お水換えサイソクの巻♪ [さらさちゃん♪水想録]
今日のアタシは
水槽の隅でじっとしている
これが
お水換えサイソクのサイン♪
お水換えは好き
コワいけど好き
プールでくるくる泳げるし
ごはんをいっぱいもらえるから
いくよいくよって
みーちゃんの声がして
網投入!
アタシは逃げる
逃げる逃げる逃げる
つかマル♪
ほんの数秒
水のない世界
網と濡れタオルにくるまレル♪
月に一度の
コワくてやさしいお水換え
終わればピカピカのお水
サンキューみーちゃん
のんびりアクビ♪
みーちゃんの質問 [さらさちゃん♪水想録]
ある日、みーちゃんは、さらさちゃんとでめちゃんに問いかけました。
「ねえねえ、狭いところで並んで泳ぐのと、広いところで、すいすい泳ぐのとでは、どっちがいい?」
「ンン?」
「金魚になったつもりで、一緒に泳いだ感じを想像してみるんだけどね、イマイチうまくいかないの」
みーちゃんは、自分が金魚になったつもりで考えれば、金魚たちのことを理解できるような気がしていたので、しばしば想像していました。
「でも、想像にも限界があるわ。そもそも私、水の中では、息ができなくて苦しくなっちゃうのだもの」
すると、でめちゃんが言いました。
「無理しないでみーちゃん」
「無理してるかな?」
「ぼくたちに、なんでも聞いて」
「そうね。でめちゃんやさらさちゃんとおしゃべりができてよかった!心配なのは、さらさちゃんもでめちゃんも、成長してどんどん大きくなってきてるでしょ? 小さな水槽だと狭いんじゃないかと思って」
そこで、さらさちゃんも、会話の仲間に入りました。
「ねえ、さらさちゃんはどう? 広いところで泳いでみたいなって、思ったことない?」
「考えたことナイ」
「そう」
みーちゃんは、自分に置き換えて想像してみました。たとえば、自分のアパートよりも、ずっとずっと広い宮殿のようなところに住んでみるのは・・・? はたまた、美しい大地に立ってどこまでも続く空を見上げている気持ちはどんなだろうか・・・?
そうやって考えていると、広々とした空間は、開放感いっぱいで気分がいいんじゃないかと思うのです。
すると、さらさちゃんが、目を一瞬ぱちくりさせて、みーちゃんに言いました。
「セマイほうがイイ!」
「本当? どうして?」
「だって、ゴハンが一直線につながって、食べやすいデショ!」
「えっ、そういうこと?」
その時、でめちゃんが、すっと上へ浮かび、ごはんをとる真似をしました。そのでめちゃんの後ろを、さらさちゃんが追いかけながら、同じようにごはんをとる体勢をとり、追い越していくのでした。
そんな金魚たちを見たみーちゃんは、ふと、やっぱり水槽は狭い方がいいかもしれないと思いました。どの道、ごはんの時間は争奪戦。広ければ広いほど、泳ぎの早いさらさちゃんが有利になってしまいます。食べる量に応じた体格差が、すでにふたりの間にはあるのです。
「でめちゃんには、下に落ちるごはんがあるから、だいじょうぶよ。ゆっくり食べて」
「うん、ありがと」
みーちゃんは、すこし心配し過ぎかもしれないけれど、金魚と一緒に暮らしていくのには、それくらいの感覚がちょうどよいと、あらためて思いました。
神様のごはん [さらさちゃん♪水想録]
「ごはんはまぁだ?ごはんはまぁだ?」
「コンバンガヤマダ♪コンバンガヤマダ♪」
さらさちゃんとでめちゃんは2匹で並び、まだ陽の昇らない薄暗い窓の外を眺めていました。
「お腹減っタァ!」
「みーちゃんねぼすけだから、当分ごはんもらえないよ」
でめちゃんにそう言われ、ちょっとむくれたさらさちゃん。
そんな金魚達をなだめるように、空が明るくオレンジ色に染まっていきます。
「またきょうも、上へむかって上がって行くよ、あのオレンジの・・・」
「下から上へななめにゆっくーりとね」
「あれは、ナニ?」
でめちゃんは、にっこりしました。
「神様のごはんだと、ボクは思う」
「おっきいし、逃げないもんネ」
さらさちゃんはうなづきました。
「食べてみたいね、どんな味カナ」
「神様のごはんだよ、ボク達、食べていいのかな」
「いいんじゃナイ?いっこしかないから、早い者勝ちだよ」
金魚達は早起きが得意です。
もう、ずいぶん前から起きているのですから、お腹も空くのでしょう。
でめちゃんは、ひとつあくびをして、もう一度眠ることにしました。
さらさちゃんはというと、ひれを動かし、ストレッチをして、すーっと泳ぎ始めました。
神様のごはんは、一体どんな味がするのでしょうね。
いつかは、食べてみたいものですね。
さらさちゃんのぶつかりげいこ♪ [さらさちゃん♪水想録]
最近、金魚たちが、ろ過機のシャワーの口をつついて、砂利に落とすようになりました。
成長して知恵も力もついてきた証拠・・・でも、それを落とされると、水の中に手を入れて直さなくてはならないので、みーちゃんは困ったなぁと思っていました。
「こりゃ、またおイタしたの?もう、だめでしょ~」
みーちゃんが、そでまくりをして、水底からシャワーの口を取り出します。
「こら、こそばゆいよ」
金魚のひれはワカメみたいなやわらかい感触ですが、口でつっつかれると、結構力があるのがわかります。
「よし、なおったよ」
金魚たちは、再び水が出てくるようになったので、あぶくの下をくぐりぬけて遊んでいました。
そこへ、みーちゃんが、ぼうしをかぶって、しゃがみ、水槽に近づきました。
「じゃあ、行ってきます」
「みーちゃん、またどっか行くの?」
「うん、温泉にね。あさってには帰ってくるから、いいこにね」
「エー!?じゃあ、ごはん抜き?アンド抜き?あさってまで?」
「でめちゃんもさらさちゃんも、だいぶ大きくなってきたし、ごはんは2日にいっぺんでも、だいじょうぶなのよ」
「だいじょうぶって?」
「たまには、デトックスになるわ」
「ナ二それ?」
「体内の毒素が出てきれいになれるの。美うろこ効果があるわよ、きっと」
「・・・」
黒出目金のでめちゃんは、難しいことを言われるのが好きなので、説明を聞いてうなずきましたが、和金のさらさちゃんは、不服そうに、ちらっと目くばせしました。
みーちゃんがドアを閉めて出かけた後も、金魚たちは、しばらくドアのほうを見つめていました。
その晩・・・
「ねえ、でめ、お月さまだよ」
暗闇の中で、窓明かりに照らされた金魚たちが2匹、背中を並べて空を見上げています。
「みーちゃんもいまごろ、あたたかい水につかって、お月さまをながめているよ、きっと」
「ねえ、でめ。アタシ、ぶつかりげいこしたいんだケド?」
「え、いま?」
さらさちゃんが言う「ぶつかりげいこ」とは、ろ過機に体当たりする訓練のことをいいます。
でめちゃんは、顔も尾ひれもブンブン横にふりました。
「やめといて、さらさ!けいこして、ろ過機の口が取れたら、どうするの?みーちゃん、いないんだから」
「ウ~~~~~ン」
さらさちゃんが、、口の中に砂利をいっぱい入れて、ばっと吹くのを繰り返し、ろ過機のまわりをぐるぐるうろうろと泳ぎまわるので、でめちゃんはハラハラしっぱなしでした。
次の日・・・
朝から金魚たちは、並んでお日さまがのぼるのを見ていました。
でめちゃんは、水槽の中をぐるりとひと泳ぎしてから、ゆっくりと砂利をつつきはじめます。
「ごはんもないのに」
「日課だから」
さらさちゃんは、最初、でめちゃんがムダな行動をしていると思っていたのですが、
でめちゃんの後に続いて、砂利をつつきはじめました。
すると・・・
「あれ、ごはんの残り、みーつけた!」
さらさちゃんが、そう言って、でめちゃんのほうを見ると、でめちゃんは、もうお昼寝していました。
さて、昼下がりです。
さらさちゃんは、体操をしたり、あぶくで遊んだり、砂利をつついたりしていたのですが、
とうとう飽きてしまい、下から上へいきおいよく泳いで、ちゃぽんと水音をたてました。
眠っていたでめちゃんが、胸ひれを動かしてあくびをしたので、さらさちゃんは、そばに泳いでいきました。
「そろそろ、ぶつかっても・・・?」
「ろ過機の口が落ちたら、息苦しくなるから、だめ」
「ならナイんじゃナイ?なるようになるんじゃナイ?」
「なるようになっても、いいことはないさ」
さらさちゃんは、ぶつかりげいこってそんなに、危険なものカナ?と思いました。
その次の日は、朝からずっと雨がふっていました。
でめちゃんとさらさちゃんは、窓の外の様子が気になります。
柿の葉っぱが雨にゆれるのを見たり、鳥の叫び声に「ナニゴト?」と思ったり、窓に当たる雨粒を観察したりしていました。
あまり動くとスタミナ不足になるので、さらさちゃんもでめちゃんみたいに、お昼寝して過ごしました。
その晩は夜通し風の音がぴゅーぴゅーとやまず、朝になっても、窓ガラスには、雨風がいっそう強く吹き付けていました。
黒雲のせいで、部屋の中はお昼になっても、暗くどんよりとしていました。
「・・・」
「・・・」
金魚たちは、並んで砂利の上に腰を下ろして、じっと玄関のほうを見つめています。
みーちゃんが帰ってくるのは、きっともうすぐ・・・。
2匹は、ずっとそのときを待ってるのでした。
すると・・・かすかな物音に気付いたさらさちゃんが、半分眠りをしていたでめちゃんに、顔を近づけて起こしました。
「みーちゃんの足音ダヨ」
「お帰り?」
ガチャ!
