる音がして、門扉が開きました。
先生のお母さんでした。
「あなたたち」
先生のお母さんが、手招きしました。
「はい、これ」
手渡されたものを見ると、それは、古い卒業アルバムでした。
「博之が、渡しそびれたものよ。わざわざ見に来たんでしょう?持って行って」
ももは、当惑しました。、
「先生は、アルバムは、どこかへやったって言っていました」
「違うのよ、私が、しまっておいた場所を、あの子が知らなかったんだわ。ごめんなさいねぇ」
ももは、受け取っていいものか、考えていました。先生は、いいと言ったのだろうか。
すると、松平くんが言いました。
「ありがとうございます。僕、見たいです。でも今日はもう遅いので、少しの間お借りしていいですか?先生には直接、僕からお話して、そして、お返しします。それで、いいですか?」
「ええ、構わないわ。そうしてちょうだい」
松平くんは、うなずいて、アルバムを受け取りました


2007-11-05 00:48  nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
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お話の練習 第一章 26~27 [照山小6年3組 ももシリーズ♪]

26照山街道は、車が行き交い、歩道には、会社帰りの男性や、スーパーの袋を持った女性や、高校生の団体が、歩いていました。
反対側の歩道から、自転車に乗った男の子が、走りながら、なにかこちらへ向かって叫んでいました。
「おーい!」
それは、松平くんでした。
「やっと気がついた、赤城、まだ学校にいたの?」
「うん。松平くん、どこ行くの?」
「これから、塾へ行くとこ」
「そっか、勉強がんばって」
「言われなくてもがんばってるって。じゃ」
「2度目のばいばい」
ももは、歩き出しました。
松平くんは、ちょっと気になったので、自転車をくるっと回転させ、止まりました。
「聞くけどさ、先生のアルバムを見ると、なにかいいことでも、あるの?」
ももは、お昼の放送のことを、話しました。
「あの話のね、ひめ子さんがいなくなったことは、本当のことなの。そのひめ子さんが、偶然、若山先生の同級生だってことが、わかって。それで、写真をみせてもらいたいと思ったの」
「ふーん・・・」
ももは、松平くんの反応が鈍いことに気がつきました。
「松平くん、お昼の放送、聞いてくれなかったの?」
「聞いてなかったよ、正直、俺は、給食の時、放送なんて、真剣に聞いたことがない」
ももは、放送委員です。委員としても、もも個人としても、松平くんの言葉を聞いて、なんだかとっても傷つきました。
「松平くんて、冷たいね!もう、いいよ。ばいばい!」
ももは、すたすたと歩き出しました。松本くんは、さすがに、悪いことを言ったと思い、大きな声でいいました。
「直接、先生ん家に行ってみたら?俺、知ってるよ」
ももは、立ち止まりました。
「ほんとに?」
「通り道だからさ」

