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別天地へ行け 14 父さんのおとぎ話 [地下世界ヲ脱出セヨ 乃亜シリーズ♪]

01_02_15_02002803.gif14 父さんのおとぎ話

「母さん、父さんは今頃、天国で何をしているかしらね?」

私が聞くと、母さんは目をつぶった。

「そうね、父さんは、やると決めたらとことんやり遂げたい信念の持ち主だったから・・・天国でも、あちこちの土を掘り返して、何か、不思議なものや神秘的なものを、探しているかもしれないわね」

母さんが目を開いた時、酔っているからか、父さんのことを思い出したからか、視線が揺れた。私は、懐かしい父さんの思い出を話した。

「父さんは、たまに家に帰ってくると、旅土産をくれたよね。きのことか、紙とか、笛とか。なかでも私ね、父さんが旅先で仕入れてきた『おとぎ話』が大好きだったの。母さんは覚えてないかもしれないけれど、『地上』についてのお話・・・私、大好きだったんだ。ねえ、母さん?この世界のどこかに、『地上』につながる『別天地』があるっていう話、覚えている?」

母さんは、悲しそうにうなずいた。

「『別天地』は、おとぎ話であり、研究テーマだったわ」
「研究テーマ・・・って、父さんの?父さんは、おとぎ話を研究していたの!?」

初めて聞く話だった。私は、母さんの話し出すのを待った。

「父さんは、おとぎ話に夢中になり過ぎたのね。世界中を旅してまわって・・・ついには、命を落としてしまったわ。『別天地』へ行こうだなんて、馬鹿げたことよ。おとぎ話の世界を追いかけすぎたのがいけなかったの。所詮、絵空事をいくら追いかけたところで、無いものは無いのだから・・・父さんには、それがわからなかったのよ」

私は、胸に高まりを感じていた。

「そりゃあ、おとぎ話なんて絵空事かもしれない。でも、父さんが生涯をかけて研究していたことなのだから・・・どこかに真実が隠されていたからこそ、夢中になったに違いないわ」
「父さんが、あなたの今の言葉を聞いていたら、喜ぶでしょうね。父さんは、あちこちで集めた石板を解読して、書かれていることに共通点があることを発見したの。『真実はひとつ』だって言っていたわ」

わたしはその頃、ほんの子供で、父さんが帰ってくる度に、おみやげは?と聞いていたのだった。リュックの中をのぞくと、石ばかりでがっかりしたことを思い出した。
でも、そうまでして集めた石版が、なぜ、今、わたしの家にないのかしら。

「母さん、石板は今、どこにあるの?」

はっとした。母さんが、目を丸くして私を見つめている。

「乃亜ちゃん・・・母さんが悪かったわ。父さんは立派な人よ。でもね、好奇心旺盛なことが、あだになることもあるの。石板は父さんが亡くなってから、国へ寄贈したわ。ひとつのことを命をかけて探求できる父さんを・・・母さんは、誇りに思っている。だけど、あまりに早く天国へ行ってしまったことを、恨んでいる気持ちもあるの・・・」

「ねえ、母さん!『別天地』にはすばらしい光の世界があるんだって、父さんが言ってたわ。『別天地』には、まだ誰も見たことがない光の柱が交差していて・・・千の月と日の柱を並べても追いつかないほどのその輝きは、たったひとつの松明をもって照らされるんだって・・・!父さんは、たったひとつの松明を持った人になりたくて旅を続けていたんじゃないかしら。私、父さんの考えがわかる気がするわ。だって私は、たった一人の父さんの子供なんだものね」

その夜、久しぶりに父さんのことを話した私達は、夕食の片づけとお祈りを済ませた。

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2010-08-08 15:24  nice!(0) 
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短篇小説 W   別天地へ行け

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