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別天地へ行け 16 谷 [地下世界ヲ脱出セヨ 乃亜シリーズ♪]

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16 谷

第21区へ向けて岩壁ストリートを急いでいると、同級生の母親に話しかけられた。

「おはよう!乃亜ちゃん。今からどこ行くんだい?」
「おはようございます。友達のところへ行ってきます」
「気をおつけ。あんた、女子はね、暗くなる前には家へ帰らなきゃ危ないんだよ。わかっているね!?」
「わかっています・・・でもまだ、朝ですから」

振り返ると、おばさんは、まだこっちを見ていた。
大人はいつも、警告ばかりで、具体的には話してくれない。
考え事をしながら歩いていると、第22区と第21区の境へやって来た。ここまで来たのは、久しぶりだった。ここから先は峡谷になっていて、絶景が広がっている。第21区は峡谷を下りて行った先にある。
ふいに、どこからか太鼓の音がして、音が止むと、谷の底から美しい鐘の音のメロディが鳴りだした。
私は、人が近づいてきたことに気づかないくらい、音楽に心を奪われていた。

「おい」
「わー、びっくりした!」
「乃亜、またひとりでこんなとこまで来たの?」
「蓮こそ、何してるの?」

まさか、待ち合わせてもいないのに蓮に会えるとはラッキーだった。蓮は、小ぶりの太鼓を持ち上げてみせた。
「昼のチャイムを鳴らす仕事。これをある場所でたたくと谷に反響して、谷底にあるでっかいオルゴールが動き出し、鐘が鳴りだすという仕組み」
「へえ、おもしろい」
「谷全体が音楽ホールのようになっていて、小さな音も反響しやすくなっているんだよね」
「それじゃあ、谷ではないしょ話はできないわね」
「するなら、でかい声でしろってことだな」
「そうだわ。あなたに、これを返しに来たのよ、携帯灯。昨日のリウヤ君のお姉さんのことも聞きたくて」
「お姉さんは、昨日は帰って来なかったよ」
「心配だわ。きっと、禁止岩の奥のほうへ行って、戻ってこられなくなっているのじゃない?うちのお隣のマナさんだって今朝になったらいないの。家の前にくつの片方が落ちていたのよ。心配でしょう?」

蓮の反応が鈍く、私は、わかってもらいたくて必死になった。
「ゆうべも叫び声が聞こえたの!『たすけて』って。おかしいでしょう!?」
「そんなにでかい声出さなくても」
「なによ、ないしょ話はでかい声でしろって、さっきは言ってたじゃないの!」
「はぁ」
蓮は、苔草の上に座り込んで頭を抱えた。

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2013-10-21 16:22  nice!(14) 
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短篇小説 W   別天地へ行け

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