 27ももは、松平くんと一緒に、先生の家を、訪ねました。
先生の家は、照山街道の一本となりの道を行ったところにあり、進学塾から、そう遠くない場所にあるのでした。
「この家が、そう」
松平くんは、指差しました。
「ほら、ね。表札見てよ」
「若山」と書かれていました。
松平くんは、自転車を、門の前に停めました。門から中に入ると、庭があり、石畳を踏み歩いていった先に、玄関がありました。松平くんは、呼び鈴を鳴らしました。
ピンポン、ピンポン。
「はーい」
先生のお母さんらしき、年配の人が、エプロンをつけて、出てきました。
「こんにちは。若山先生は、お帰りですか。僕たち、先生にお話があるんですが」
「あらまあ、そうなの。いらっしゃい、今帰ってきたのよ。どうぞ、上がってくださいな」
「失礼します」
松平くんは、ももに合図して、くつを脱いで上がりました。ももも、急いでくつを脱ぎました。2人は、客間へ通されました。
「そこで、待っていらっしゃいね。博之!生徒さんが、あなたに会いにみえてるわよー!」
すると、2階から、
「えー?なんだい?」
「生徒さんが、来ているのよー!」
先生のお母さんは、さらに、大声で呼びました。
「分かった。すぐ行くよ!」
ドタドタと、階段を駆け下りる音がして、先生が、まもなく現れました。
「君たち、一体、どうしたんだい?」
「僕は、付き添いなんです」
ももは、どぎまぎしながら言いました。
「あの、あたし、今日は、具合が悪くなって保健室で寝てしまって、帰りの会にも出なかったんです。」
「そうだったね、先生も心配してたんだ。でも、その様子じゃ、もう大丈夫だね。うんうん、級長、それで、赤城くんを、家まで送ってあげるのかい?」
「いえ、僕は、そういうわけじゃなくて」
そこで、先生のお母さんが、現れました。
「どうぞ、何もないけれど、お茶でも飲んでいってね。あなた達は、博之のクラスの?」
「はい。いつもお世話になっています」
「どうぞ、ごゆっくりね」
先生のお母さんは、会釈して、部屋から出て行きました。
「それで、君たちは、他に何かあるんでしょう?」
先生が問いかけてくれたので、松平くんは、言いました。
「赤城が、先生に話したいことがあるらしいです」
ももは、先生に、嫌がられるかもと思いつつ、聞いてみました。
「先生の卒業アルバムを、見せてもらいたいと思って来たんです。だめですか?」
先生は、片目をつぶって困った顔をしました。
「うーん、実は、アルバムを、どこかへやってしまったんだ」
「ええっ」
「確か、しまってあったはずなんだが。本当にごめん」
「そうですか・・・」
「それから、僕のアルバムには、ひめ子さんはのっていない。先生は、南小出身だからね」
「えっ、そうなんですか。あたしてっきり同じ学校だと・・・」
「君たち相手に、先生の初恋の話なんて、学校では絶対にしないと思うから、せっかく来てくれたことだしね、今しゃべってしまおう。白井ひめ子さんは、そりゃあ可愛くて、先生はひとめぼれしたわけだよ、わかるだろう?松平くん」
「はっ!?いや、まあ」
突然、話をふられて、松平くんは、めずらしく慌てました。
「いやいや。いいんだよ。僕が、白井ひめ子さんを最初に見たのは、書道教室だった。当時は、あまり会話した記憶がない。遠くから見ているだけだったからね。字がとっても上手な子だった。それから、中学校で再会してね」
先生は、腕組みをして、話を続けました。
「中学校で、1年生の時に同じクラスになった。それからクラス替えがあって別々になった。部活もクラブも委員会も違っていたから、たまに廊下ですれ違うくらいの存在だった。ひめ子さんは、おとなしいのに、とても目立っていた。まるで、一輪挿しのゆりの花のようだった。ゆりの花は、たった一本でも生けてあれば、あたりによい香りを放つだろう。その香りは、学校中の男子生徒を酔わせるほどのものだった。先生もそのうちの1人だったと、こういうわけです」
ももは、先生の話に聞き入っていました。
「赤城さんは、その後、おばあさんの家に行ったのかい?」
ももと松平くんは、顔を見合わせました。ももは、先生に、一人で行かないほうがいいと言われていたのに、一人で行ってしまったことに今、気がつきました。
「あの、あたし、一人で・・・」
先生は、とくに怒るわけではありませんでした。
「おばあさんの感じはどうだった?」
「おばあさん、元気です。あたしが、ひめ子さんのことを聞くと、ひめ子さんのことはもういいんだって言っていました・・・でも、あたしは、おばあさんの気持ちは、違う気がするんです。」
ももは、思っていることを口にしました。もっともっと言いたいことはあるのに、うまく言葉になりませんでした。
「おばあさんがそういうのなら、ひめ子さんのことは、これ以上触れないほうがいいのじゃないかな。心にいつまでもひめ子さんをとどめていても、求める答えは出ないかもしれない。赤城さんの気持ちは、分かるけれどね。いろいろな家の事情があるよ。家族が揃っているのが一番だと、先生もそう思う。だけど、それがかなわない人もいる。僕だって、ひめ子さんの家の事情は、多少なりとも気にはなっているし、誰か知っている人がいたら、聞いてみようと思うけれど、ただの好奇心で、これ以上、君たちに調べさせるわけにはいかない」
ももは、先生を怒らせてしまったと思い、黙って聞いていました。
すると、ドアをコンコンと叩く音が聞こえ、先生のお母さんが、そっと、顔を出しました。
「博之、ちょっと」
先生は、立ち上がって、客間から廊下へ出ました。


2007-11-03 05:09  nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
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お話の練習 第一章 21~25 [照山小6年3組 ももシリーズ♪]


21
 しばらくベッドに座っていると、保健の先生がやってきました。
「さあ、お熱を測って」
保健の先生は、ふくよかな、優しそうなおばさんです。ももは、保健室の、白くて固いベッドの上で横になりました。保健の先生が、上掛けをかけてくれました。
「すこし微熱があるわね。赤城さん、給食は食べられた?」
「すみません。放送当番で、給食、食べてる時間がなくて、だいぶ残しました」
「まあ、大変だったわね。録音じゃなかったの?学校にお姫さまが通っていた話だったわね」
「はい」
ももは、聞いてくれていたことを、嬉しく思い、大きくうなずきました。
「保健室にも、いろんな子がやってくるわよ。お姫さまは、まさか来ないけれどねえ、うふふ。しょっちゅう休んでいく子はいるわよ。宿題をして帰っていく子、時には仮病の子もねえ、ほほっ、かわいいものだわ」
先生は、笑いながら、椅子に腰掛けました。保健室は、グラウンドの花だんに面していました。
「この間は、学生服を着た男の子が、この勝手口からいきなり入ってきたのよ、先生、びっくりしちゃって、わぁって叫んじゃったの!」
「わぁ、びっくり」
「その子、『幸せの家』の子なのね、うちの生徒を迎えに来たのよ」
ももの心臓が、どきんと高く波うちました。『幸せの家』というのは、昔、ひめ子さんがおばあさんの家に引き取られる前にいたという施設のことでした。
「幸せの家って、近くにあるんですか」
ももは、ベッドから身を起こし、また頭がくらっとしたため、額を手で押さえました。
「すぐそこよ。ああ、あなた具合悪いのに、私ったらついおしゃべりしちゃったわね、ごめんなさいね。大事をとって、ゆっくり休んでていいのよ。給食が余っていないか、先生見てきてあげるわね」
ももは、再び横になりました。

