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三日月家のおはなし(練習版) [お話のかけら(練習中♪)]

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「ねえ、赤城さん、知ってる?三日月護先輩って、かわいそうな人なのよ」
「三日月先輩が、どうして?かわいそうなイメージ全然ないよ。ころんですりむいちゃたとか?」

あたし達は、お昼休みのトランプゲームの輪から抜け出して、ベランダでしゃべっていた。田口さんは、うわさ話が大好きだ。
三日月護先輩のことなら、なんだって知りたい。だからといって、唐突にこんなふうに、あたしの大好きな先輩の話が出ると、びっくりして顔に出てしまう。顔に出ないようにしなくっちゃ恥ずかしい。

「そんな簡単な話じゃないのよ。三日月家の呪いの話・・・赤城さん、聞いたことないの?」
「そんな話、知らないよ」
すると、田口さんは、小さな声で言った。
「ある人から聞いたんだけど、身の回りの物でカモフラージュしているんだって」
「カモフラージュって、何を?」
「いろいろよ。例えば、お箸とかお茶碗とか、くつや洋服、ふでばこや下敷きや・・とにかくあらゆる物をね、めくらまししているんだそうよ。呪者からの目をそらせるために、本人のものは、絶対に使わせないんだって。そうやって、代々の呪いから、命を守っているのですって」
あたしは、半信半疑で聞いていた。
「ということは、三日月先輩の本当の持ち物はどうなるの?」
すると、田口さんは、ベランダにあたし達しかいないことを確認して、口を開いた。
「自分のものは、ちゃんととってあるんだって。大きな声では言えないけれど・・・」
田口さんは、こいこいと手招きして、ひそひそと私の耳に手を当てて、話した。
「使う物が増えるたびに、一度、御祓いをして、宝物庫へしまうのですって。そうして、自分のものをしまっておいてあるのですって」
「持ち物全部にそれをやるなんて、無茶だよね」
「それにね、三日月護先輩の本当の名前は、護なんかではないのよ」
「えっ!?」
「しーっ!しーっ!」
田口さんは、あたしの口を押さえた。
「自分の名前すらも、隠しておかなければ、呪われるのですって」



「江戸時代は、どうして長く続いたのでしょうか。わかる人はいますか?」
日本史の授業が始まった。あたしは、歴史の時間が、教科書にそってすすめられると、がっかりしてしまう。今日は、ずっとそのパターンだったので、ノートに、名前を書いていた。それは、誰の名前かというと・・・。
「では、赤城くん、立って。答えてください」
「はいっ!」
勢いよく立ち上がり、個人的空想の世界から断ち切られた。
「すいません、わ、わかりません」
「うん、わからなくてもいいけどね。どこら辺で、君は、日本史につまずいたの?」
クラスの人達が、くっすくす笑っている。ああ、これは何を言っても笑われるパターンだ。そもそも、歴史をつまずくのに、どこら辺なんてあるのだろうか。最初っから覚えることが多すぎて、つまずくのだと思うけれど。
「えーっと、話せば長くなるんですが、話したほうがいいですか?」
歴史の本田先生は、忍耐強い。
「言ってみてください。あんまり長いようなら、先生が、とめますから」
クラスの人達の目が笑っている。やだなぁもう!
「あの~、歴史って、過去のことをいろいろ覚えるわけですけど、あたしたちは、その、未来へ向けて生きていかないといけないわけで・・・」
本当のことを言ってみた。クラスが、沸立った。
「わかるわかる。それから?」
う~ん、先生は、忍耐強いというか、拷問をする人に近くなってきた。
「なので、過去のことをあれこれ読んでもですね。おもしろくないんです。それに、歴史って、地球ができた頃から始まっているわけですよね。だとしたら、その一番最初はどうだったのだろうって思います。日本の歴史といっても、実際、地球の歴史に比べたら、ただ日本人がどうしたこうしたってことに過ぎないって思うんです。それから、ただ覚えるだけっていうのが、どうしても、苦手で、それらを総合して考えたとき、一番苦手な科目が、歴史になっちゃうんです。あ、あと世界史と数学と物理もだめですけど」
「今の赤城くんの説に同感な人、このクラスに何人くらいいる?最後の数学と物理のことは抜きで、ちょっと、手あげてみて」
男女合わせて10人くらいの生徒が、手を上げた。なぁんだ。笑ってたくせに。
「うーん、わかりました。はい!よろしいですよ、赤城さん座ってください」

