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お話の練習 第一章 21~25 [照山小6年3組 ももシリーズ♪]


21
 しばらくベッドに座っていると、保健の先生がやってきました。
「さあ、お熱を測って」
保健の先生は、ふくよかな、優しそうなおばさんです。ももは、保健室の、白くて固いベッドの上で横になりました。保健の先生が、上掛けをかけてくれました。
「すこし微熱があるわね。赤城さん、給食は食べられた?」
「すみません。放送当番で、給食、食べてる時間がなくて、だいぶ残しました」
「まあ、大変だったわね。録音じゃなかったの?学校にお姫さまが通っていた話だったわね」
「はい」
ももは、聞いてくれていたことを、嬉しく思い、大きくうなずきました。
「保健室にも、いろんな子がやってくるわよ。お姫さまは、まさか来ないけれどねえ、うふふ。しょっちゅう休んでいく子はいるわよ。宿題をして帰っていく子、時には仮病の子もねえ、ほほっ、かわいいものだわ」
先生は、笑いながら、椅子に腰掛けました。保健室は、グラウンドの花だんに面していました。
「この間は、学生服を着た男の子が、この勝手口からいきなり入ってきたのよ、先生、びっくりしちゃって、わぁって叫んじゃったの!」
「わぁ、びっくり」
「その子、『幸せの家』の子なのね、うちの生徒を迎えに来たのよ」
ももの心臓が、どきんと高く波うちました。『幸せの家』というのは、昔、ひめ子さんがおばあさんの家に引き取られる前にいたという施設のことでした。
「幸せの家って、近くにあるんですか」
ももは、ベッドから身を起こし、また頭がくらっとしたため、額を手で押さえました。
「すぐそこよ。ああ、あなた具合悪いのに、私ったらついおしゃべりしちゃったわね、ごめんなさいね。大事をとって、ゆっくり休んでていいのよ。給食が余っていないか、先生見てきてあげるわね」
ももは、再び横になりました。

22
(もしかすると、ひめ子さんがかけおちをしたという男の人は、いつも近くにいたんではないだろうか。おばあさんに引き取られる直前まで、「幸せの家」で、一緒に暮らしていたのでは・・・。ああ、あたしは知りたい。もっとひめ子さんのことを・・・)
 ももは、気がつくと、グラウンドの真ん中で、少女の姿を見ていました。少女も、こちらに気がつきました。
「ももさん」
「ひめ子さん?」
近づくと、栗色の髪をしたひめ子さんが、まっすぐこちらを見ていました。
「私を、追いかけないで」
「どうして?」
「私は、もういないの、さようなら」
「ひめ子さん!」

 23
 はっと、目が覚めると、松平くんがこちらを見おろしていました。
「あれ、あたし?」
ももは、夢を見ていたのです。
「あのねぇ、もう下校時間なんだけど」
松平くんは、ももが教室に戻ってこないので、様子を見に来たのでした。ももは、ベッドから降りて、足の屈伸をしました。
「夢みちゃった」
松平くんは、なんだ、と言いたげに、
「そ、若山先生が心配してた。先生のとこ寄ってから帰ってよ。じゃ」
「松平くん、帰るの?」
「うん、カバン、忘れないでよ」
見ると、机の上に、もものランドセルと、保健の先生が置いたらしい、パンとマーガリンがありました。
「ありがとう、保健の先生は?」
「いない。どっかで話でもしてんじゃない?」
「そっか」
話好きな保健の先生なら、あり得そうです。
「じゃね」
「あっ、待って!先生のところに、一緒に行ってくれない?」
「なんで?」
「先生の卒業アルバムを見せて欲しいって、頼んだんだけど、いいって言ってもらってないの」
「やなんでしょ、見せるの」
松平くんは、めんどうくさそうに言います。
「そこを、なんとか」
「どうして、そんなこと頼まれなきゃいけないの。嫌だといったら?」
ももは、考えました。
「そんな人だったなんて、もうがっかり」
「あっそう、じゃね」
ももは、さらに、引き止めました。
「待ってよ。松平くん、頭がいいから、頼んでるのに」
「わかったよ、俺の能力が必要なわけね、最初からそう言えば?」

 24
 ももは、なんとか松平くんを味方に付け、2人で職員室を訪ねましたが、あいにく、若山先生は、いませんでした。
「先生どこ行っちゃったのかな」
「あの先生に聞いてみる」
松平くんは、つかつかと歩いてゆき、ていねいに言いました。
「先生、お聞きしたいことがあります。よろしいですか?」
「はい?何かしら」
5年生のクラス担任の、女の先生でした。
「若山先生が、どこに行かれたか、教えてもらえませんか?」
「若山先生なら、6年生の学年会議で、視聴覚室に行ったわよ」
「そうですか。ありがとうございます」
松平くんは、優等生らしい笑みを浮かべて、一礼しました。
「会議だってさ、今日は無理じゃん」
「仕方ないね、ありがと」
松平くんは、女の先生に、なにやら話すと戻ってきました。
「5年の担任から、『赤城の具合がよくなりました』って、伝えてもらうようにしたから。赤城も、帰っていいよ」
松平くんのきびきびした対応を見て、ももは、すごいなあと思いました。
とても自分と同じ歳とは思えません。まるで、先生方に好印象を与えることを意識して、優等生を演じているようにみえました。

 25
 2人で昇降口から少し歩いたところで、ももは立ち止まりました。
「あたし、校庭で、ちょっと遊んで帰ることにするね、ばいばい、松平くん」
「ばいばい」
ももは、校庭の隅まで走ってゆき、ランドセルを下ろして、ブランコに腰掛けました。土の上には、水たまりがありました。ももは長ぐつで、水のはねるのを楽しみました。
(ここでしばらく、考え事しよう)
ももは、ブランコを、最大限に揺らして、風を感じながら、さっき見た夢を、思い出しました。
(夢の中のひめ子さんは、なぜ、追いかけないでって、言ったのだろう・・・)
(ひめ子さんも、こうしてブランコで、遊んだりしたかな?)
一方、松平くんは、ももが、ブランコをこいでいるのを、帰り際に見ていました。
(あいつ、最近、心がどこかへいっている)
ももは、そんなことを、知りもせず、ブランコで、ずっと考えごとを続けていました。
今朝方の雨で、すっかり濡れていたはずの校庭はついに乾ききらず、冷たい風が吹いてきました。先生は、まだ会議をしているのでしょうか?視聴覚室の窓は、明かりがついていました。ももは、ブランコから降りました。


2007-11-01 15:29  nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
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