「!」
「!」
「ただいま~」
「お帰り~♪」
「お帰り~♪」
金魚たちは、浮き上がって、みーちゃんを出迎えました。
「あっ、偉いわね。おイタしなかったの?」
みーちゃんは、水槽の中の2匹の状態が元気なのを確認してから、さっそく、ごはんをぱらぱらとあげました。
さらさちゃんは、猛烈な勢いでごはんに飛びつき、でめちゃんも、一生懸命ぱくぱくと食べたのでした。
* * *
その後、みーちゃんがお風呂から上がり、リビングに戻って来たときには、ろ過機の口は、もう下に落っこちていました。
「あれっ、さっそくおイタ~?(笑)」
さらさちゃんは、ごはんを食べて元気一杯ぶつかりげいこ♪ でめちゃんは、何食わぬ顔で、せっせせっせと砂利をつついています。
2匹は、みーちゃんがいてこそ、安心しておイタができるのですね。
ねこねこ、さらさ♪ [さらさちゃん♪水想録]
「ねこ、飼おうかな~」
みーちゃんは、パソコン画面に夢中で見入っています。
「だってね、ほら、見て!可愛いでしょう?」
みーちゃんが見せてくれたのは、パソコンの画面の中の三毛猫でした。
それを見たさらさちゃんは、水の中をターンして言いました。
「ねこちゃん?」
でめちゃんも見に来ました。
「わぁ、尾っぽを丸めて寝てるねぇ」
さらさちゃんも、自分の尾ヒレをねこのように巻いてみたくなりました。
でも、さすがに、ねこのようになることは難しいようです。
「アタシ」
「どうしたの?さらさちゃん?」
「丸くなってみたい」
みーちゃんは、そんなこと無理だとびっくりしましたが、すぐに思い直しました。
「できるかもよ。さらさちゃんなら。だって、スーパー金魚だもんね!」
さらさちゃんは、みーちゃんにそう言われて気をよくして、ひと泳ぎした後、でめちゃんに相談しました。
「ねえ、でめ。どうやったら、ねこちゃんみたいに丸くなって寝られるか教えてヨ」
でめちゃんは、眠たそうに言いました。
「またそんな、無理言って。からだが柔らかくないとあんなふうにはなれないよぅ」
「じゃあどうすればイイ?」
「体操でも・・すればいいよ。ふわぁ、眠い・・・」
でめちゃんは眠ってしまいました。
「体操ネ・・・」
さらさちゃんは、いつもよりほんのちょっと、尾ヒレを大きく振りました。
「ンン・・・」
さらに、大きく振って、顔も振ってみました。
バシッ!
「うわぁ」
「アッ、ごめん、でめ!」
さらさちゃんは、眠そうなでめちゃんに思い切り体当たりしてしまったのでした。
そしてまた、離れたところで、体操を始めました。
「イッチニ、イッチニ」
さらさちゃんのことですから、練習次第で、ねこちゃんみたいに丸くなって眠れるようになる日が来るかもしれませんね。
みーちゃんは言いました。
「うふふ。じゃあ、もし、ねこが家に来たら、みんなで仲良く、ねこちゃんとお昼寝しようね♪知ってる?ねこはね、よく寝る子だから、ねこって呼ばれてるんだって」
みーちゃんは今日も、金魚達とおしゃべりを楽しみ、お部屋の中でくつろいでいるのでした。
オナカスイタヨ♪ [さらさちゃん♪水想録]
「おはようみんな、元気なの?」
そうやって、金魚たちに、声をかけるのが、みーちゃんの日課でした。
和金のさらさちゃんは、臨戦態勢で、口を大きく開けて、立ち泳ぎをはじめています。
黒でめ金のでめちゃんは、起きたばかりのような様子で、ゆらゆらと浮かんでいます。
「ほら、ごはんだよぅ」
楽しいごはんの時間です。
どんどん食べていくさらさちゃんに対し、
でめちゃんは、なかなか、えさをとることができません。
「でめちゃん、ぶきっちょだなぁ、だいじょうぶかな。ほら、顔の前に落とすからね、食べて、ほら!あ~また後ろへ行っちゃった」
(あ~これで今日も、さらさちゃんが、でめちゃんの分も、食べちゃうね。けれど、お魚って、そんなに食事を与えない方がいいっていうし・・・まあ、だいじょうぶかな?)
でめちゃんは、黒いからだに大きな目、丸い胸ひれに優雅な尾ひれをしています。
翌朝、みーちゃんは、びっくりして叫んでしまいました。
「でめちゃん!どうしたの!?」
でめちゃんは、左へ右へななめになってふらふらと泳いでいるのでした。みーちゃんは驚いて、でめちゃんを、別の部屋(ピンク色のバケツ)に移しました。
「でめちゃん、大丈夫?なんか言って!」
「武士ハクワネド・・・」
するとその時、玄関のチャイムが鳴りました。成田くんが遊びに来たのです。
「よぅ、みー、どうした?」
「成田くんっ、あのね、見て!うちのでめちゃんの具合がおかしいの。この間から、ごはんもろくに食べなくてね、今日になって、斜めになっちゃったの!あああ、でめちゃんが死んじゃったらどうしよう・・・わーん」
すると、成田くんは、言いました。
「ん~、まあちょっと、落ち着きなって。俺は、金魚のことはわかんないけど、そいつ、もしかして、腹が減ってふらふらになってるんじゃ?」
「え、まさかっ」
「最近、えさの量、減らしてるって言ってたじゃん」
「それはそうだけどっ、そんな単純な」
「単純で悪かったな~」
みーちゃんは、試しにえさを幾粒か落としてみました。
すると・・・
ぱくっ
「あっ、食った」
ぱくっ ぱくっ
「おっ、また食った。やっぱ、腹が減っては戦はできねえってことだ、単純な奴だ」
「でめちゃん・・・そうだったの、ごめんね」
数時間後、でめちゃんは元気に泳ぐようになり、みーちゃんは、想いを新たにしました。
「あたし、いつも、このこたちの何を見ていたんだろう。病気のことばかり気にして、お腹がすいていたでめちゃんを放っておくだなんて」
「餓死寸前(笑)」
「なんで笑うの!」
「かわいそう過ぎて、笑っちゃうよな」
「もう!でも、本当かわいそう過ぎるよね、あ~」
「さて、俺らも、飯食いに行くよ」
腹が減っては戦はできぬ。金魚にとって、朝のご飯の時間は、戦いそのものなのかもしれませんね。
いっしょに食べよ♪ [さらさちゃん♪水想録]
「みーちゃんがいる」
「ドタバタと舞ってるネ」
今日はみーちゃんは、お仕事がお休み。
朝から、掃除に洗濯と、ドタバタと働いています。
さらさちゃんとでめちゃんは、みーちゃんの様子を水の中から、じっと見るのでした。
人間が、金魚の動きを見ていると飽きないように、金魚たちにとっても、人間の動きは、不思議でたまりません。
「みーちゃんのテ・・・なにかもったヨ」
「しろくてまるくてヒレみたいなもの」
「まるいののなかに、まるくいれたヨ」
「あ、棒をもったね」
「あれは、おはしだよ、でめ」
みーちゃんは、朝ご飯を食べ始めました。食卓の上には、美味しそうな白いご飯、お味噌汁、目玉焼きとレタスとトマト、マヨネーズの容器が並んでいます。コップの中には、しぼりたてのオレンジジュースも。
「みーちゃんさ、忘れてるヨネ」
「ウン、ぼくも思った」
さらさちゃんとでめちゃんは、顔を見合わせて、アピールを始めました。
並んで泳いでヒレを元気よく動かします。
そうすれば、パシャパシャと水しぶきがあがり、みーちゃんの注意をひきつけることができるのです。
パシャパシャ パシャパシャ パシャパシャ パシャパシャ
金魚たちは、必死です。
これも一種の、朝の儀式みたいなものといえるかもしれません。
すると、みーちゃんが、水槽のほうを見て、重大なことに気がついたという様子で、立ち上がりました。
「みーちゃん♪ ごはん♪ごはん♪」
「ごめんね!自分のごはんを先に食べちゃった。みんな一緒に食べよ♪」
今日も、朝ごはんをしっかり食べて栄養をとって、一日が始まります♪
涼感♪ [さらさちゃん♪水想録]
ぽちゃん!
水の中に、透き通った冷たいものが一粒、落とされました。
「変わらないわねぇ、少しは涼しくなるかと思ったけれど」
現在、水の温度は、30度。氷もすぐに溶けてしまうほど、暑い日です。
金魚たちも、こうぬるい水の中では、しゃべる気にもならないようで、ゆらゆらと過ごすだけです。
なんとか涼しく過ごせないかと思い、みーちゃんは、歌を歌うことにしました。
「こほん」
咳払いをして、よそいきの声を出します。
~ 冷たい水の中を 君と歩いていく ~
冷たい水の中を 君と歩いていく
何も望むものはない 夏の一日 グラスの底を
水を通してくる 七月の日射しが
横顔をきらめかせる 遠い過去から 微笑む君の
実らずに終わった恋は 夏ごとに透き通る
実らずに終わった恋は 怖いほど透き通る
あんまりそれがきれいなので ぼくの命も奪っていく
あんまりそれがきれいなので 誰にも言葉はつうじない
☆作詞作曲 谷山浩子さん☆
さらさちゃんは、いつもなら、ことばを真似しようとするのですけれど、今日はしませんでした。
代わりに、ゆらゆらとスイングしています。
でめちゃんは、顔をふりふり歌を聴いているうちに、ぐっすり眠ってしまいました。
夏の日のちょっとしたできごとでした♪
みーちゃん♪の守護天魚 [さらさちゃん♪水想録]
ねえ みーちゃん
水の時代がやってくるよ
魚とお話ができるなら
人も動物も植物もみんな
予兆を感じているはず
かたちだけを捉えようとしたら
ただの魚になっちゃうよ
ことばは大事
正しく理解することを学ばなければ
人も動物も植物もみんな
取り違えてしまうよ
気をつけてね みーちゃん
ことばは水と一緒だよ
流れていくよ
冷たい水の中に 暖かいものがあるよ
信じられるものは 水の中にあるよ
ぼくたちは これから先
ずっと ずっと みーちゃんの味方だよ
水族館でデート♪ [さらさちゃん♪水想録]
みーちゃんは、成田くんを誘って、市立水族館へ来ました。
平日の午前中だったためか、お客さんの姿は少なめ。
館内は、美しい照明に彩られて、すばらしい展示ばかりです。
2人は、最初、同じ調子で見ていたのですが、
熱心に見るみーちゃんについていけなくなり、成田くんは、ベンチに腰掛けました。
みーちゃんが、ひとつの水槽に行っては感心し、また移動しては、じーっと見つめていますと、
みーちゃんに応えるようにして、じーっと見つめ返してくるお魚がいました!
