満月の夜の冒険11.庭先で [短編童話 満月の夜の冒険]
十一 庭先で
両親が出かけた後、すずかちゃんは、じょうろを手に持ちました。気づくと、みりが、玄関ドアから顔を出して、こちらを見ていました。
「みり、遊びに行く?」
みりは、芝生へ出て、近くに生えていた、長くのびた草をかじりました。それから、木によじのぼり、鳥とお話しをし、あたたかな日光と、風のにおいを、楽しみました。
みりの姿を見て、びっくりしたのは、野ねずみの親子でした。畑のすみっこの穴ぐらの中に隠れて、しばらくの間は、家族全員、外出禁止にするようです。
「あっ、モンシロチョウと、アゲハチョウもいる。」
すずかちゃんは、空を見上げてから、植木鉢やプランタのひとつひとつに、水やりをしました。ピンク色のプリムラの花や、紫色のイパネマの花、だいだい色のマリーゴールドの花が咲いています。少し手を添えて、茎や葉っぱ、土のところに、じょうろの水をたっぷりとかけました。
「こんなところにいたの、かえるちゃん。」
ぴょんと飛び出てきたアマガエルは、びっくりしたようすで、逃げて行きました。
マリーゴールドの植木鉢の葉かげで、むしの夫婦がそわそわしていたようでしたが、すずかちゃんは、気がつきませんでした。
「よし、水やり、おわり! お家へ入ろう。」
それを聞くと、みりは、走って来て、すずかちゃんの脚に、頭をすり寄せました。
「家に入ったら、身体をきれいに拭いて、ブラッシングもして、おやつを食べて、待っていようね。」
「にゃあ。」
ふたりは、お家へ入って行きました。
今日は、みりに、弟か妹ができる、記念日です。みりには、そのことがちゃんとわかっていました。お父さんとお母さん、すずかちゃんとみり、そして子ねことの、あたらしい生活がはじまるのです。
すべての家族にとって、しあわせな生活が送れますように。
おしまい。
短篇小説 W 別天地へ行け