別天地へ行け 12 嘘 [地下世界ヲ脱出セヨ 乃亜シリーズ♪]
12 嘘
時は、いつの間にか「宵」に変わり、世界は、青白い薄明かりに包まれた。
里奈は、何にも言わずに、蓮に抱きついて泣いていた。
蓮は、困った様子だったが、やがて泣きやんだ里奈と、握手をかわした。
「さあ、もう帰らなきゃ。これからは、学校で会えなくなって、寂しくなるけど、頑張れよ。里奈は、笑っていたほうが、ずっといいよ」
「うん・・・」
蓮がこちらを見た。目が里奈をよろしくと言っていた。
「心配しないで。そっちは、リウヤ君をよろしくね」
「そうだ、これ、携帯灯を持って行って」
「いいの?」
「いいんだ。僕らは多少暗くても、平気さ」
蓮は、リウヤ君を背におぶって、第21区の方角へ歩いていった。
別れ際、里奈が、再び声をかけた。
「蓮!ばいばい!」
「おー!ばいばい。気をつけて」
蓮は、振り向いて笑い、去って行った。
さあ、里奈には悪いけど、なんだか疲れた。
私達も、急いで帰らなくては。青白い地下道に、もう歩く人の姿はないのだから。
地下道を歩く足音が、かつんかつんと響いた。
里奈は、私の腕にぴったりと寄り添っていた。
今日で、学校を卒業したとはいえ、「宵」の頃に外を歩くことは、少女時代にはあってはならないことで、恐ろしいのだろう。
「蓮が、男子達と一緒に、私に求愛したって話した時・・・焦った?」
「えっ?」
焦ってなんかいないわよ、と言おうとして、私は口をつぐんだ。それを言ったら、たぶん嘘になる。あたしは、ちょっとは焦ったし、羨ましくも思ったのだから。
「わかってる。乃亜は、そんな人じゃないもんね。いつも冷静だしさ。でも、悔しいから言わないけど、蓮の気持ちは、あたし手に取るようにわかる。・・・わかりたくないことでもね。伝わってきちゃう。あっ、でも今日は、蓮にハグしてもらって全部帳消し。幸せだからっ」
小川も、まるで私達とお話しているかのように、こぽこぽと音を立てて流れた。その音は心地よいBGMとなり、心にあったわだかまりをも、冷たく流し去っていった。
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