ハコフグの仲間でした。
とってもキュートな外見におちょぼ口がついていて、ぱたぱたと泳いでいる姿は、なんとも、可愛らしく、みーちゃんは、家でいつもしているみたいに、お魚たちに話しかけました。
「こんにちは~はじめまして♪」
「・・・・♪」
ハコフグの仲間は、目をぱちくりして、こちらを見続けた後、ぷいっと泳いで視界からいなくなってしまいました。
みーちゃんが、ハコフグを真似て口を尖らせていると、成田くんが、笑いました。
「魚に振られてやんの」
「なんかね、こっちをすごく見てたから、話しかけてみたんだけど。言葉が通じなかったのかなぁ」
「こいつら、人をバカにしてんだろ、コラッ」
成田くんが、大きめの声を出したので、みーちゃんはびっくりしました。
「成田くん、しーしーっ!声が大きい」
「ちぇっ、誰もいねえよ~」
たまに子供みたいになってしまう無邪気な成田くんなのでした。
その後、みーちゃんと成田くんは、
マントが水中を飛んでいるみたいに泳ぐマダラエイ、
大きくてゆったりと泳ぐオレ様といった風情のメガネモチノウオ、
ひとなつっこい表情のすっぽんもどき、
アマゾン川に住む大きな魚ピラルク、などなど順路に沿って見て回りました。
「みー、ここで問題。俺は今、眠いでしょうか?のどが渇いたでしょうか?疲れて休みたいでしょうか?さあ、どれ!?」
「なあに?お魚クイズはじめるのかと思った」
「俺クイズです。テケテケテケテケ、ブー!正解は、全部です!」
「そっか、ごめんごめん。じっくり見すぎちゃった。じゃあ、2階へ行って、ジュースでも飲も」
エレベーターで2階へ上がり、ジュースを買って、展望台まで登ると、青い海が見えました。
「はーっ、見晴らしがいいねぇ」
すると、突然の強風にあおられて、みーちゃんの帽子が飛んでいきます。
「あっ」
目で追いかけると、それは、水族館名物のサイクルモノレールの端にひっかかりました。
「大変!どうしよう!」
すると、成田くんが、
「しょーがねえな。俺がちょっくら行って取ってくるよ」
「え?ええ~?ここ、伝って取りに行くの?嘘、うそでしょ?」
「まさか!そんなことしねえってばよ。猿じゃあるまいし!水族館の人に話して取ってもらってくる」
「あたしも、行く」
1階の事務室へ行って、事情を話すと、職員の人がみーちゃんの帽子を取ってきてくれました。
「ありがとうございました」
「よかったね~」
帽子を受け取ったみーちゃんは、帽子をかばんの中にしまいました。
再び、水族館の中へ戻り、今度は、館内で一番大きな2階建ての水槽を見に行きました。
そこでは、ちょうど、魚たちにえさを与えていました。
「うちのさらさちゃんとでめちゃんにも、ごはんあげなくっちゃ」
「いつあげてんの?」
「朝と夜の2回」
「へえ、少なすぎないか?あいつら、いつも腹減らしてるべさ」
「もっとあげても大丈夫かな・・・?」
みーちゃんは、帰り際、お魚の飼育について、水族館のお姉さんに教えてもらうことができました。
「金魚ですか、どれくらいの大きさですか?」
みーちゃんは、手を添えて、説明します。
「2年ほど飼育していて、これくらいの小赤と黒でめきんです」
「そうですね、大きな金魚なら、2日に一回くらいでも大丈夫ですよ。1週間くらいあげなくても、平気です。長生きさせたければ、えさは与え過ぎないほうがいいですよ」
「えぇ、そんなに少なくていいんですか???」
その後、海沿いのカフェで、成田くんとランチを食べて、コーヒーを飲みました。
「今日は、楽しかったね」
「みーは、魚とか、ほんっと好きだね」
「やっぱね、飼ってると、可愛いし」
「可愛がり過ぎて、今の調子で朝晩エサあげてたら、ブタ魚になるとこだったどころか、死んでまうかもしれなかったな~人の感覚じゃ測れないよなぁ、魚は」
そして・・・本日より、重要なお知らせです。
さらさちゃん&でめちゃん待望の~お食事は、なんとっ!
テケテケテケテケ・・・・(←成田くんの影響・・・)
一日一回になりました。
わ~!
健康のためとはいえ、2日に一回ではさすがに可哀想なので・・・、一日一回になったとさ。
さあ、今晩から、さらさちゃんの抗議が始まりそうです。
別荘に砂利はナイ♪ [さらさちゃん♪水想録]
さらさちゃんは、朝、夕、ごはんを心待ちにして泳ぎます。
お口の先からひれの先まで、ぱくぱくぱたぱた動かします。
みーちゃんが、水槽の前を通りかかるたびに、いつ、ごはん♪が落ちてきてもいいように、臨戦態勢をとるのでした。
ところで、みーちゃんは、さらさちゃんの健康管理で悩んでいることがありました。
さらさちゃんのしりビレのことです。
昨日から、しりビレが赤くなっているのです。
「さらさちゃん、おしりのヒレ、痛くない?」
「ウウン、痛くないよ」
お魚には、痛覚がないといいますから、さらさちゃんは、痛みを感じていないよう。
でも、これは、あきらかに病気に違いないと、みーちゃんは、確信していました。
(薬浴をさせたほうがいいかなぁ。それとも、水換えだけでいいかしら)
金魚の本によれば、おそらく、さらさちゃんの症状は、おぐされ病か、ひれあか病のようです。
細菌性の病気で、このままだと、症状が悪化する恐れがあります。
「グリーンFゴールド」という薬を水の中に入れて、数日間は、ごはんをあげないで、様子をみる必要がありました。
薬は、もう買ってありました。
(さらさちゃん、がまんできるかなぁ)
なにせ、この2年の間、一度も、水槽の中に、薬を投入したことがありませんでしたし、
ごはん抜きにするなんて、さらさちゃんが可哀想です。
(定期的な水換えで、金魚の健康を守っていけると過信していたなぁ。成長とともに、えさの量も増やしていたから、多すぎたかな・・・それで水質悪化をまねいたのかも)
みーちゃんは、いろいろ悩んでいましたが、決めました。
「ね、さらさちゃん、別荘を用意したわ。2~3日、温泉に行かない?」
「わ~!温泉って、熱いお水ダヨ?死んじゃう、死んじゃう」
さらさちゃんは、前に、みーちゃんが温泉の話をした時のことを覚えていました。
「大丈夫。お水は熱くないからね。効能があるのよ。ゆっくり静養してきて」
「・・・」
さらさちゃんは、顔を傾げました。
「でめも?」
「そうね」
同居魚の黒でめきん、でめちゃんは今のところ症状はないようですが、細菌の感染を考えると、一緒に薬浴させたほうがいいかもしれません。
「ねえ、でめちゃんも、さらさちゃんと一緒に、薬浴しに行ってくれる?」
「ぼくは、ゆっくりお昼寝ができるなら、どこでもいいよ」
「ヨシ!でめもいっしょだよ」
グリーンFゴールドは、できれば使いたくありませんでした。
でも、水槽の管理をうまくしていたつもりが、病気が出てしまったのは、みーちゃんの責任でした。
金魚に負担をかけるのは、承知の上でした。
でも、いらぬ心配はかけたくなかったので、病気のことは言いませんでした。
別荘の準備が完了しました。水の色は、薄い黄緑色。
さらさちゃんとでめちゃんは、別荘へ移ると、小さな水槽の隅々までチェックを始めました。
「砂利がナイね」
「うん。静養中は、のんびりしててね」
しばらくの間、さらさちゃんは、何もない地面を、ちょんちょんとつついていました。
「みーちゃん、濾過機もナイの?」
「うん。酸素が出る石を替わりに入れてみたんだ。苦しくないかな」
さらさちゃんが、酸素が出る石を、つんつんしますと、ブクブクと細かい泡が出てきました。
「へえ、おもしろ!」
夕方になりました。
さらさちゃんも、でめちゃんも、いつものようにごはん♪を心待ちにしています。
その様子をみて、みーちゃんは安心していました。
薬浴中でも、案外元気にしている。
そのまま、もうちょっと我慢してね。
「みーちゃぁん!」
「みーちゃぁぁぁん!ごはんまだ?」
別荘から、2匹が呼んでいます。
みーちゃんは、2匹のもとへ来ました。
「ごめんね!今日は、ごはんあげられないの」
「なんで、なんで、なんで???」
「温泉の中では、何も食べないのが、粋なのよ、さらさちゃん」
みーちゃんが苦し紛れに言いましたが、さらさちゃんは納得しません。
「粋ってナニ?」
「江戸っ子には、粋が大切よ」
すると、でめちゃんが、顔をふりふり言いました。
「金魚って、江戸っ子なの?」
「そうよ。江戸時代には、武士がいてね。『武士は食わねど高楊枝』って。それがかっこいいのよ」
「へえ・・・」
でめちゃんが、不思議そうに言いました。
「ムシハクワネトタカトーシ?」
「武士は食わねど高楊枝」
「ブシハクワネットタカヨーシ!」
「ううん、ブシハクワネドタカヨウジ」
さらさちゃんも、真似して言いました。
「ブシハクワネドタカヨージ!」
「そうそう、その調子よ、さんはい♪」
「ブシハクワネドタカヨージ!」
「そうそう、そんな感じっ」
そうして、その夜は、食べないことの美徳をなんとか金魚達に伝えて(ごまかして?)、金魚達を納得させて乗り切ったのでした。。
翌朝、さらさちゃんのしりビレの赤みは、消えていました。薬の効き目がでたのです!
