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お話の練習 57~58 [照山小6年3組 ももシリーズ♪]


57
翌月曜日の朝、教室は静かでした。
朝の会が始まると、一昨日怪我で入院した浜口くんの話題になりました。
先生が、お祭りで羽目を外し過ぎないように、それから、川で遊ばないようにと、生徒達に注意をしました。
松平くんは、まっすぐ先生のほうを見て話を聞いていましたが、その表情には、いつもの冷静な表情の中に寂しさが見て取れました。
(松平くん、浜口くんの怪我のショックから立ち直っていないみたい)
あの時、ももは、後ろから見ていました。
担架で運ばれた浜口くんは、松平くんに言ったのでした。

「マツ、おまえのせいじゃないよ。気にすんな」
「ごめん。俺が近道しようなんて言わなければ」
「いいのいいの。俺にとって、おまえは親友なんだから。俺がいない間、クラスの仲間を頼むぜ」
「わかった」
「あぁでもついてねぇな。倉沢に会えなくなるよ~」
「なんか、気持ちがバレバレなんだけど」
「いいじゃん、お見舞い希望~」

浜口くんは、クラスの人気者でした。
お調子者でいつもニコニコしていて、男女問わず、誰とでもうちとけるタイプの男の子でした。
それに対して、松平くんは、秀才でちょっと口の悪い男の子でしたが、ここ一番という時には底力を発揮するタイプなので信頼を集めていました。
そんな異質な2人が揃うと、なぜかにぎやかな漫才のようなかけあいになるのでした。ももは、考えました。どちらがボケとつっこみかな?
それよりも、この会話を聞いて、浜口くんが、ゆうこちゃんのことを好きだということに、気がつかないももは、なんて鈍いのでしょうか。

58
給食の時間が終わり、給食当番が後片付けを終えた頃、松平くんがもものところへやってきました。
「ちょっと来てくれる」
「なあに」
2人は廊下に出ました。
松平くんは、先生のアルバムを入れた袋を持っていました。
「これから、これを先生に返しに行く。返すのが遅くなってしまったのは、理由があって」
すると、教室から、他の男子が冷やかしました。
「おまえら、何してるの?あぁ!マツケンが、赤城にプレゼント渡してる!」
松平くんは、その子をにらみました。
「あのねぇ、そんなんじゃないって!」
「顔が赤くなった。すげぇ!マジなんじゃない?やば~い!」
ももは、思わず、松平くんの手をとりました。
「違うんだって、これはね、先生から借りたものなんだから」
「手つないだ~」
松平くんは、ぱっとももの手を振りきりました。教室から興味津々の生徒達が、2人を見つめて冷やかしました。
「もう、違うの、みんな。松平くん、ちょっと向こう行って話そう」
「赤城がリードしてるぜ!ありえない光景!」
ももは、みんなを後目に、屋上へ上がる階段のところまで、松平くんを連れてきました。
「ここ、ゆうこちゃんとの秘密の場所なの。相談ごとがある時は、いつもここで話すの。みんなさ、なんであんなに騒ぐんだろうね」
「さあね」
松平くんは、そう言いながら、アルバムを取り出しました。
そして、話し始めました。
「まだ、アルバムを返してなかったのはさ、ある発見をしたからなんだ。例の白井ひめ子の写真が7組にあったよね?赤城、その先の9組の写真も見た?」
「見てないよ」
「やっぱりね!」
「なあに?どうして?」
松平くんは、アルバムを開いて、3年7組のページを指差しました。
「この白井ひめ子の顔をよく見て、覚えた?」
「覚えてるし頭に焼き付いてる。ねえねえ、松平くんは、ひめ子さんの写真見て、どう思ったの?」
「あのね、俺の話を聞いてくれない?」
「あたし、あまりの可愛さに、見とれちゃったの。こんな女の子が身近にいたら、テレビのアイドルなんてかすんじゃうなぁって思って」
「それは同感。でも俺は・・・」
それから、3年9組のページを開き、指差しました。
「この黒川ゆり花ってこのほうがいい」
ももは、見比べました。
「すっごく似てる」
「な?ずっとそれを、言おうと思って今やっと言えた。顔合わせても、話す機会なかったから。黒川ゆり花、本当に、そっくりじゃね?髪の毛や日焼けぐあいが、白井ひめ子とは違うから、最初、俺もわからなかった」
「ほんと、うりふたつ」
「ふつう、双子って同じような格好をすることが、多いと思うんだ。この2人は、顔は一緒でも、対照的だよな」
松平くんは、あごに手を当てて、考えながら言いました。
「苗字が違うから、いとこなんだろうな」
「そうだ、松平くん、聞いて!」
「ひめ子さんのおばあさんのこと?」
「なんでわかるの?そう、えっと、正確には、まま母なの。ひめ子さんは、養護施設の『幸せの家』に暮らしてたひとなの。娘になって、もらわれていった先が、おばあさんのところなの」
「ああ、なるほど、わかった」
まだ続きを言っていないのに、松平くんは、先手をうって話し始めました。
「つまり、もともと双子だったひめ子さんとゆり花が、『幸せの家』で暮らしていた。そしてひめ子さんだけが、おばあさんにもらわれて養女になり、苗字が変わった。それから、中学では、双子の姉妹であることを周囲に隠していた、ってことなのかな」
「今、ゆり花って呼び捨てだったね」
「・・・俺の話、聞いてた?」
「聞いてた聞いてた。でも、あたしなら、隠したりしないのにな、双子の姉妹だってこと」
「実際に当事者になってみなければ、わかんないんじゃない」
「松平くんちは、兄弟いるの?」
「俺は、一人っ子」
「あたしは、お兄ちゃんが一人。女の子の姉妹が、いたらいいのにな」
「そう?」
「双子に、憧れる」
「なんだそれ?わけわかんないな。自分とおなじ顔がもう一人いたら嫌なんじゃないの、普通は」
「そうかなぁ」
「おっと、今何時?アルバム、今度こそ先生に返しに行かなきゃ」
松平くんは、立ち上がりました。
「あたし、松平くんとこの話もっとしたいな。放課後、話そうよ。ゆうこちゃんも一緒に。ゆうこちゃんは、塾があるから、少ししかいられないけど」
「倉沢って、俺のこと割と責めるよね。あれ何なの?」
それは、土曜の帰りの教室でのことでした。ゆうこちゃんが、松平くんに、「弱い者いじめは最低よ」と言って、なじったのです。
「正義感が強いの、ゆうこちゃん。それと、思い込みが激しいのと、友達思い」
「俺が、赤城をいじめるわけないじゃん」
「嘘だぁ、いじわるしたもん」
ももは、そこのところは、譲りませんでした。
「はぁ、きみちょっとねぇ、もっとよく人や周りのことを見ていないと、今に大変なことになるぞ。俺みたいないい奴、ほかにいないっつーの」
松平くんは、階段の手すりをすべって下りました。
「松平くん!」
「ん?」
「ごめんね。ありがとね。とそれから、元気出してねっ」
「なんだそれは」
ちょっと困ったように笑って、松平くんは階下へ下りていきました。


2008-01-06 14:41  nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
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