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別天地へ行け 13 母からの贈り物  [地下世界ヲ脱出セヨ 乃亜シリーズ♪]

01_02_15_02002803.gif13 母からの贈り物

家に帰ると、母さんは、奥の部屋で休んでいた。

「母さん」

呼びかけたのだが、ぐっすりと眠っていて起きなかった。
母さんは、この頃よく、体調がすぐれないことを口にするので、心配だ。
卒業のお祝いをしてくれるからと、朝からはりきっていたせいで、きっと疲れたのだろう。
石造りのテーブルの上に、おいしそうな料理が並べてあった。
お腹がすいたので、ちょっとだけつまみぐいをした。
母の味は、久しぶりのような気がした。
父が亡くなってから後、母は、私を育てるため、一生懸命に働いてくれた。
セラミックのうわぐすりを調合する仕事は、繊細な技術が必要だから、細かい神経の持ち主の母さんにとっては合っているかも知れないと思ってはみるが、働き過ぎは、身体を壊してしまう。
母さんに少しでも、楽をさせてあげたい。
私は、母に上掛けをそっとかけてあげ、自室へ入り、かばんを置いた。
それから、自室を出て、髪をひとつに束ね、夕食の準備にとりかかった。

(今日は、ごちそうだから、お祝い用のお皿を使っちゃおう)

私は、戸棚から、瑠璃ゆう色のお皿を選んで、テーブルの上に置いた。

大昔から、第22区の人々は、セラミックを作って暮らしている。
村のあちこちに、小さな窯がある。
セラミックは、土を固めたものに、うわぐすりをぬって、窯で焼いて作る陶磁器で、素焼きのもあれば、硬質で極彩色のものもあった。
幼い頃、父さんと一緒に、村一番の窯場へ行ったことを思い出した。

「セラミックはここで作っているんだよ」

その時の父は、上気していた。
あちこちの釜の熱気もすごくて、わたしは、近づいたらやけどをするのではと怖れた。

「セラミックは、万物の色をすべてをあらわすといわれているんだよ。うわぐすりを混ぜるやり方や、窯の熱さ、炎の感じや空気の入りかたで、たくさんの色あいが出てくる。美しいね!まるで地上の神秘のあらわれのようだ。この村のセラミックは地下世界が誇る芸術だ」

子供は、親から教わって、いい土を捜しに行く。
それが日課だ。
私も、母から、いい土の見分け方を、小さな頃に習った。
少し大きい子供は、土の成形をするようになる。
家の神様の御膳にささげる素焼きの皿を作るのだ。
神様の御膳のお皿は、毎日新しいものと取り替えられ、使った皿は、土へ戻される。

そこへ、母さんが起きてきた。

「母さん、具合はどう?」
「すこし眠ったらよくなったわ。あなたが帰ってたのに、気づかなくてごめんなさい」
「私、何にもしてないわ。お皿出しただけだもん。母さん、ごはん食べられそう?」
「ええ、せっかく、今日はごちそう作ったのだから。いっぱい食べてね、乃亜ちゃん」

私と母さんは、いつもより豪華な食事を前に、乾杯した。

「これからは、母さんが楽できるように、私が家のことをするね」
「・・・あなたは、自分のことだけ、考えなさい。母さんのことはいいのよ」
「そんなこと言わないで。私だって、母さんの病気、心配なんだもの」
「母さんは、大丈夫よ。あなたに、渡すものが、あるわ。はい」

それは、新しいかばんだった。麻布でできた丈夫そうな生地でできていた。

「ありがとう。新しいかばん欲しかったのよ」
「中を開いてごらんなさい」

かばんの中に手を入れると、茶色い封筒が入っていた。

「手紙・・・なんて古びた封筒」
「あなたが、中学を卒業したら、渡してほしいって、父さんに言われていたのよ」
「まさか、父さんからの手紙なの!?」

母さんは、微笑んだ。

「すぐ開けてみなきゃ」
「いいのよ。後で、ゆっくり読みなさいな。それは、あなたへの大切なメッセージなのだから」

母さんは、そう言って、祝いの杯を飲みほした。

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2010-07-13 11:30  nice!(0) 
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短篇小説 W   別天地へ行け

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