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別天地へ行け 7 白光の告白 [地下世界ヲ脱出セヨ 乃亜シリーズ♪]

01_02_15_02002803.gif7 白光の告白

その言葉は、本気だろうか?居住区外へ行くなんて?
あそこは、ほとんどがさら地で、立ち入り禁止の岩に、しめ縄が結ばれている。
あの辺り一帯は、灯りが少ないから、遠目に見ても、暗い地平が広がっていて怖い。
吸い込まれそうな闇が、奥に待ち構えているのだ。
冒険好きの少年ならば、一度は、携帯灯を持って、禁止岩の奥へ行ってみようとするだろうけど、私の周りの女子にはそんな勇気のある子は、いなかった。ただでさえ、女子は人数がとても少ないし、万が一、戻ってこられなくなるようなことがあってはいけないと、そのあたりは、親がきつく少女達を禁じていた。

「蓮は、怖くないの?もしかして・・・行ったことがあるの?」
「ああ、禁止岩の向こうには、岩陰がいくつかあって、そのさらに向こうには、横穴がある。横穴の向こうへは行ったことがないんだが・・・。見慣れない集団が、横穴からやってくるのを見たことが有るんだぜ!」

蓮は、未知のものに憧れる男の子らしい面を見せた。だが、里奈に、その冒険心は通用しなかった。

「だめよ、そんな危険なことをしちゃ!乃亜の石板のことは、不可抗力だったんだもの。可愛そうだけどしょうがないじゃない。ね?それに、その石板にもし価値があれば、バザールで逆に売ってみたらどうかしら?もしかしたら、いいものと交換してくれる人がいるかもしれないわよ」

里奈は、実用性に富んだ考え方ができる。良き母さんになる素養を持っている。

「そうしてみようかな。それ、すごくいい提案ね、ありがとう」
「でしょう?ほら、乃亜がそう言っているんだから。絶対にやめてよね、居住区外に行くなんて、あたしが許さない」

里奈は、蓮の前で、わかりやすく、両手を広げて通せんぼをして見せた。

「ねえ、ところで、蓮ったら、誰と一緒に来ているの?」
「ああ、あいつらだ。あそこにいるよ。大道芸人の前でしゃべってる。ジャグリングの真似してるぜ、何やってんだ」
蓮は、男子の輪のなかへ戻って行った。
蓮の友達は、第21区に住む、おしゃべり好きな明るい男子達だった。クラスは違ったが、みんな顔見知りだ。
こちらを、ちらちら見ては、叩きあったり、笑ったりしている。
「里奈、こいつらが、話があるってさ」
里奈は、男子に呼ばれた。

「え~、なんかふざけてるみたい。あたし、蓮と話したいんだけどな」
人の好い里奈は、誘いを断れない。里奈は、男子の輪のなかへ入って行った。

入れ代わりに、蓮が私の隣に来た。私達は、近くの座石に並んで座った。

「そうだ、勉強は、どう?選抜、うまくいきそうなの?」
「う~ん、まあここまで来たら、気分転換が大事かと思うよ」

男子は、来週早々に、試験がある。
まず、来週の試験で、選抜メンバーが決まるのだ。
蓮は、両手を組み、真剣な表情になった。

「僕らの人生の道は、幾つもに分かれているが、最初の分かれ道で、すべての出世へ続くドアは開かれ、そして閉じられる。優秀な者は、地下社会のために貢献し、プログラムを換えていく存在となり得るが、そうでない者は、容赦なく切り捨てられる。今の頑張りが後のすべてを決めるんだってはっきり言える」
「今が、頑張り時ね。でももし、選抜に落ちた場合は、どうなるの?」
「あと3年の猶予がある。その間に、自分の得意とすることを磨いていけばいい。もしも、その3年間で、技術を磨けなかった者は、開拓者として登録され、地下社会の広がりのための力となる。暗い穴倉のなかで作業を行う者は、いつの時代でも、大勢必要とされるからね」
「蓮のその細い身体じゃ、肉体労働は無理ね」
「ひどいな」

蓮は、笑った。
「けど、選抜にもれると、自分の遺伝子は、どこにも受け継がれないし、政府は、頭脳の優秀な精子を、後世へと引き継ごうとしているからさ」

「がんばんなきゃね。油断は禁物よ」

実は、私も、勉強が嫌いではなかった。
女子は、「良き母さん」となるべく教育を受けるが、私は、ひそかに蓮の教科書を借りたり、本を読んだりして、学びたい分野の知識を得ていた。
学びたいことはたくさんあって、今だって、とても知りたいことばかりある。
この社会のシステムのこと、これからの地下社会の過去や未来について、まだ見たことのない場所について、
そして、そう、「 別天地 」について・・・。

「乃亜は、もったいない」
蓮が、私に参考書を貸してくれる時のお決まりの言葉をくれた。

「社会が、産めよ増やせよの風潮だからさ、女子っていうだけで、多産を強いられているけど、乃亜ならもっと上を目指せるのにな、もったいないよ。できるなら、もっとさ、切磋琢磨したかったよ。乃亜は、男だったら良かったのにな」

私にはその言葉はくすぐったかった。

「それを言われるとね」
「わかったよ。乃亜が男になる代わりに、僕が頑張って選抜に受かって、将来は、僕達の遺伝子を持った優秀な子供をつくればいいんだ」

「僕たちの遺伝子・・・?」

「いや、わかっているよ。保健局はランダムに相手を決めていくんだ。まさか、乃亜に、直接、求愛できるはずがないし」

蓮は、私のほうを見ないでしゃべり続けた。

「でも、未来のことはわからない。可能性はある。だから、乃亜は、卒業しても、僕を、ずっと見ていてくれよ」

蓮が、ちらりとこちらをの様子をうかがった時、私の心臓が大きくどきんと音を立てた。
何なの?これは?私は、蓮の気持ちを探ろうとしたが、淡々としていてよくわからなかった。逆に、自分の動揺を抑えるのに必死だった。
広場には、「白光」が灯っていた。

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2010-06-14 01:46  nice!(5)  コメント(5) 
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コメント 5

青い海の愛魚

c_yuhkiさん♪nice!ありがとうございます~
by 青い海の愛魚 (2010-06-14 11:05) 

青い海の愛魚

hetianさん♪nice!ありがとうございます~
by 青い海の愛魚 (2010-06-14 12:59) 

青い海の愛魚

モルテンさん♪nice!どうもありがとう~☆
by 青い海の愛魚 (2010-06-14 16:29) 

青い海の愛魚

ちぃさん♪nice!どうもありがとう~☆
by 青い海の愛魚 (2010-06-14 16:30) 

青い海の愛魚

sara-papaさん♪nice!ありがとうございます!
by 青い海の愛魚 (2010-06-15 01:22) 

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