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別天地へ行け 4 母の過去 [地下世界ヲ脱出セヨ 乃亜シリーズ♪]

01_02_15_02002803.gif4 母の過去

「お帰りなさい。どうしたの、遅かったじゃない。もう母さん、乃亜ちゃんが帰ってこないんじゃないかと心配したわ」
心配性な母につきあっていると、こちらまで、不安が移ってしまいそうだ。
まずは、安心させてあげないといけない。

「ただいま。そんなわけないじゃない。大丈夫よ」
「帰ってきてくれたら、それでいいのよ。夕ご飯にしましょう」
「うん」

うちは、母一人対子一人の家庭だ。

「さっきね、お隣のマナさんと帰りが一緒だったの」
「あら、マナさん、しばらく姿を見てないと思ったら、お家にいたの?」
母が、少し驚いたみたいだったので、どうしてかと思った。

「マナさん、どこかへ行っていたの?」
「さあ、母さんも、よく知らないのよ」
「マナさんね、身体の具合が、最近はよかったのに、また今日、ぶり返しちゃったみたいなのよ。さっき、そこまで一緒だったから、家まで送ってきたわ」
「あらそうなの」
「お隣のうちは、兄弟姉妹が大勢いてにぎやかだったわ」
「そりゃあそうよ」

私と母は、夕飯を食べ終えた。母は、持病を抱えているので、普段、家事は私がしていた。だから、今日みたいに元気だと嬉しかった。

「母さん、休んでていいよ、私が片づけるから」
「大丈夫よ、今日は気分がいいもの」
「いいから、いいから」

私は、母の背を押して、椅子に座らせた。
「乃亜ちゃんには、世話になりっぱなしで、悪いと思ってるのよ。母さんらしいことも、できなくて・・・。来月のお誕生日のプレゼント、何がいい?」
「え?どうしたの急に。物欲なんてないから、なんでもいいわ」
「まあ、ふふふ。あなたのその答え方、父さんにそっくり・・・」
「え、そう?」

母さんが、父さんの話をする時は、笑っていても悲しげな目をしている。だからいつも、あまり父さんの話はしないんだけど、でも今日は、聞いてみたいことがあった。

「ねえ、うちはさ、どうして他の家と違うの?どこの家でも、兄弟姉妹がいるのが当たり前なのに?私には、血のつながったお兄ちゃんお姉ちゃんは、いないの?」
母は、一瞬凍りついたようになり、少し視線を落とした。
「いるわ」
「本当!?」

私は、思わずうれしくなって、顔が上気してくるのが自分でわかった。
「会いたいなぁ。どうして、今まで、教えてくれなかったのよ、母さん」
「遠いところにいるの。母さんもずっと会っていないの」
「死んじゃったの?」
「死んだかどうかもわからない・・・」
「どうして!?」
「その子は、母さんの子であっても、父さんの子ではないのよ」
「そうなの?」

母が、何を言いたいのか、よくわからなかった。
「・・・乃亜ちゃんは、父さんが大好きだったわね?」
「うん」
「あなたには、父さんと暮らした思い出があるわね?」
「うん。でも、亡くなったのが小さな時だったから、少ししかない」
「他の家の子で、父さんと一緒に暮らしたことがある子はいるかしら?」

なぜ、母さんは、私に質問ばかりするのだろう。質問しているのは私なのに。
「里奈や蓮から、父さんの話が出たことはないわ。クラスメイトとも、父さんの話題は出ない」

大好きだった父さんが死んでしまって、私から父さんの話をすすんですることはなかったし、また、誰かに父さんのことを聞かれたことも、1度もなかった。
「どうして?父さんの事と、兄弟姉妹の事と、どう関係があるの?」

母さんは、意を決したように、語り始めた。
「あなたも、もうじき学校を卒業して、16歳になるわね。そろそろきちんと話しておかなければならない年頃ね。乃亜ちゃんも、母さんに似て、考えすぎるところがあるでしょう?だから、あまり、深く思いすぎないでほしいんだけど・・・」

一呼吸おいて、母さんは続けた。

「母さんは、思春期を終えて、保健局へ登録をして、すぐに、妊娠したの。でも、最初の子供はこの世に生まれてこなかった。とてもショックだったわ。相手は、1度会ったきりの人で、もう顔も思い出せない。2度目の妊娠は、また別の人と。今度は生まれてきてくれたけれど、未熟児だったから・・・死んでしまったのよ。母さんね、もう2度と、子供は産めないのじゃないかと思ったわ。
でも、その次の年は、無事に出産して、母子ともに順調だった。母さんは、国からお金をもらって暮らしが楽になった。だけど、生まれた子供は、10か月で、街の施設へ引き取られていった。その街では、それが当たり前だったのだけれど、母さんは、いつしか、声が出なくなってしまった。頭では理解しようと努めたけれど、心がうまくコントロールできなかった。
それでもまた、保健局から声がかかった。身体が健康なら、求愛を受ける義務があったの。そうしないと、生活していくお金がもらえなかった。でも、お金のために求愛されて子供を産むなんて・・・。母さんは、おかしいと思った。よく知りもしない男の子供を、また妊娠するのが恐ろしくなった。
それで、何もかも嫌になって、山へ逃げたの。そこで、どうでもよくなって、倒れてしまっていたところを、父さんに助けられたの」

「母さん、口がきけなかったから、父さんに、事情を話すことができなかった。でも、父さんは、旅の途中で出会った私に、食料と寝床を用意してくれた。母さんが元気になるまで、一緒に旅をしてくれたの。それで、たどり着いたのがこの村だった。
その頃には、母さんは、父さんのことを愛してしまっていた。でも、父さんは、この村にとどまるような人ではなかった。どうしても行かなくてはならない場所があって、危険がともなう場所だから、これ以上母さんを連れていくわけに行かなくなったのね。
父さんは、この村で、母さんの戸籍を取ってくれた。母さんが、口をきけず、病弱であることを理由に、保健局への登録を免除してくれるように頼んでくれたの。その代わり、女であっても、別の仕事ができるように取り計らってくれたのよ」

私は、納得できなかった。

「それじゃ、どうして、私は生まれたの?母さんは、病弱で、もう子供が産めないという届けを出して、別の仕事をもらったんでしょう?それなのに、私を産んだのは、なぜ?」
「父さんと母さんが愛し合ったから、自然に、あなたが生まれたのよ。そして、母さんは、口もきけるようになった。世間の人は、保健局を通して、たくさんの人と交わって、繁殖の仕事をするわ。子供を産むのが仕事になるから、特定の伴侶を持つことがない。生まれてきた子は、父親を知らない。あなただけなのよ。身近に、父さんがいたのは」

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2010-06-10 00:41  nice!(0)  コメント(0) 
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