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別天地ヘ行け 15 深夜の物音 [地下世界ヲ脱出セヨ 乃亜シリーズ♪]

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15 深夜の物音

寝る前に、大事なものを整理した。
勉強道具一式、母さんからもらったかばん、バザールで買った石板、小さな香水の瓶、そして、いつだったか、里奈と蓮とお揃いで買ったストラップもあった。一番大切なものにそれぞれがつけるという約束で買ったのだったが、私はまだどこにもつけていなかった。
そして、さっき、母さんからもらったかばんの中には、時を越えて、父さんからの手紙が入っている。これは、この中で一番エキサイティングな宝物になりそうだった。どきどきしながら取り出してみるとそれは、ぴっちりと糊で封をしてあり、すぐには開けられなかった。
父さんは、私にどんな言葉を残してくれたのだろう。
ナイフの刃先を封筒に当てたその時だった。

外から、物音が聞こえた。
私の部屋は、ストリートに面しているため、窓から音が聞こえることがあるが、今はもう、「半月」の時。いつもなら、誰も通ることのない時間だった。
気になったので、梯子をのぼり、窓の覆いを上げて丸い穴から外の様子をうかがおうとしたその時、声が聞こえた。

「たすけて!」

その声は、どこかで聞いたことがあるような放っておけない響きを帯びていて、私の胸をぐっとつかんだ。

「誰・・・?」

梯子の一番上にのぼり、窓から顔を出したが、すでに、ストリートには、姿はなかった。どこからともなく吹く風が、通り過ぎるのみだった。
今、確かに、声がしたのだ。「たすけて」と・・・。

次の朝、朝食の時、母に訊ねた。

「ねえ、母さん、昨日の夜、外で音がしたわ。何があったのだと思う?」

母さんは、サンドイッチを食べながら、答えた。

「何でもないわ。きっと、保健局よ」
「保健局は、あんな遅い時間に来る?」
「ええ、たまには、そういう時もあるわ」
「でも、夜に保健局に連れて行かれるなんて、きっと、とても嫌な感じでしょうね」

母さんは、手からサンドイッチを落として、むせた。

「大丈夫?母さん」

私が立ちあがって、背中をさすると、母さんは静かな声で言ったのだ。

「乃亜ちゃん、そんなこと言ってはだめよ」
「どうして!?」
「保健局の人達は、嫌がる人を無理に連れていくわけじゃないのだし、国のために仕事をしているのだから、とてもいいことだと思わないといけないわ」
「でもね、母さん、昨日は『たすけて』って声がしたのよ?それって・・・」
「もう、やめてちょうだい、乃亜ちゃん・・・ゴホッ、ゴホッ」

母さんは興奮すると、咳が出てとまらなくなってしまう。
止むなくこの話を続けるのをやめて、母さんを布団に寝かせた。
家のことを終わらせて、外に出ると、お隣の家から、ジョウくんとゼタくんの兄弟が出てきた。

「おはよう」
「おはよう。僕たち、おなかが減って死にそうだよ」
「朝ごはんは、まだなの?」
「うん。これから、ふたりでいもを掘ってくるんだ!」
「おいもを?お母さんは?」
「母ちゃんが、食べるもんがないから、いもでも掘ってこいってさ」

そう言ってスコップを振り上げて、ジョウくんが、明るく笑った。
私の家だって、いつもささやかな食事だが、2人きりの家族だから、食べていける。お隣は、人数が多いとはいえ、そんなに食べるものに不自由しているだなんて知らなかった。お母さんはもうお年を召しているし、どこかから仕送りをもらっていないのかしら。マナさんにしても、身体が弱いので、保健局での繁殖の仕事は免除されているし、どうやって生計を立てているのだろう。

すると、ゼタくんが、道端で、片方だけ落ちていた靴を見つけて拾った。

「これ、マナ姉ちゃんの靴だ!」
「ばか、早く、玄関に置いてきな!行くぞ、ゼタ!」
「あ、待って!」

男の子2人は、弾丸のように走って行った。残された私は、薄々感じていた知りたくない事実を、つきつけられたような思いで、戦慄を覚えた。
道端に、片方だけ落ちていたマナさんの靴。
昨晩、「たすけて!」と叫んだ、どこかで聞いたことのある声音。
いつも面倒を見てくれた優しいマナさんは、今どこに?
昨日公園でいなくなったリウヤくんのお姉さんも、無事に家に帰っただろうか?
一度渦巻いた疑念は、なかなか消えない。
そうだわ、蓮ならきっと、知っているはずだわ。
私は、いったん家に帰り、蓮に借りた携帯灯をポケットに入れ、かばんを肩にかけて、再び出かけた。
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2010-09-02 16:01  nice!(4) 
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