SSブログ
myoko.jpg  ←~生命地域~妙高高原♪

ももシリーズ 82 [照山小6年3組 ももシリーズ♪]

h-hokousya.gif
ももとゆうこちゃんは、お昼休み以降、ずっと口をきいていませんでした。
その日、帰りの会が終われば、ゆうこちゃんは、習字の塾に行く予定があり、教室を早くに出て行くことがわかっていたので、ももは、なんとかして、下校時間までに、仲直りのきっかけをつかみたいと思っていました。
でも、そう思えば思うほど、なんと話しかけたらよいか、わからなくなり、戸惑いは増すばかり。
そして案の定、ゆうこちゃんは、帰りの会の先生のお話が終わるのを待って、ランドセルを腕にかけ、教室を出て行ってしまいました。
教室は、授業が終わった開放感にあふれ、ざわざわと、にぎやかになりました。

「あ~っ!今日は帰ったら何しようかなぁ。ねえ、ももちゃんちのねこにゃん、触りに行ってもい~い?」

あおいちゃんが、ももに話しかけました。ところが、ももは物思いにふけったまま、何も聞こえていない様子でした。

「お~い!ももちん?・・・だみだこりゃっ」

あおいちゃんは、あきらめのポーズをとると、行ってしまいました。

(どうしよう、このままずっと、ゆうこちゃんに嫌われたままだったら・・・。そんなのやだよう)

ももは急に立ちあがると、ゆうこちゃんの後を追いかけるように、教室を出ました。
廊下を走り、角を曲がって階段を下りると、購買があり、その先の左手に昇降口があります。そこを通り過ぎてまっすぐに行けば、体育館です。体育館からは、バスケットボールが床に跳ねる威勢のいい音が、聞こえていました。
ももは、購買の横で、ゆうこちゃんの後ろ姿を見つけました。

「ゆうこちゃんっ」

ゆうこちゃんが振り返ったその時、そのすぐ向うから、ゆうこちゃんのママがスリッパをはいてやってきました。

「こ、こんにちは」

あいさつをしたももは、無視され、ゆうこちゃんのママは娘の両肩に手をかけました。そして、もものほうを見たその目には、冷たいものが走っていました。

その様子に気がついて、ゆうこちゃんは向き直って、ママに言いました。

「ママ、ここまで来なくても、車で待っていてくれたらよかったのに」
「そうね。でも、同じことよ。塾に行くのに変わりはないわ。さあ、靴を履き替えなさい、はやく」
「そんなに急がなくても、わたしは、逃げないわ」

ゆうこちゃんは、ママに急かされて、帰って行きました。

(いつもなら、『ももちゃん、また明日ね。ばいばい』って、手を振ってくれるゆうこちゃんなのに・・・。寂しいな。ばいばいもなかった。それに・・・それに・・・ゆうこちゃんのママのあの冷たい視線・・・)


ももは、そのまま、しばらく立ちつくしていました。廊下で、誰かとぶつかった反動で尻もちをついたことも、気にしませんでした。しばらく動揺がやまなくて、思考が停止していました。
ゆうこちゃんと、「ばいばい」をして帰らない日があるなんてことは、今まで考えてもみなかったのです。

そんなふうだったので、6年3組の生徒たちが、帰り際に、ももを見つけて、

「どうしたの?大丈夫!?なんかあった?」
「赤城、具合悪い?」

などと、声をかけてくれても、やっと授業から解放された生徒たちは、それぞれの予定があるため、ももを残して帰って行きました。

ゆうこちゃんと、別れてから、ももは、昇降口の階段のところで、雨が降っていることに気がつきました。それなら、置き傘をつかえばいいと思って、教室前の廊下まで戻りましたが、どういうわけか自分の傘はありませんでした。少し待てば、止むだろうと思い、しばらく体育館の隅で、図書館から借りた本を見ていると、雨音はさらに激しくなり、いよいよ底冷えがしてきたので、ももは、やっぱり帰ることにしました。気がつけば、体育館で遊んでいた生徒はすでに帰っていて、バスケットボールだけが、転がっていました。

(もっと早く帰ればよかったな・・・失敗)

天を眺めていても、雨が止む気配は感じられません。ももは、ランドセルを濡れないようになるべく服の下に抱えて、歩き始めました。

(冷たすぎるよ、雨)

通りを歩いて行くと、お屋敷の庭にいるはずの大きな黒い犬も、塀の上にねこ座りしているはずのねこも、今日はいませんでした。こちらも早歩きですから、どの道遊んでいる暇はないからまあいいやと思って、歩いていくと、大きな電信柱の先の横断歩道へ出ました。この交差点を左に折れれば、ももの家まで、もうちょっとです。
そこで信号待ちをしていると、見なれた柄のねこが一匹、横断歩道の前の三叉路の抜け道を、歩いていくのが見えました。

(こもも!?なにしてんの、あのこったら、あんなとこで!?)

ももは、ねこを追いかけました。どうして、あんなところを、こももが歩いているのだろう。連れて帰らなきゃ風邪をひく。ねこは水に弱いんだから!ああでも、行方不明になったと思っていたから、見つかってよかった!
ももは、信号が変わるのももどかしく、こももと思われるねこの足取りをたどって行きました。
ねこは、後ろは気にせず、ゆっくりと道の端を歩き、ある家の前で、向きを変えると塀をこえて中に入って行きました。

「こももっ」

ねこは、玄関のすき間から中をのぞき、首の入るすきまをこじ開けて、家の中へと入って行ったのです。
ももは、あ然としました。そして、もっと開いた口がふさがらないことには、その家は、ひめ子さんのおばあさんの家だったのです。


2010-03-21 17:29  nice!(1)  コメント(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証: 下の画像に表示されている文字を入力してください。

 
短篇小説 W   別天地へ行け

このブログの更新情報が届きます

すでにブログをお持ちの方は[こちら]


この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。