さらさちゃん水想録♪ 1 星の夜 [さらさちゃん♪水想録 星の夜]
みーちゃんは、その夜、眠れなくて、ベッドから起き、水を一杯飲もうと、台所へ降りていったのです。
台所には、水槽があります。
窓辺から差し込む星の光が、金魚たちの住む水槽へ降り注いでいます。
いつも、大事にしている金魚たちがどうしているかと思い、
そっと水槽へ近づいてみると・・・
4匹の金魚が、こちらに尾を向けて眠っていました。
その時、
そのうちの一匹が、すっと体の向きを替え、よく見ていなければわからないくらいの俊敏さで、目をしばたたかせました。
みーちゃんは、寝ている金魚を起こしてしまったと思い、心の中で、
「ごめんね」
と声をかけ、胸を痛めました。
すると、金魚は、こちらに顔を寄せ、何か言いました。
「?」
みーちゃんが、水槽のガラス越しに耳を近づけたとき、突然、金魚の声が聞こえ出しました。
「みーちゃん、眠れないの?」
みーちゃんは、きっと空耳か、それとも、ラジオの音の消し忘れかと思ったので、ちょっと心を落ち着けようと目を閉じて、軽く息を吸いました。
ところが、耳から聞こえてくるのは、濾か装置のブクブクいう音と、風のざわめきと、時計の音だけ。
金魚は、丸くて愛らしい目をこちらに向けて、軽く胸ひれをふっています。
みーちゃんは、その一匹の金魚の名前を、心の中で呼んでみました。
「さらさちゃん・・・?」
「はーい」
返事は、すぐに返って来ました。
「さらさちゃん!口をきけるようになったの?」
みーちゃんは、驚いて、さらさちゃんに問いかけました。
「みーちゃんが、わかってくれたからだよ、金魚のことばを」
さらさちゃんの声は、あぶくがパチンとはじけるような澄んだ音の響きでした。
「素敵!でも、ごめんね。こんな夜中に、水槽のそばに来てしまって、起しちゃったよね?」
「ううん」
さらさちゃんは、顔を振って言いました。
「ちょっと、考え事をしていたの。そしたら、眠れなくなっちゃって。いつもなら、半分眠りするところなのに」
ああそうか、と、みーちゃんは、思いました。お魚は、目をつむらなくても、半分、眠ったり起きたり、していられるのです。
それが、きっと、半分眠りなのでしょう。
さらさちゃんは、半分眠りもできないとは、どうしちゃったのでしょう。
「そうか、じゃあ、眠れない者同士、ちょっと、お話しましょうか」
星明かりのさしこむ窓辺で、一人と一匹は、今、心を寄せ合っていました。
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