22
(もしかすると、ひめ子さんがかけおちをしたという男の人は、いつも近くにいたんではないだろうか。おばあさんに引き取られる直前まで、「幸せの家」で、一緒に暮らしていたのでは・・・。ああ、あたしは知りたい。もっとひめ子さんのことを・・・)
 ももは、気がつくと、グラウンドの真ん中で、少女の姿を見ていました。少女も、こちらに気がつきました。
「ももさん」
「ひめ子さん?」
近づくと、栗色の髪をしたひめ子さんが、まっすぐこちらを見ていました。
「私を、追いかけないで」
「どうして?」
「私は、もういないの、さようなら」
「ひめ子さん!」

 23
 はっと、目が覚めると、松平くんがこちらを見おろしていました。
「あれ、あたし?」
ももは、夢を見ていたのです。
「あのねぇ、もう下校時間なんだけど」
松平くんは、ももが教室に戻ってこないので、様子を見に来たのでした。ももは、ベッドから降りて、足の屈伸をしました。
「夢みちゃった」
松平くんは、なんだ、と言いたげに、
「そ、若山先生が心配してた。先生のとこ寄ってから帰ってよ。じゃ」
「松平くん、帰るの?」
「うん、カバン、忘れないでよ」
見ると、机の上に、もものランドセルと、保健の先生が置いたらしい、パンとマーガリンがありました。
「ありがとう、保健の先生は?」
「いない。どっかで話でもしてんじゃない?」
「そっか」
話好きな保健の先生なら、あり得そうです。
「じゃね」
「あっ、待って!先生のところに、一緒に行ってくれない?」
「なんで?」
「先生の卒業アルバムを見せて欲しいって、頼んだんだけど、いいって言ってもらってないの」
「やなんでしょ、見せるの」
松平くんは、めんどうくさそうに言います。
「そこを、なんとか」
「どうして、そんなこと頼まれなきゃいけないの。嫌だといったら?」
ももは、考えました。
「そんな人だったなんて、もうがっかり」
「あっそう、じゃね」
ももは、さらに、引き止めました。
「待ってよ。松平くん、頭がいいから、頼んでるのに」
「わかったよ、俺の能力が必要なわけね、最初からそう言えば?」

 24
 ももは、なんとか松平くんを味方に付け、2人で職員室を訪ねましたが、あいにく、若山先生は、いませんでした。
「先生どこ行っちゃったのかな」
「あの先生に聞いてみる」
松平くんは、つかつかと歩いてゆき、ていねいに言いました。
「先生、お聞きしたいことがあります。よろしいですか?」
「はい?何かしら」
5年生のクラス担任の、女の先生でした。
「若山先生が、どこに行かれたか、教えてもらえませんか?」
「若山先生なら、6年生の学年会議で、視聴覚室に行ったわよ」
「そうですか。ありがとうございます」
松平くんは、優等生らしい笑みを浮かべて、一礼しました。
「会議だってさ、今日は無理じゃん」
「仕方ないね、ありがと」
松平くんは、女の先生に、なにやら話すと戻ってきました。
「5年の担任から、『赤城の具合がよくなりました』って、伝えてもらうようにしたから。赤城も、帰っていいよ」
松平くんのきびきびした対応を見て、ももは、すごいなあと思いました。
とても自分と同じ歳とは思えません。まるで、先生方に好印象を与えることを意識して、優等生を演じているようにみえました。

 25
 2人で昇降口から少し歩いたところで、ももは立ち止まりました。
「あたし、校庭で、ちょっと遊んで帰ることにするね、ばいばい、松平くん」
「ばいばい」
ももは、校庭の隅まで走ってゆき、ランドセルを下ろして、ブランコに腰掛けました。土の上には、水たまりがありました。ももは長ぐつで、水のはねるのを楽しみました。
(ここでしばらく、考え事しよう)
ももは、ブランコを、最大限に揺らして、風を感じながら、さっき見た夢を、思い出しました。
(夢の中のひめ子さんは、なぜ、追いかけないでって、言ったのだろう・・・)
(ひめ子さんも、こうしてブランコで、遊んだりしたかな?)
一方、松平くんは、ももが、ブランコをこいでいるのを、帰り際に見ていました。
(あいつ、最近、心がどこかへいっている)
ももは、そんなことを、知りもせず、ブランコで、ずっと考えごとを続けていました。
今朝方の雨で、すっかり濡れていたはずの校庭はついに乾ききらず、冷たい風が吹いてきました。先生は、まだ会議をしているのでしょうか?視聴覚室の窓は、明かりがついていました。ももは、ブランコから降りました。


2007-11-01 15:29  nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
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