ですが、あと1日は、薬浴をさせたほうがいいでしょう。
可哀想ですが、仕方ありません。
病気は怖いですが、落ち込みすぎないで、やれることをやることが大事です。
どうせしなきゃいけない治療なら、一日一日を、楽しく過ごせるといいですね。
さらさちゃんの病気が、完全回復しますように。
お水換えが命を守る♪ [さらさちゃん♪水想録]
今日は、お水換えの日。
さらさちゃんとでめちゃんは、水槽から出され、平たい桶の中を回遊していました。
す~いすい、す~いすい、す~いすい、す~いすい
「桶の中はどう?」
みーちゃんが聞くと、さらさちゃんが、顔を出しました。
「ン?」
「底が浅いぶん、身体が軽いんじゃない?ごめんね、しばらく、そこにいてね」
「アイ!」
お魚がいなくなった水槽の中は、とっても、無機質でさみしいイメージです。
水が半分になり、砂利と水草と濾過機が取り出され、ブクブクもなくしんとしています。
みーちゃんは、しっかりと、苔をとって、新鮮なお水を入れてから、2匹を戻すつもりでした。
砂利を洗い終わり、次は、水槽へ砂利を敷きます。
まだまだ、作業は続きます。
「きっと、これからは、お魚の時代がくると思うのよね」
みーちゃんが、どういう根拠があるかわからない発言をしました。
「どーして!?」
さらさちゃんは、聞きもらしません。
いつもより近い位置でお話しができると思って、水面から顔を出しています。
「お水がね、綺麗じゃないと生きられない繊細な生き物に、綺麗なお水を提供して、お世話をさせてもらうことが、お魚への一種の尊敬というか恩返しになると思うの。人間はさ、今まで散々、生き物を取りつくして殺してきたでしょ。中でも、お魚には、本当にお世話になっているのよ。日本はとくに、島国だから、お魚取り放題で暮らしてきたわけで」
さらさちゃんは、言いました。
「お水が命のミナモト・・・?」
「うん。実はそれは、ヒトも一緒。お魚が水の中に生きているように、ヒトにも水が必要だから。水の中に生きているお魚とヒトがね、もっと仲良くできればいいなぁって思うの」
さらさちゃんの横に、でめちゃんも、出てきて顔を並べました。
仲の良い2匹が並んでこちらを見ている様子は、本当に愛らしく、絶対に守らなくてはならない命だと、みーちゃんは思うのでした。
「さらさちゃん、でめちゃん。君たちの命は、あたしが守るから安心しててね」
そうなのです。
お魚にとって、お水換えは、命にかかわる大行事です。
みーちゃんは、水槽の掃除が終わると、次に、新しい水の温度を測りました。
ちょっと冷たかったので、お湯を足して調整したら、ちょうど21度になりました。
「よし」
みーちゃんは、バケツを持ってきて、新しい水を足しました。それから、水草と、濾過機に洗ったフィルターをセットして、コンセントを入れたのでした。
「じゃあ、今水の中まわしたから、あと30分したら戻すね。もちょっと待っててね」
「アイ・・・」
こんな時の金魚たちは、気の毒です。
さらさちゃんとでめちゃんは、網ですくわれるのが好きではありません。
そして、30分後・・・
「じゃあ行くよ、誰からにする?」
声を聞いても、2匹は、知らないふりして、逃げ回っています。
「じゃあ、でめちゃんから。おいで~」
みーちゃんは、網の中にでめちゃんをすくいいれて、すっと網を持ちあげました。
「!」
でめちゃんは、覚悟を決めてじっとしたまま、水換え後の水槽に戻されました。
戻された後は、ほっとした表情でゆるやかにひれを振って、水の感じを確かめています。
「次は、さらさちゃんね。ほら、行くよ~」
ところが、さらさちゃんは、桶の中をどんどん逃げ回ります。すばしこいったらありません。
捕まえられるのが、嫌なのです。
「さらさちゃん、ほら、水槽に戻るよ。ほら入った。はい行くよ~」
網の中にすくわれたさらさちゃんは、バタバタともがき、水しぶきを飛ばします。水槽の中に入ってからも、少し落ち着くまで、網の中から出てきません。じつは、とっても臆病なのでした。
みーちゃんは、それがわかっていたので、さらさちゃんが網から出ていくまで、網をそのままにしておきました。
さあ、お水換えは、無事に終わったようです。
みーちゃんも、さらさちゃんも、でめちゃんも、大変でしたね。
お疲れ様でした/☆
静かな午後のひと時♪ [さらさちゃん♪水想録]
「みーちゃん、どしたの?」
和金のさらさちゃんは、人間のみーちゃんに、話しかけました。
黒出目金のでめちゃんも、一緒です。
「こっちを見ているような、みていないようナ・・・?」
「見ていないようで、いるようナ・・・?」
じつは、みーちゃんは、
水槽の水を隔てて向う側のガラスに映っている、さらさちゃんたちお魚の影を見ていたのでした。
そして、指さして言いました。
「さらさちゃんもでめちゃんもね、あちら側に、影が映っているのよ」
「影?」
「うん。とっても芸術的な感じだわ」
さらさちゃんは、尾ひれをひらめかせて、水槽内を何回か、泳ぎまわってみるのでした。
「いつも、顔を見ながらおしゃべりしちゃうことが多いでしょ。だから、可愛さのあまり、お魚のシルエットがこんなにきれいだったってこと、忘れてた。そうだわ、ちょっと待っててね」
そう言うとみーちゃんは、奥の部屋から、何やら取り出してきて、今度は、真剣な目つきで、さらさちゃんとでめちゃんのことを、じじじーっと見つめるのでした。
さらさちゃんは、ぴしゃんと水しぶきをあげて、ちょっとばかり視線を意識しながら泳いで、横目でみーちゃんのするのを、観察していました。
「でめ、みーちゃんが、また何かはじめたよ、ナニしてんのかナ」
「ぼく・・・寝てもいい?」
「みーちゃん、手を動かしてるよ、あ、みてみて、でめ!」
みーちゃんは、スケッチブックに、お魚たちの絵を描いていました。でも、なんといっても、お魚たちは、ずっと動いていますので、かたちをとらえるのは大変なことでした。
「うまくいかないなぁ、きみたち、動くんだもん・・・って当たり前かっ」
「もしかシテ、アタシたちを描いてるの・・・?」
「そうよ」
「それ、なんかヘンじゃナイ?」
「そんなことないもん。ほらね、見てごらん。口があって、目があって、ひれがあって、あとこれはえーと、その・・・なんの器官だっけ?まじまじ見たことがなかったなぁ今まで。あ、そっか!えらだわ。えらがあって、そのよこに、これ、ねえ、さらさちゃんのそこのそれ、なに?」
さらさちゃんとでめちゃんは、顔を見合わせました。自分たちにも、よくわからなかったからです。
それで、しばらくの間、じっと動かずにモデルをして、みーちゃんが正確に絵を描いてくれるのを待ちました。
そして、何分かの後・・・
「よーし!できたわ」
いつの間にか、2匹の魚は、お昼寝をしてしまっていました。
みーちゃんは、その様子を見てまた、絵を描き始めるのでした。
流れる水の音と、紙に色鉛筆が擦れ合う音だけが、部屋に響いていました。
金魚の月と星♪ [さらさちゃん♪水想録]
「いつも、暗くなって、光ってイルノナニ?」
「それは、お月様かお星様よ」
「オツキサマ、オホシサマ、いっつも、ピカピカ、光ってイルネ♪」
「今日は、曇っていて、みえないわ」
「そんなことナイヨ」
「あるある」
「ナイナイ♪」
「だってね、さらさちゃん、お月様は、満ち欠けをするの。それに、お星様だって、雲に隠れていることもあるんだから」
「ン?」
さらさちゃんは、わからないかわりに、目をすこーし、いぶかしげにしてみせました。
「みーちゃん、消してみて」
「なにを?」
「部屋のアカリ」
さらさちゃんは、頼みました。でめちゃんは、さらさちゃんの横で、眠そうにしています。
「はやく、はやく」
「わかったわ、じゃ、消すわよ~」
ぱちっ
部屋の中は、真っ暗になりました。みーちゃんは、壁のスイッチから手を離すと、目が慣れるまで、じっと待ちました。
「みーちゃん、見えたヨ♪」
みーちゃんには、月も星も、みえませんでした。見えるのは、真っ暗な夜の空。
とはいえ、夜空には、たとえ曇っている時でも、星はあるのです。宇宙のむこうに、必ず。さらさちゃんは、宇宙のむこうの星を感じているのかしら?そんなに深遠な考えをしているのかしら?簡単な言葉しかしゃべれないからといって、幼稚だということは、ないのかしら、ひょっとしたら、さらさちゃんは・・・。みーちゃんが、物思いにふけっていると・・・。
「アカ、キ、アオ、アカ、キ、ミドリミドリミドリ」
「どうしたの?さらさちゃん?」
「オホシサマ、オツキサマ、きれい♪」
みーちゃんは、金魚達のそばに行き、彼らの見ている方向に、目をむけました。
「まあ、ほんと、きれいだわ」
テレビの主電源の赤いランプ、
その下のWiiの電源の黄色いランプ、 ブルーレイレコーダーの青い光、
スカパーチューナーの赤い光
少し離れたところにあるインターネットのモデムのちかちか光る緑色のランプ・・・
さらさちゃん達だけの、お月様、お星様が、あったって、まったく構わないわ、と、みーちゃんは、思うのでした。
それは、とってもとっても、きれいに、光り瞬いていたのですもの。
さらさ・ホワイト・ジャクソン ♪ [さらさちゃん♪水想録]
「おい、こら、ほい、ほい」
「お母さん、あんまり、脅かさないでね、このこ達びっくりしちゃうから」
水槽の真上から、大きな声で、魚たちに呼びかけていたのは、みーちゃんのお母さんでした。
秋の連休に、みーちゃんの一人住まいへ、遊びに来ていたのでした。
「ほい、くろ!ほい!」
「お母さん、このこはね、でめちゃんっていうの」
「おい、こら、でめ!お前は、優雅に泳ぐな。それに比べて。このこは、せわしないね、あっちへ行ったり、こっちへ来たり」
「さらさちゃんのこと?」
「お前が、さらさか!前に見た時と全然見違えちゃって、どうしたんだね・・・病気か!」
「それがね、大人になって、体の色が、変化したみたいなの。あたしもさ、最初、病気かと思って心配したんだけどね、見て!ほら、うろこもピカピカしてきれいだし、元気に泳いでいるでしょう。病気じゃないと思うんだよね」
さらさちゃんは、元気印のゴールドオレンジだった体の色が、今では、尾ヒレの部分だけを残して、輝く白色に変わってしまっていたのでした。
「しばらく見ないうちに、白くなるなんて、マイケルジャクソンみたいじゃないの」
「マイケルジャクソン・・・って、そんな強引な!」
「名前も、変えるか。・・・おい、ジャクソン!お前は今日から、ジャクソンだ」
「ジャクソンねぇ・・・お母さんのネーミングセンス、たまに、すごくびっくりするよ」
すると、なんと、!さらさちゃんは、なんと、ムーンウォークならぬ、ムーンスイムを始めました!
