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携帯で読むためのメモ書き1 [お話のかけら(練習中♪)]

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1 一年生を迎える会
 4月なかばの朝の登校の時間です。麻岡真友は、小学6年生。今日は寝坊をしてしまって、お母さんにしかられてきたばかり。もう6年生になったのだし、もっと早く起きるように生活態度をあらためなくてはなどと考えながら歩いていると、
「あ、バッタがいる!」
急に、新入生の小川たけるくんが、草っぱらを指さして言いました。そして、つかまえようと田んぼのあぜにジャンプして、すべってころんでしまいました。
「だいじょうぶ?」
たけるくんを起こして、けががないかどうか確かめて、長ズボンの泥をはらってあげていると、
「おーい、ちゃんとついて来てよ」
前のほうから声が飛んできます。
「はあい、今行くよ」
真友は、草のついた小さなたけるくんの手を引っぱって列へ戻りました。
朝の集団登校では、同級生の須山瞬くんが先頭を、後方を真友が歩いていきます。、低学年を間にはさみ、高学年が前と後ろを守るのです。集合場所から学校までの距離は、2キロくらい。事故にあわないように気をつけなくてはなりません。真友は、朝、お母さんに叱られて、さっきまでちょっと落ち込んでいたけれど、気持ちを切り替えるのはうまいほうでした。
真友たちの通っているA市立南小学校は、小高い丘の上にありました。近くに川があり、春は山からの雪どけ水が流れてきます。校舎の北側に、新しい校舎を建てていて、南側の校庭の真ん中には、大ざくらの木がありました。市の天然記念物であり、南小のシンボルでもあるその木は、毎春、見事な花を咲かせてくれるのでした。
学校につき、席につくと、日直が前に出て、朝の会が始まりました。
「みなさん、おはようございます!」
「おはようございます!」
「それでは、朝の会を行ないます。今日の議題は、朝ごはんについてです。みなさんは、今日、朝ごはんは食べましたか?それでは、窓ぎわの一番前の席の人から、答えてください」
すると、
「食べました。昨日の残りのすきやきをごはんにかけたら、おいしかったです」
「ぼくとお兄ちゃんはしっかり食べたけど、お母さんは、野菜ジュースだけだった」
「ねぼうしてしまったので、ちょっとだけしか食べませんでした」
「半分食べて、あとは犬にやりました」
いろいろな答えに、みんなはうなずいたり、驚いたり、笑ったりしました。
みんなの答えを聞いた先生が、最後に感想をのべました。
「朝ごはんを半分しか食べなかったり、ちょっとだけしか食べなかった人は、理由はともあれ、もう6年生になったのですから、早く起きてしたくをして、きちんと食べるよう心がけましょう。朝のエネルギー源ですからね、朝ごはんは。車で言えばガソリンと同じです。しっかり食べれば元気が出ます。さて、今日の一時間目は、体育館で『一年生を迎える会』があります。みんなの最高学年としての、最初の行事です。先生はお客さんです。さくら会は、進行役、がんばってください」

南小では代々、大ざくらにちなみ、児童会のことを『さくら会』と呼んでいます。さくら会の役員は、会長一人、副会長一人、書記二人の4人で、毎年、選挙で選ばれます。今年の会長は、加賀見将太くんといって、6年生の中で一番勉強ができる生徒でした。
すると、クラスの中で一番やんちゃな風間雅紀くんが発言しました。
「今年のさくら会は、会長が、朝ごはんを半分、犬にやってんだぜ?そんなんで大丈夫?」
「そんなの、関係ないだろう」
「ちゃんとやれよ」
この発言に、みんなが笑っている中、真友は、少しも笑えない気持ちでした。このあと、マイクを持って進行役を務めるのは、自分なのです。