先生は、声も高らかに、語り始めた。この先生、好きなのよね~語るのが。
「日本の歴史を考えるとね、江戸時代に入る前は、とにかく戦国の世だったろう?国内で、大きな戦争ばっかりしていたんだよ。
下克上ね。みんな知ってると思うけど。強いものだけが、将軍にのし上がっていった時代だからね。今で言えば、総理大臣の座を巡って、都道府県知事が軍隊を率いて戦争をしかけたり、総理を暗殺したり、その座をもぎとるという、そういうことだね。怖いだろう。
ところが、徳川家康は、頭がよかったね。子孫を守ろう、その座を守ろうと思う気持ちが強かった。どうしたかというと、将軍職を、世襲制に変えたのです。
世襲制というのは、自分の身内に代々政権をつがせていくということです。例えば、お豆腐屋の山田君のおじいちゃんが、おとうさんへ店を引き継ぎ、山田君の代まできたら、その未来の息子へも、大事な豆腐屋を継がせていくっていうことだよね。国の政治で、それをやっちゃう。
家康は、自分のせがれのために、そりゃぁもう簡単に早々と、将軍職を譲っちゃった!それから、息子を脅かす豊臣家を滅ぼしちゃった。用意周到というか、執念深いというか、後先のことまで考えてそうした。とにかく凄く頭の切れる人ですよ、家康さんはね。
二代目の秀忠も、頭は悪くなかったと思う。将軍職について、世襲制をついだ後も、まだね、いつまた、違う敵が攻めてくるかわからない。安心できなかったわけね。
それでは質問です。二代目秀忠は、法律を作りました。どんな法律を作ったでしょうか?じゃあ、山田君。あっ、ちょっと待って、先生、水飲んでくるから。その間に考えて」
 先生は、そういうと、ぱっと教室から出て、すぐ戻ってきた。
「ごめんごめん、じゃあ、答えて」
この質問なら、今の時間で、教科書を見られたから、あたしも答えられたのにな。
「えっと、武家諸法度と禁中並びに公家諸法度です」
「ん、よし。でね、それから、幕藩体制をしきました。幕藩体制とは?じゃあ、その後ろの人、早瀬さん、答えて」
早瀬さんは、秀才なので、きっとバッチリ答えるはず。
「政治組織を整備し、人民と土地をしっかりと支配するということです」
「そう、そのとおり!いいね!この辺は、みんなテストに出るから、覚えること!江戸の初めの頃は、よその国から船がたくさんやってきていました。貿易が盛んにおこなわれたんだ。そのことによって、日本には、外国人が大勢押し寄せてきて、キリスト教を説いたり、貿易で得たお金をためて、地方の大名が力をつけてきたりしたので、幕府は、恐れて、ある命令を下しました。
 さあ、じゃあ、今日最後の質問ですよ。その命令とは何だったでしょうか?みんなでいっせいに答えよう。はい!」
先生は、今日は、指揮者みたいな真似もする。
「さ、こ、く、れ、い」
「元気がないな!まあ、もうちょっとだから、頑張れよ!鎖国が完成した時、日本に入ってこられた国はたったの3カ国。オランダ、中国、朝鮮の船だけでした。日本人の海外渡航も取り締まりました。それが、約200年間続きました。そのことにより、国内の整備が進んで、日本独自の文化が深められました。ほら、元禄文化といえば、浄瑠璃、俳句、歌舞伎は、今でも大事な伝統として続いているよね。
つまりね、鎖国をしたことこそが、江戸時代が長く続いた最大の要因だったと言われているわけなんです」
今の話を聞いて、ちょっとわかったような気になったあたしは、おおいにうなずいた。つまり、どこにも行けないということは、そんなに悪いことじゃないし、むしろ文化が育まれたりするってことね。
「歴史というのは、丸暗記って言われますが、人間の生きた時代のことを、とても大雑把にとらえたものなんです。だから、まず大まかに時代を覚えたらね、興味のある時代を調べて欲しいと思う。今は、テレビで、人気の俳優たちが、時代劇に出てくるよね。そういうところから、入ってもいいよ。とくに、時代劇は、ほとんどが江戸時代の設定だからね。当時の人達の暮らしを知るには、いいと思います。
その上で、どうして、武士はみんな江戸へ行かなきゃならないのかとか、どうして商人は、悪どい感じな人が多いのかとかね。どうして武士は刀を持ち歩いているのかとかさ。見所はいっぱいあると思います。なぜなぜ?と考えながら、細かいところを覚えていって欲しいと思います。
時には、理科の時間にルーペを使うようにして、気になった時代を拡大して見て欲しいと思う。ひとつの時代に興味を持つことが、必ず覚えることにつながります。あらゆる時代は、必ず前後の時代と結びついています。みんな、歴史に苦手意識を持たないで大丈夫ですよ。毎日ちょっとづつ、覚えていくつもりでね」

長い長い江戸時代みたいな授業が、鐘の鳴る音で終わった。ふー疲れた。でも、今日の授業は、うなずける気がした。


放課後になると、いつも行く公園があった。幼なじみの松平くんと一緒に帰ることが、最近、増えていた。彼は、頭がいいので、それなりのとこへ進学していて、あたしとは別世界で頑張っているのだ。環境が違っても、お互いの話をするのが楽しかった。一応、同じ高校の友達はいるんだけどね。彼じゃないと、なんとなくわかりあえないニュアンスの話もあるから。
「おかしいなぁ、どうして今日は松平くん、メールくれないのかな?」
さっきから、公園のベンチで、携帯ばかり見つめているあたしの前に、黄色いボールがころがってきた。小さな男の子がそれを追いかけて、距離をおいて立ち止まった。
「はい、どうぞ」
あたしの方から近づいて、ボールを差し出すと、男の子は、あたしの顔をじっと見て、
「ありがとう、お姉ちゃん」
澄んだ声で言うと、両手で受け取った。その子の手にボールは大きかった。あたしは、ボールに書いてあった文字を見た。

みかづき みちる

男の子は、たたっと走って行ってしまった。あの子は、三日月先輩の家の子なのだろうか?
あたしは、再び携帯の画面を見た。メールは来ていない。松平くんのばかぁ!どうして、返信くれないのって、怒りメールしちゃおっかな。でも、だめだ。そんなことしたら、彼は、あたしのことを、いいようにからかうだろう。単純すぎる反応って。でもね、あたしからすれば、松平くんのほうが、じつは単純な気がするな。



2008-10-23 00:10  nice!(1)  コメント(2) 
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lamer

満月は怪しさが好きですが・・・
本当は三日月の方が好きなんです^^。
by lamer (2008-10-23 23:50) 

イマイ アオ

lamerさん今晩は(^。^)お越しやす~!
三日月=クレセントムーン♪細いほど繊細で素敵。
満月の赤いのはとくに、怪しいです!!!
by イマイ アオ (2008-10-24 19:37) 

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