・・・なんてはずはありません。
ですが、さらさちゃんは、どこか、嬉しそうにしているなと、みーちゃんにはわかりました。
だからといって、急に、名前を変えるだなんて、それは、考えものです。
「さらさって名前は、インスピレーションで、ぱっと決まったんだよね。そうやって名前が降りてくる時って、だいたい長く居着いてくれることが多いから・・・変えたくないなぁ、名前は」
「じゃあ、さらさ・ジャクソンにすればいいんだわ」
お母さんのその言葉で、みーちゃんは、ひらめきました。
「あっ!そうか、外国人みたいにね。じゃあ、『さらさ・ホワイト・ジャクソン』っていうのはどう?」
みーちゃん会心の思い付きです。
「そんな長い名前じゃ、呼びにくいわ!ジャクソンでいいわ、ジャクソンで」
「確かに。それなら、さらさちゃんのほうが、可愛くっていいよっ」
「ジャクソン」
「さ、さらさちゃんっ」
さて、さらさちゃんは、改名して、ジャクソンになってしまうのでしょ~か。。。
※マイケルジャクソンさんの、ご冥福をお祈りします。
さらさちゃんは、怖くナイ♪ [さらさちゃん♪水想録]
「さらさちゃんさ、最近、尾ひれの付け根のところが、伸びたよね」
「アイ?」
「そこが伸びるとさ、全体の身長が長くなるんだよね」
「ソゥ?」
「背びれはさ、さらさちゃんのまんまる目の上のスジのところから、ちょっとずつ、増えてくる感じだね」
「ン?」
「ほんと、大きくなったよねぇ」
みーちゃんが、水槽の上からのぞいたので、さらさちゃんは、水面へ上がって口を出しました。
「ナニナニ?ごはん~?」
「ごめんごめん、ごはんは、まだよ。あぁ、泳がしてあげたいな~、もっと大きな場所で」
みーちゃんが、顔をひっこめたので、さらさちゃんは、ごはんはまだだと思い、水中へ降りました。
「池でもいいかもね!あっ、でも、池は、危ないか。カラスにつっつかれちゃうし、石を投げる人もいるし」
「へぇ、みーちゃん、川は?」
「川は、流れが速いわ、流されちゃうし、危ない!石で頭をぶつかもよ」
「頭ぶつって・・・それは、ナイってばヨ」
さらさちゃんは、ちょっとむくれました。
すると、テレビのニュースが流れました。
『民家の空の上から、突如、お魚が降ってきたとのことです。原因がわからず、周囲は、戸惑っています』
みーちゃんは、眉をひそめました。
「誰かが、お魚を、空から落っことしたのかな。何で?水の中の生物が、自然に落ちてくるはずないものね、なんだか怖いわ」
さらさちゃんは、言いました。
「みーちゃん、怖い?」
「うん、理由もわからないし。さらさちゃんは、怖くないの?」
「怖くナイヨ♪」
「なんで怖くないんだろう」
「みーちゃんは、ナンで、怖いの?水の中は、安心ダヨ。一緒にお散歩できるとヨカッタネ~~」
さらさちゃんはそう言うと、でめちゃんのそばへ泳いでいき、並んで一緒に、玉砂利をつつくのでした。
みーちゃんは、思いました。
(あたしって、いつも不安ばかり抱えて、恐れてばかりいるわ。テレビのニュースより大事なことは、自分の身に起こるリアルなことのほうよね。今日も、一日、無事に過ごせたことに、感謝。そうだわ、久しぶりに、実家に電話しようかな。たまには・・・そうね、水槽の中のことも、忘れてもいい?今は、みんな元気だから、大丈夫よね。そうかぁ、水の中って、そんなに安心なものなのかぁ・・・)
みーちゃんは、その晩、さらさちゃんやでめちゃんや成田くんと、一緒に、水の底で綺麗な石を探す夢を見ました。
おやすみ♪ [さらさちゃん♪水想録]
みーちゃんは、ある夜、部屋の明かりもつけず、水槽の前に座っていました。
10分、20分、どれくらいの時間、そうしていたでしょう。
窓の外の赤や青色のネオンサインが、ゆらめいて、夢のように反射していました。
「さらさちゃん、でめちゃん、もう・・・寝ちゃったの」
アクアリウムは、癒されるというのは、本当です。
そう、そして、今のみーちゃんにとって、アクアリウムは、大事な金魚の世界のすべてであり、自分が世話をするべき対象でもあります。
癒し以上の愛すべきものといえるかもしれません。
「ねえ、元気なの?」
今宵の金魚達は、どうしたのでしょう。
みーちゃんを遠巻きにしたままじっとして、そばに寄ってきません。
「100パーセントの幸せって どうすれば手に入るんだろう、ね?」
金魚のさらさちゃんも、でめちゃんも、眠っているようです。
みーちゃんは、しばらく、じっと金魚の無事を確かめるようにしていましたが、やがて、
「おやすみぃ」
そう言って、眠りにつきました。
水温計の誓い♪ [さらさちゃん♪水想録]
「水槽の中は、どう?寒くない?」
「ドウってことナイヨ」
「そう?それなら安心したわ。今日は、春の雪が積もってね、とっても寒いのよ」
仕事から戻ってきたみーちゃんは、少し濡れたブーツと、薄手のコートを脱いで、部屋の灯りとストーブをつけ、さらさちゃんとでめちゃんの様子を確認したのでした。
「今度、コメリに行ったら、温度計買おうかしら?水替えの時の温度合わせ、完璧じゃないから、いつも気になってるのよね」
「ドウってことナイヨゥ~~」
しゃべり、考えることのできるハイパー金魚、さらさちゃんとでめちゃんは、お魚の子。
お水の中のことなら、なんだってわかっているし、答えてくれます。
あんまり、長いフレーズは、しゃべれませんが。
そして、お休みの日。
「じゃじゃーん!買ってきたよ」
突然言うと、みーちゃんは、吸盤付きの小さな水温計を、取り出しました。
「?(・・)」
「(・・)?」
さらさちゃんとでめちゃんは、みーちゃんの手元をじっと見つめます。ごはんの時間かとふと思ったり、思わなかったり・・・。
「ちょっと失礼するね。うわっ、やっぱ冷たいじゃん!?水!」
みーちゃんは、そう言って水の中に手を入れ、水槽の内側の角に、水温計を取り付けました。
すると、みるみるうちに、水温計の値が上昇していきます。
「あ~れぇ~?」
お魚達は、好奇心丸出しの感じで、水温計をつついたり、遠巻きに見たりしています。
「みーちゃん、何すんの?水カエ?コレなあに?」
「うん、水替えの時に必要なもので、『水温計』よ。ねえねえ、それにしても、お水の中って、暖かいのね。18度だって。手を入れると、もっと冷たく感じるわ」
「ココがいつもあったカイ」
でめちゃんは、顔をふりふり、濾過器のそばへ降りてゆき、そして、大きなヒレを綺麗に振って上昇しました。
さらさちゃんは、でめちゃんの後を追いかけています。
「水槽の中は、モーターがあるのと、それに、みんなが泳いでいるから・・・暖かいのね、きっと。だって、北の部屋においてあるお水は、いつだって、もっとずっと冷たいもの」
すると、さらさちゃんが、目線をそらさず、身体をもだえさせるようにして、みーちゃんの後ろを、指し示しました。
「みーちゃん。アレアレ!」
「なあに?さらさちゃん」
「みーちゃんが、アレを押すと、あったカイヨ~」
アレというのは、ストーブのことでした。
さらさちゃんは、いつも、水槽の中から、実によく、こちらを観察しているのでした。
「ストーブをつけると、お水も暖かくなるってことか。そういえば・・・」
昔、理科の時間に、習ったことを思い出しました。
太陽の熱によって暖められた海水は、夜になっても、冷えにくいということを。
