使い鳥 やまと [詩と文学♪]
都市にそびえたつビルディング群の天辺が、雲海の中に隠れている。
巨大なコンクリートの固まりが、働いているすべての人を守っている。
夏の昼下がり。
鎮守の森の木の葉の陰で、羽をふくらませて休んでいる巨大な鳥たち。
街路樹の木陰のほんの小さな土の上に、うつむいて座っている、ぼく。
ぼくは、ビルディングを見上げるたびに恐ろしくてたまらなくなる。
足元には、たくさんの人や建物の影が、行き過ぎていく。
恐怖から逃れたくて、走る。
いつだって、守られているのは、働いている人。
ぼくのようなものは、なにものからも、守られない。
地下へ降りる階段を、ころげ落ちて、エレベーターの中で休む。
誰もいない、明るい室内。
ガクンと揺れて、ドアが閉まる。
丸い窓の外を見たとき、上昇の速度の速さに、愕然とする。
電光表示板のエレベーターの階数を見て驚く。
庁舎ビルだ。
ぼくが、この世でもっとも嫌いな、都市で一番高く誇らしげに建つ、憎らしいビルディング。
今、その中にいる。
窓の外の景色にもやがかかり、霞んでみえる。
ぼくは、上へ上へと昇っていく。
コンクリートの固まりは、
天井、壁、床、すべて冷たく、弱いものを遮断している。
働いているすべてのひとを守っているビルの中に、守られるはずのないぼくがいる。
ビルは、ぼくを、守ってくれるのだろうか。
突然、世界は揺らいでいると誰かが言っていたことを、思い出す。
揺らぎでできている、だったかも知れない。
不安が、こころを、震わせる。
からだも、
世界も。
ピンポン、180階でございます。
一本立ちするビルディングの影が、ゆらゆらと映る雲の上。
ピンポン、190階でございます。
湾曲する透明なガラス窓から、使い鳥の姿が見える。
使い鳥は、こちらへやってきて、こつこつとくちばしで窓をたたく。
ぼくを、呼んでいるようだ。
ピンポン、199階でございます。
エレベーターのドアが、突然消え去り、冷たい風がぼくの胸をさらう。
うつむくことも、下を見ることも、かなわぬ世界。
風の感触。
足元を見ずに、ぼくは進む。
まっすぐに、雲地を踏みしめる。
一歩一歩進む。
使い鳥が、雲のカーペットの、ずっと向こうにいるのが見える。
使い鳥は、飛行機と見間違えるほどに、大きい。
「さあ、いこう」
ぼくは、翼の羽毛につかまって、使い鳥とともに、風の中に飛び込んだ。
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