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別天地へ行け 5 バザール [地下世界ヲ脱出セヨ 乃亜シリーズ♪]

01_02_15_02002803.gif5 バザール

翌朝、起きてすぐに、私は、発電機のスイッチを入れた。
取っ手を回すと、自家発電で熱が回る。
ランプの灯がともった。ほの明るい灯に癒される。水場へ行き、顔を洗い、小川の水をくんで鍋に入れて戻ってくる。
母さんは、まだ眠っている。
昨晩は、眠れなくて、父さんのことを考え続けた。父さんと母さんの出会いから、私が生まれるまでのいきさつを。
父さんは、大学の研究者だった。旅が多かったのは、大学のフィールドワークをしていたためだ。
元気だった時の父さんは、よく旅土産に、他の村での特産物のきのこやら紙やらをくれたものだ。
いつだったか、きれいな石のかけらをくれたことがあった。そういえば大きなリュックいっぱいに石が詰まっていたことも。
でも、私が、8歳のころ、死んでしまった。
私には、血のつながった家族は、母さん一人だと思っていた。
でも、もう一人いたんだ。
その人は、どこで何をしているんだろう。
一人きりで、さびしくはないだろうか。
母さんは、どうして、逃げ出したりできたんだろう。
社会の仕組みから逃れて、生きていくことは、とても恐ろしいことな気がする。もしも、父さんに出会わなかったら母さんはどうしていたのだろう・・・それを考えると、さらに恐ろしくなる。
母さんは、住んでいた土地を逃げ出した。頼れるのは、父さんだけだったろう。
じゃあ、父さんに出会う前の母さんは、どうだったんだろう。
精神的に不安定だったに違いない。
だから、逃げ出したりしたんだ。
そして、社会から逸脱した先に、「たった一人の愛する父さん」を見つけた。
そんなリスキーな生き方が、私にできるだろうか。

母が目を覚ました。
豆のスープとパンの食事を済ませ、出かける準備をしていると、目の前に、袋が差し出された。
「これを持って行って」
中を開けると、とても綺麗なセラミックの小皿がたくさん詰まっていた。

「これ、いいの?」
「ええ、里奈ちゃんと一緒に、行くんでしょ?何かいいものがあったら買ってきなさい」
「うん、わかったわ、行ってくる」

嬉しくなって、夢中で走っていくと、待ち合わせの橋の前で、里奈が待っていた。

「おはよう!今日は、楽しみね。いろいろ、見てまわりましょうよ」
里奈は、持ってきた袋を掲げて、指差した。
「袋の中は、ただの素焼きの皿だけど。乃亜のも、見せて」
私が、自分の袋を開けると、里奈は、わぁと言った。

「綺麗なセラミック。さすが、乃亜んちは、母さんが職人さんだものねぇ」

 街では、年に数回、バザールが開かれる。街と公園の両方に、他の地域から持ちこまれた特産品が集まる。私たち第22区では、セラミック(陶磁器)と交換ができるため、各地から、商人たちが買い付けに来る。
衣服、野菜、お菓子、種、装飾品、電機物・・・いろいろなものが売っていて、長い棒、置きもの、ただの土くれや石など、何に使うかわからないようなものも多数あった。
広場には、曲芸師がいて、踊ったり歌ったりしていた。

私たちは、あちこち見ながら、連れだって歩いていた。
ある店の商人が、声をかけてきた。

「お嬢ちゃん、袋に何が入ってるのか、見せてくれない?いい物と交換してあげるよ」
「え?あ、はい」
里奈は、愛橋があり、大人から可愛がられるタイプだ。2人で歩いていれば、大抵、里奈のほうに声がかかる。
「ああ、素焼きの皿だね。こんな皿じゃあ、水も汲めないじゃないか」
「そ、そんな」
「大丈夫です!何も要りませんから。行こう」
私は、里奈の腕を引っ張った。

里奈は、商人の一言に大いに傷ついてしまった。
「気にすることないわ。あの店、変なものばかり置いていたもの。素焼きの皿は、神様に捧げものをする大事な皿なのよ」
「でもさ、乃亜んちのセラミックのお皿だったら、なにかいいものと交換してくれたかも・・・」
「何にも買いたいものなんかなかったわよ?」

2人で立ち止まっていると、
「どう?これと交換しない?値打ち物だよ?」

急に背後から、声をかけられた。
振り向くと、派手な装身具をつけた大人が立っていた。男か女か見た目ではわからなかった。
派手すぎる衣装に包まれた服の中から差し出された手の中に、薄汚れた小さな石板があった。

「これは、王宮の遺跡から出土した物だよ。お姉ちゃんのその素焼きの皿と交換してもいいよ」
「・・・」
怪しい大人の持っているその品は、とても値打ち物とは思えなかった。でも、心ひかれるものがあった。

「どうしよう、交換してくれるんだって。怪しいよね」
里奈が、口に手を当ててひそひそと話す。
私は、訊ねた。

「王宮の遺跡って、本当にあるんですか?」
「あるとも!」
「地下世界を支えていた柱を守る王族が住んでいたっていう場所でしょう?発掘しているんですか?」
「しているとも!」
「それ、見せてもらっていいですか?」

とにかく、本物か偽物か、見ただけではわからないので、手にとって確かめてみたかった。
手のひらに乗せると、以外に軽かった。

「乃亜、買うの?」
私は、何か血が騒いだ。本当を言うと、私ではなく、死んだ父さんが、とても欲しがるだろうなと思ったのだ。
「買おうかな」
「毎度あり!じゃあ、素焼きの皿3枚と交換だ」
「えっと・・・素焼きの皿は持っていないんです。セラミック3枚じゃ、だめですか?」
「ほほう、姉ちゃんは、価値がわかるらしいな。セラミック3枚、おや、よく見えないな。袋を貸してごらん、中からいいのを選んでこよう」

怪しい大人は、私から袋をとりあげると、ちょっとそこで待っていな、と言って、店のテントの奥へ入った。
男が戻ってこないので、テントの奥をのぞいてみると、さっきの大人とは違う男が座っていた。

「何か探し物かの?」
「すごく派手な服を着た人が、私の袋を持ったまま、テントの中に入ってしまって、出てこないんです」
「ああ、さっきの派手な男なら、反対側から出て行ったよ」
「ええっ!?」

急いでテントを出たが、追いかけようにも、もうその姿はどこにもなかった。悔しいが、騙されたのだ。

「ねえ、でも、あんなに派手な恰好していれば、探していたらきっと見つかるわよ」
「ごめん」
「大丈夫だって。あたしの皿をあげるわ。これは、神様に捧げるお皿よ、すごいんだから」
里奈が、なぐさめてくれた。
古びた石板を手に入れるために、母さんからもらった大事なセラミックを全部とられてしまうなんて、私は、とんだ愚か者だ。

「ねえねえ、乃亜、元気出してね。あっちへ行こう!あら!蓮たちが来てるわ」
里奈が、広場の中央を指差した。

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2010-06-10 16:01  nice!(0)  コメント(0) 
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