それから毎日、みーちゃんは、朝起きると、水槽の温度を確かめました。
17度、18度、19度、18度・・・・。あまり、大きな変化はありません。
とはいえ、今はまだ3月で、お部屋には、ストーブの熱がかかせません。
「1度や2度の違いは・・・大したことないと思っていいわよネ」
みーちゃんが、つぶやきました。
すると、さらさちゃんが、言いました。
「水カエの時、ビックリ」
「びっくり?」
「でめは、チョービックリ、ドッキリ!なじめナイ」
「そっか」
「同じ水ジャナイノ死にそうにナルヨ」
「死にそうになる!?」
みーちゃんが、いつも、一番恐れていることです。
「大丈夫よ。私が、ちゃんと管理すれば済むことなんだから。心配ないわ!」
みーちゃんは、このコ達の命は、私が絶対守ってみせると、心に誓うのでした。
これから先、何年でも・・・。
綺麗で優しくて健気なもの♪ [さらさちゃん♪水想録]
「今日はテレビで、フィギュアスケートがあるの。一緒に見ようね」
みーちゃんは、テレビのチャンネルを替えました。
「浅田真央ちゃん、中野友加里ちゃん、がんばって!!!」
「さらさちゃんは?」
「興味ナイって、砂利突っついてるヨ」
「そうなの。でめちゃんも、スケート興味ない?」
「ボクは、見たい」
白いスケートリンクの上を、綺麗な服を身につけた選手達が、回りながら踊っています。
「上手に舞ってイルネ」
「でめちゃんも、そう思う?」
「うん」
「氷の上って、寒いのよ。あんな薄着で風邪ひいちゃわないかしら」
「コオリノウエ?」
「氷ってね、すっごく固くて冷たいの。その上を、スケート靴を履いて滑るのよ」
「ヒトも、水の中で舞わナイの?」
「ヒトは・・・なんでもやるわよ。鳥のように空を飛んだり、魚のように泳いだり。憧れが強いのか、なんなのかな。人類の歴史・・・」
「・・・?」
「あはは!なんでもないよ。あ、真央ちゃんが始まるわ」
月の光のメロディーにのせて、浅田真央さんが滑ります。
ジャンプ、スピン、スパイラル、美しいスケーティングで、笑顔を見せる浅田真央さん。
「ボクもあんなふうに、舞うんだ」
でめちゃんは、大きな胸ヒレと尾ひれを揺らしながら、にこにこと、横泳ぎしました。
「でめちゃん、うまいうまい!」
みーちゃんは、拍手をしました。
でめちゃんは、健気にこちらを見ています。
「なんだか、あたし、涙が出そう」
「みーちゃん、どうしたの?」
砂利を突っついていたさらさちゃんも、浮かび上がってきました。
みーちゃんは、思っていました。
(綺麗で優しくて健気なものは、人を癒してくれる。そしてそれは、今日の浅田真央ちゃんかもしれない。
そして、あたしにとっては・・・)
夜空には、月の光が美しく光っていました。
すーいすいの距離♪ [さらさちゃん♪水想録]
でめちゃんとさらさちゃんは、今日も、並んで泳ぎます。
左へひらひら 右へひらひら
砂利をちょこちょこ みちょこちょこ
合わせてちょこちょこ むちょこちょこ
金魚たちは、ぶつかることもなく、上手に泳ぎます。
人間なら、
「あ、すいません!」
となるような距離でも、そんなことなく、すーいすい。
寄り添いながら、すーいすい。
小千谷の錦鯉見て来たよ♪ [さらさちゃん♪水想録]
「さらさちゃん、今日ね、小千谷の錦鯉を見て来たよ」
金魚のさらさちゃんは、みーちゃんが帰って来たので、水槽の手前のほうへ寄りました。
「お帰り!みーちゃん。にしきごい・・・?みーちゃんは、恋多きオンナだネ」
さらさちゃんは、ひょっとこみたいに、おどけました。
「そうじゃないのよ~その恋じゃなくってね、お魚の鯉!
錦鯉ねぇ、きれいだったよ、大きかったよ~。それでね、目は小さかった。といったって、さらさちゃんよりも大きい目だったけど、体の比率からいったら、小さな目だったっていうか・・・。それでね、錦鯉はね、何十年も生きるんだって。あたし、すっかり魅入られちゃった」
みーちゃんは、マグカップにココアを入れ、ポットのお湯を注ぎました。
「それでね、えさをあげたの。そのえさはね、こ~んなに大きいの。アイスのコーンの中にたっぷりと入っていて・・・それをね、そのコーンごとあげていいですよってことだったの。錦鯉達、ぱかっと大きな口で、みるみる吸いこんでいったのよ」
さらさちゃんは、みーちゃんが話すのを聞いて、そのアイスのコーンの中に入っていた大きなえさというのに、大変興味を持ちました。
「ねぇ、みーちゃん、にしきごいのえさは、金魚のと違うの?」
「大きさが全然ね。あ、ねえそうだわ、ちょっと待っててね」
みーちゃんが、かばんから小さな紙袋を探ると、たった一粒だけ、錦鯉のえさが残っていました。
「!」
さらさちゃんは、そのえさを見ると、水面から半分以上も顔を出し、いつもの倍速で口をぱくぱくさせました。
「あらあら!さらさちゃん、無理よ~。あはは!こんな大きなえさ、あげられないわ。小さく砕いてからにしなくっちゃね」
さらさちゃんは、あきらめません。ぴょんぴょん飛び上がって、えさをそのままの大きさでちょうだいと、催促するのでした。
みーちゃんは、言いました。
「さらさちゃん、それじゃあ、でめちゃんを呼んできてくれる?」
「ン?」
さらさちゃんは、聞こえないふりです。大きなえさを、全部一匹で、食べようというのでしょうか。
「わかったわ。はい、さらさちゃん」
みーちゃんは、根負けして、水面に、錦鯉のえさを浮かべるのでした。
さらさちゃんは、大喜びでえさに飛びつきました。
ところが、えさは、硬くて大きすぎ、ちっとも、さらさちゃんの口の中に入りません。
しばらく頑張っていたさらさちゃんでしたが、とうとう諦めて、みーちゃんに言いました。
「イイ夢見せてもらったゼ・・・」
雨の音♪ [さらさちゃん♪水想録]
外は雨。
お部屋の中は、薄暗く、雨の音が響いています。
今日は、ボーイフレンドの成田くんが、遊びにきていました。
みーちゃんは、水槽の中のさらさちゃん達を紹介しようかどうしようか、考えていました。
というのは、成田くんが、お魚に興味があるかどうかわからなかったからです。
もし、さらさちゃん達を紹介して、変な顔されたらどうしよう・・・?
そう思うと、うまく切り出せなかったのでした。
「みー、金魚飼ってんだ。でけぇ水槽!」
テーブルについてコーラを飲んでいた成田くんが、ふいに言いました。
みーちゃんは、彼が金魚に興味を示してくれたことに嬉しくなり、やっぱりさらさちゃん達を紹介しようと思いました。
「そうなの!金魚ってね、すごくなついて、可愛いの。おいでおいで~なぁんて、へへへ」
「まじで!?」
成田くんは、立ち上がって水槽の前まで行って、腰をかがめました。
小赤のさらさちゃんと、黒でめ金のでめちゃんは、眠っているように水中に浮かんでいました。
みーちゃんは、どきどきして、その様子を見守っていました。
すると、成田くんが、水槽から目を離さずに、ちょっと眉をひそめました。
「ん!?何だお前ら、やけに俺をじっと見て?」
みーちゃんは、笑いました。
「うちの子達、ほんとにいつも、こっちばかり見てるから。ほら、さらさちゃん、でめちゃん、成田くんですよ~」
「ははははっ、金魚に、名前つけてんの!?」
みーちゃんは、いけないっと思いました。
金魚に名前をつけているなんて、そんなマニアックな女の子を、成田くんは、どう思うだろう?
嫌いにならないだろうか。
ついうっかり、いつもみたいに、名前を呼んじゃったけど・・・。
外は、どしゃぶりの雨。
家の中にいても、水槽の濾過器のぶくぶくの音が、かき消されてしまうほどの、ものすごい降りです。
みーちゃんは、気がつきました。
「お魚達、今日はおとなしい。この時間ならね、いつもはもっと、泳ぎまわるはずなの。あぁ、眠ってるみたいだわ」
「人間と一緒で、雨降ってると、憂鬱になるんじゃねー?」
「あ、そうかも知れないね」
ますますひどくなる雨の音に、話し声さえ、聞こえなくなりそうでした。
部屋の中は、まるで、水槽になってしまったように、ひんやりとして感じられました。
「お魚達は、きっと、雨の音を聞いているのかも知れない」
「まるで、魚になった気分だなぁ」
みーちゃんと成田くんは、寄り添いながら、昼寝しているお魚達を、眺めるのでした。
人を救った?魚のお・は・な・し [さらさちゃん♪水想録]
「ねえ、さらさちゃん、でめちゃん、お魚のすごい物語があるの。聞きたい?」
小赤のさらさちゃんと、黒でめ金のでめちゃんは、思い思いに過ごしていましたが、
みーちゃんの一言で、ひれを振り振り、集合しました。
「どんな?」
好奇心旺盛魚さらさちゃんが、丸い目をまるくしてたずねました。
みーちゃんは、答えました。
「お魚がね、人を救った話なの」
「お魚が、ヒトをすくった?」
でめちゃんが、控え目に小さな声で言いました。
「みーちゃん、お話して」
そこで、みーちゃんは、早速、お話を始めました。
「ある朝はやく、マヌという名前の人に、手を洗うための水がもたらされました。マヌが、水を使っていると、一匹の魚が、
彼の手の中に入りました」
さらさちゃんが、口をはさみました。
「みーちゃん、お魚、大きいの?」
みーちゃんは、考えました。
「そうねぇ、手のひらに入るサイズだから、きっと、さらさちゃん達くらいじゃないかな~きっと?」
さらさちゃんは、意外だとばかりに、上下に泳ぎました。
「そうなの?すごーい」
「そ、そう?」
みーちゃんは、先を続けました。
「その魚は、マヌに言葉をかけました。
『わたしを、お飼いください。あなたを助けることがあるでしょう』
マヌは、魚に言いました。
『何ごとからお前は、わたしを救うのだ?』
『洪水が、あらゆる生き物を洗い流すでしょう。それから、あなたをお救いするのです』
さらさちゃんは、わからないといった調子で左右に泳ぎながら、言いました。
「アイ、アイ!みーちゃん!魚は、どうして、オカイクダサイって言ったの?それと、コウズイってなあに?」
みーちゃんは、さらさちゃんに顔を近づけました。
「お魚はね、たぶん、マヌの助けになりたかったから、お飼いくださいって言ったのよ。それから、洪水っていうのは、川や海から水があふれだして、どこもかしこも水びたしになっちゃうことよ」
さらさちゃんは、ちょっと、練習がてら繰り返しました。
「わたしを、オカイクダサイ?オカイクダサ~イ?こんな感じ?」
でめちゃんが、真剣な顔でうなずきました。
「なるほど!水びたし・・・それで、ヒトがすくえるんだ」
みーちゃんは、さらさちゃんとでめちゃんの様子を見守りつつ言いました。
「先に進んでもいい?」
「アーイッ!」
「うん」
「マヌは、お魚に聞きました。
『どのように、お前を飼育しようか?』
すると、お魚は言いました。
『われわれは、小さい間は、大きな魚にのまれてしまいます。
ですから、はじめは、ビンの中で、お飼いください。
それより大きくなりましたら、地面に穴を掘り、水をはってお飼いください。
もっと大きくなりましたら、海へ放してください。その時には、わたしをのむ魚はおらず、
危害もないでしょう』
さらさちゃんは、飛び跳ねました。
「みーちゃん、やっぱり、お魚、大きくなるネ」
今度は、みーちゃんが、驚く番でした。
「さらさちゃん、このお話知っているの?」
「ううん?」
「でめちゃんは?」
でめちゃんも、顔をふりふりして、知らない様子です。
「じゃあ、その先ね。えーっと・・・。
たちまち魚は、大魚となりました。それはそれは、素晴らしく成長しました。
魚は、マヌに言いました。
『〇〇年に、洪水が起こるでしょう。舟を用意してください。わたしを待っていてください。
洪水が起こったとき、 舟にお乗りください。そうすれば、わたしがあなたを、お救いいたします』
マヌは、言われたとおりに、魚を飼育し、大魚になったところで、海に放しました。
やがて、魚が予告した年に、洪水が起こりました。
マヌが、用意しておいた舟に乗ると、魚が近寄ってきました。魚の角にロープを結びつけると、
魚は、北の山に、舟を導きました。マヌは、魚が言うとおり、水が引いてから、下へ降りたのでした。
おしまい」
みーちゃんが話終えると、でめちゃんが言いました。
「みーちゃん、それ、誰がつくったおはなし?」
「あのね、インドという国に古くから伝わるお話なのよ。
『ヴェーダ』という聖典のブラーフマナの一節って、書いてあるわ」
でめちゃんは、にこにことして、長いひれで優雅に泳ぎながら、言いました。
「お魚が、ヒトを救うためには、世界中が、水びたしにならないとだめなんだよね。
ぼくたち、水がないと、泳げないからね」
さらさちゃんは、スイスイスイと泳ぎまわり、みーちゃんのいるところで、ぴたっと静止して言いました。
「魚が、ヒトをすくうには、大きくならなくっちゃ♪それには、ごはん、ごはん、ごは~ん♪
ね~え♪みーちゃん?ごはんまだ?」
みーちゃんは、なんだか、自分のほっぺにごはん粒でもついているような、おもはゆい気持ちがするのでした。
みーちゃんの半分眠り [さらさちゃん♪水想録]
「みーちゃん?ねえ、おーーーい!」
さらさちゃんは、水槽の中から、口をあけて一生懸命呼びました。
「みーちゃん、半分眠りしてんのっ!?」
半分眠りとは、お魚達がよくする、目を開けたままうつらうつらすることをいいます。
そうなのです。
みーちゃんは、さっきから、身動きもしないで、
いつものお決まりの椅子にすわったままなのです。
時折、まばたきはするものの、視線は宙を見つめたまま動きません。
さらさちゃんは、同居魚のでめちゃんと一緒に、みーちゃんが次にどうするか、見ていました。
「あっ、でめ!見て!みーちゃん、今、息をしたヨ」
「うん」
「死んでない?」
「死んでないんでない?」
「アイ?」
「死んでないよ、ほら!」
みーちゃんは、また、息をひとつ吐き出しました。
「みーちゃーん」
「みーちゃぁん」
今度は、さらさちゃんとでめちゃんの2匹で、泳ぎながら、同時に呼びました。
すると、
「はっ、いっけない!あたしここで、何してんだろね。さっきから、だいぶ経ってるよね」
「よかったぁ!みーちゃん、死んでなくて」
さらさちゃんが言うと、みーちゃんは、笑いました。
「心配してくれてたの?ありがとう、さらさチャンにでめチャン、可愛い金魚達。あたしは、簡単に死なないわ」
「よかった!」
「うふふ」
さらさちゃんは、みーちゃんがいつも通りの元気を取り戻したので、安心して、一泳ぎしてきました。
その直後、またなのです。
みーちゃんは、頬杖をついたまま、じっと動かなくなってしまいました。
「・・・」
「・・・」
みーちゃんの様子は、なんだか、病気とは違う感じです。
「みーちゃん、何か、お悩み?」
さらさちゃんは、水草をかじるふりをして、横目で、そっと聞きました。
「うん。ちょっとね」
「チョット?」
「ちょっとした恋の・・・」
「ン?」
「ううん、何でもない。さらさちゃんは、でめちゃんと出会ったばっかりの頃は、でめちゃんのこと、つっついたりしたわよね。
でも、しばらくしてしなくなった。その後は、でめちゃんの後ろをついてまわって泳いだり、砂利掃除したり、泳いだりしていつも、そばにいて仲良し。その姿を見てると、とっても微笑ましくて、あたしも、癒されるなぁって思うの」
「へえ」
「それにね、でめちゃんは、とってもマイペースで、さらさちゃんもそうなのに、不思議となんだか気が合う感じに見えるわ」
「ン。でめとは、だいたい、いつも考えてること、一緒だから」
さらさちゃんは、そう言うと、でめちゃんに話しかけました。
「ね、でめ?そうでしょ?」
「うん、まぁ」
「えっ!?そうなの!?それって、すごくない?お魚の心ってみんな共通なの?」
みーちゃんは、驚きました。
「イマイ家の魚は、そうだよ、きっと」
「びっくり・・・。いいね。気持ちが通じ合っているんだね」
みーちゃんは、またしても、考えてしまいました。
「あのね、あたし、気になっているヒトがいるの。そのヒトは、優しくてすごく積極的な人なの」
「ヒト~♪」
「たくさん、優しさをもらったから、何かお返しをしたいなって思っているの。でも、どうしたらいいのか、わかんなくって」
みーちゃんは、水槽の中のお魚達を、真剣なまなざしで見つめて言いました。
「さらさちゃんとでめちゃんは、どう思う?」
すると、でめちゃんが、ふわりふわり水面を泳ぎながら、ゆっくりと歌うように言いました。
「イマイ家の金魚は、みーちゃんのことが、大好き♪」
「アイ♪右に同じく!それが、共通の思い!みーちゃんのことが、大好きだから、見つめるし話しかける!」
さらさちゃんも、得意げに、尾ひれを振って上下に泳ぎながら言いました。
「あ・・・!でもさ、はずかしくてそんなことできない時は、どうすればいいかしら?」
「えーと、それは、ナーンニモしないってこと?ボクたち金魚が、みーちゃんを大好きなのに、みーちゃんを無視するってコト?そんなことできないよ?ハズカシイってよくわかんない気持ちダナ」
「みーちゃんが、話しかけてくれると、嬉しいよ。だから、みーちゃんも、ヒト♪にそうすれば?」
「そうか、ありがとう。さらさチャン、でめチャン♪」
お魚達は、しゃべりすぎて、ちょっと空気が足りなくなったのか、水面へ上がったり、水草をつっついたりしはじめました。
その後、水中で一休みしました。
みーちゃんは、コーヒーを一杯飲みながら、好きなヒト♪のことを、真剣に考え始めるのでした。
金魚問答6 何往復? [さらさちゃん♪水想録]
さらさちゃんは、ゴールドオレンジのうろこを、輝かせて、
今日も、颯爽と泳いでいます。
「さあ、問題です。さらさちゃんは、一日に、水槽の端から端まで、何往復するでしょ~か!?」
みーちゃんは、数えました。
すると・・・
1分間に5回往復しました。
「単純計算でさらさちゃんが、一時間に40分泳いだとすると、200回。
朝6時に起きて夜10時に寝るとして16時間。
一日に何往復するかを計算するには、200×16時間=3200回。
うわ!すごい運動量!大変ね~!ごくろうさん、さらさちゃん」
さらさちゃんは、何を思っているのでしょう。
泳ぎに熱中しています。
ひょっとしたら、頑張りやのさらさちゃんのこと、
心身を、鍛えているのかもしれませんね。
がんばれ!さらさチャン。
金魚問答5 歩く練習? [さらさちゃん♪水想録]
ある春の朝のことです。
金魚のさらさちゃんは、体を垂直にして、砂利掃除をしていました。
その姿は、真剣そのもの。
「ねえ、さらさちゃん」
「なあに」
「疲れない?そんなに一生懸命につっついて」
さらさちゃんは、軽く肩?(金魚に肩があるとすれば)をすくめました。
さっきから、もう1時間も玉砂利をつっついているのです。
人間のみーちゃんは、はなれたところから、そーっと
水槽を見ました。
誰も見ていなければ、さらさちゃんは、休むんじゃないかと思ったのです。
ところが、さすがのさらさちゃん。
誰が見ていようと、見ていなかろうと、関係ありません。
マイペースです。
時おり、水中に浮かんでは、スイーと泳ぎ、
息抜きをして、また、底面へ降りていきます。
みーちゃんは、またさらさちゃんのもとへ行きました。
すると、さらさちゃんが言いました。
「ねえ、みーちゃん、見て」
さらさちゃんは、底面ぎりぎりのところを、スイーと泳ぎました。
「見た?」
「今の泳ぎ方、床をすべっているみたいだったネ」
さらさちゃんは、得意そうにまた、おんなじ泳ぎをしました。
「床を歩いているみたいに泳ぐ練習してんダ」
みーちゃんは、あっけにとられてしまいました。
金魚問答4 でめちゃん登場の巻 [さらさちゃん♪水想録]
「あれ?でめ助くんは?どこにいるの?姿が見えないよ」
人間のみーちゃんが、上から覗き込みました。
「濾過器の後ろの床で休んでるよ。ねえ、みーちゃん、知ってる?昨日の夜から、でめ、元気ないの」
さらさちゃんは、そういって上を見上げ、再び水中にもぐって、あぶくを一つつくりました。
さらさちゃんの同居人、でめちゃんは、大変おっとりとした金魚なのでした。
いつでも、ひらひらと蝶々みたいに、水中を舞うのです。
さらさちゃんはリーダー気分で、いつも何かと世話を焼いていました。
「でもね、だいじょうぶ。あたしたち金魚族はね、そういう時があってもいいの。また元気になるの」
それを聞くと、みーちゃんが言いました。
「大丈夫かな。私、さらさちゃんとでめちゃんに、ちょっと何かあればすぐ心配になるのよね」
「でめ、泳がないもんねー!今日」
さらさちゃんは、濾過器の裏へ回って、でめの様子を見守るのでした。
みーちゃんは、「金魚の飼い方」という本を開きました。
水槽の中で、きびきびと泳いでいるさらさちゃんと、ゆらりゆらり浮かんでいるでめちゃんは、本当に可愛い金魚たちです。
なにか、おかしな飼い方はしていないかと、今一度、確認します。
本を読みすすめていくと、こんなことが書かれていました。
〈 金魚の飼い方 一口メモ )
和金とでめ金は、
一緒に飼わないほうがいいのです。
なぜかというと、でめ金のほうが動きが鈍いため、
和金にえさをとられて餓死する恐れがあるためです。
「餓死だって!」
みーちゃんは、怖くなって、その本をばたりと閉じたのでした。
まさか、そんな・・・?
でめちゃんとさらさちゃんは、和金とでめ金です。一緒に飼っちゃいけなかったのでしょうか。
みーちゃんは、さらさちゃんを呼びました。
「さらさちゃん」
「ア~イ」
さらさちゃんは、呼ばれなくてもそこにいました。
いつだって、みーちゃんが近くにいる時は、見える場所にずっといるのです。
「私が、えさをあげるでしょ、そうすると、さらさちゃんのほうが、えさ捕りが上手で、『さらさプロ』って異名をとってるわよね?」
「アイ?」
「でもでも、そうだとしても、でめちゃんのほうが、えさを食べられなかったなんてこと、今までなかったわよね」
「ナイよ。だって、それは・・・みーちゃんが、えさを細かくしてくれるからだよ」
「そう?」
「でないと、どうしたって、あたしがみんな食べちゃうもん」
「大丈夫なのね!ああ、ほっとした」
すると、濾過器の後から、でめちゃんが、顔をふりふり泳いできました。
「でめちゃん!よかったぁ、元気で。ああ、泳いでる、泳いでる!」
でめちゃんは、あくびをしながら、みーちゃんのほうへやってくると、
「お、は、よ~」
といいました。
「寝てたのかぁ~」
一人と2匹は、無事を確認しあって見つめあいました。
金魚問答3(天職について) [さらさちゃん♪水想録]
「ハローワーク行ってくるわね。仕事替えたいの」
「みーちゃん、ハローワークってなぁに?仕事ってなぁに?」
金魚のさらさちゃんは、好奇心旺盛な金魚です。わからないことがあれば、すぐに質問します。
みーちゃんは、こたえます。
「仕事は、働いてお金を稼ぐこと。ハローワークは、その仕事を探す場所のことよ」
「へぇ、金魚的にいえば、どういうこと?」
「そうね、さらさちゃんの毎朝の砂利掃除がお仕事になるかな」
「ごはんを食べることも?」
「ううん。ごはんを食べることは、ご褒美にあたるから、お金をもらうことのほうになるね」
「へぇ~」
金魚のさらさちゃんは、ごはんにそんな意味があったなんて、知りませんでした。
「シゴト替えようカナ~」
泳ぎながら砂利をつっついて、さらさちゃんは、みーちゃんの真似をして言いました。
「さらさちゃんには、砂利掃除が天職だと思うな」
さらさちゃんは、窓の外を見て言いました。
「雪降ってきた。今日は外に行くのやめたら?みーちゃん。寒いよ」
「うん、そうね。じゃあ、ネットで検索しよっかな。ありがとう、さらさちゃん」
「アイ」
みーちゃんは、ノートパソコンを開きました。しばらく検索していると、おもしろいサイトを見つけました。
「脱力系天職エンジンだって。ヒトコムドットネット。ヒト・コミュニケーションズ。なぁにこれ、おもしろそうね」
みーちゃんは、クリックしてみました。
すると、ニックネーム、星座、血液型などをちょこっと入力しただけで、天職が画面に表示されました。
「こんな職業もあるのね、『福袋鑑定士』だって。人材派遣サービスの会社なんだわ」
お家にいながら仕事探しができるとは、便利な世の中になったものですね。
金魚問答 後編 [さらさちゃん♪水想録]
「ただいまー!ごめんね、すぐごはんあげるからね」
みーちゃんが、温泉旅行から帰ってきました。
そして、おみやげの箱やかばんを椅子の上に置き、急いでえさの袋を手にしました。
「ごは~ん、ごは~ん、ごは~ん、ごは~ん、ごはんをゲーット♪」
金魚のさらさちゃんは、なにかの替え歌を口ずさみながら、右に左に泳いでいます。
みーちゃんは、天井のふたを開けて、上からのぞきこみました。
「じゃぁ、いくよ~」
「はやく、はやく」
みーちゃんは、一粒ずつ、えさを落としていきます。
「ほれ!さらさちゃん」
「アイ」
「もうひとつ!」
「アイッ」
「調子出てきたね~、そらもういっこ!あっ、いっぱい落としちゃった」
さらさちゃんは、嬉々として、えさに飛びつきます。
「アイ、アイ、アーイ」
「よーしよし、お腹減ってたんだね。そうだ、これはおみやげネ」
みーちゃんが、おみやげと言って、水の中に入れてくれたものは、きれいなビー玉でした。
さらさちゃんが口でつっつくと、それは、ゆらゆらとゆれるのでした。
「食べられないよね?これ」
「眺めるの。綺麗でしょう?」
「みーちゃんらしいや」
さらさちゃんは、お腹もいっぱいになり、満足して水槽の中を泳ぎまわりました。
金魚問答 前編 [さらさちゃん♪水想録]
金魚のさらさちゃんは、水槽の中で昼寝をしていました。
「じゃあ行ってくるね」
突然声をかけられてびっくりして、軽く飛びはねました。
「どこ行くの?」
「温泉に行ってくるわ。だからさらさちゃん、しばらくは、水草をかじって耐え忍んでね」
みーちゃんは、人間です。にぎりこぶしをつくってみせました。
「ごはんは?」
「あさってまであげられないの。なんとか気合で乗り切るのよ」
「・・・」
金魚のさらさちゃんは、ごはんがもらえないことに抗議の気持ちをこめて、尾ひれを細かく振りました。
「ごはん抜き?やだよ。あたしも、一緒に行く」
「さらさちゃんも一緒に?」
みーちゃんは、想像しました。だめです。だってさらさちゃんは水の中じゃないと泳げません。
「聞き分けのないこといっちゃだめよ」
さらさちゃんは、むくれました。
「みーちゃんと川を泳いで一緒に行くのは?」
「泳ぐの苦手だもの」
「そっか、ひれがないもんね。川なら一緒に行けると思ったのになぁ」
さらさちゃんは水槽の中を、マッハの勢いで一周してみせました。
「温泉ってどんなの?」
「熱い水の中につかって、『あ~いい湯だなぁ』っていうものよ」
「えー?熱い水の中で泳ぐの?」
「ううん、首から上だけ出してつかってるだけ」
「な、なにそれ?変だよ、みーちゃん。あたし、待つことにする」
「さらさちゃんに、ちゃんとおみやげ買ってくるわ」
「アイ」
「じゃあ、ほんとに、行って来ます。留守をよろしく」
「いってらっしゃアイ」
みーちゃんが、ドアを閉めて出て行くのを見届けた後、さらさちゃんは、ちょっとだけ水草をかじりました。
それから、せっせと砂利掃除をはじめました。
短篇小説 W 別天地へ行け