「大変よ」
副会長の大島ゆいちゃんが、息せき切って、ステージ横の真友のところへやってきました。
「どうしたの?ゆいちゃん、そろそろ、始めなきゃ」
「くす玉がまだできていないんだって」
くす玉は、メインイベントで使うからと、昨日、みんなで、遅くまで残って作っていたはずでした。
「ええ!?昨日の放課後、作っていたじゃない?」
「それが、壊れちゃってたんだって」
「そんな」
体育館は、2年生から5年生がすでに集合して、待ちわびた様子でざわついています。
「もう、はじまりの時間が過ぎてるわ。真友、お願い、先に始めてて!」
「えっ、あたしひとりで?」
「将ちゃんを呼んでくるから、それまでの間よ」
「あたしも、行く」
「だめよ、真友は、ここで時間稼ぎをしてちょうだい」
「そんなぁ」
真友は、『一年生を迎える会』で、書記として進行役をまかされていました。進行表通りにいけば、本当なら今頃は、新入生が入場する時間です。
「どうしよう・・・」

 ゆいちゃんがステージ裏に入ると、会長の将太くんと、書記の高梨良介くん、工作好きの雅紀くんが、くす玉を手でかかげて話していました。
「あとは、ひもをどう引っ張るかなんだよね、引っ張り方によっては、くす玉が開かないんだ」
「なんとかならないかな?」
「2分の一の確立で、うまくいかないんだよ。ひもが切れたら、ジ・エンドさ」
「もう時間がないよ」
「会長、どうする?」
「うーん・・・」

 その頃、真友は、体育館入口に控えている新入生と、在校生の視線が、痛いほど自分に集まっているのを感じていました。
(ど、どうしよう)
ざわざわとした声が、ガヤガヤとした騒ぎ声に変わっていきます。こんな時、昨年のさくら会役員なら、うまく全校生徒をまとめていました。真友は、動揺をおさえて考えました。新さくら会だって、それくらいのことはできる。あたしが、それをやらなきゃ。
真友は、勇気を振り絞って、マイクのスイッチを入れました。すると思った以上に大きなブチッと言う音がして、全身が燃えるように熱くなりました。
「静かにしてください」
マイクを通して話せばみんなに聞こえると思ったのに、思った以上に伝わらないどころか、ますますざわめきが大きくなり、5年生の男の子がやじを飛ばしてきました。
「そんな小さい声じゃ聞こえませーん」
それを聞いた真友は、大きく息を吸い込み、
「し・ず・か・に・してください!」
大きな声を出したのです。すると、さっきまであれだけざわついていた体育館が、一気にしーんとなりました。そして、次の言葉を言おうとして、それを用意していなかったことに気がつき、あわてました。
「えっと、しょ、少々、う、う待ちください」
(最悪!かみまくりだわ) 
言い終えたところでマイクのスイッチを切ると、会場が再びどっとにぎやかになり、見かねた先生が、真友のところへやってきました。
「真友くん、黙って見ていたけど、もう、始まりの時間はとうに過ぎているぞ。さっさと進行して」
「あの、先生。困ったことになって。会の終わりで割るはずのくす玉が壊れちゃったんです」
「それで、君達、どうするの」
「えっと、それは・・・」
「黙っていては何も始まらないよ。進行できないなら、この会は中止だ。マイクを貸しなさい」
「そんな・・・」
真友は思いました。この『一年生を迎える会』は、新さくら会にとって初めての行事です。それなのに、先生に今マイクを渡してしまったらどうなる・・・?あたしが弱気なために、みんなが頑張っているのに、新さくら会全体がだめだって思われちゃうんじゃない?さっきみたいに、5年生にまで、あんなふうにからかわれるのは・・・。真友は、マイクをぎゅっとにぎりしめて、離しませんでした。
その時、ステージ裏から、会長とゆいちゃんが出てきました。
「今からおれ達がちゃんとやります!」
先生は、うなずきましたが、くす玉を取り付けるのは手伝ってくれることになりました。
「お待たせ!真友。進行始めていいよ」
「うん!」
真友は、ほっとしたら涙が出てきたので、みんなに見えないようにして拭い、会の始まりを告げました。
 新入生の入場とそれぞれの学年の出し物が終わり、いよいよメインイベントのくす玉割りの時間になりました。あんのじょうと言うべきか、新入生の代表の子2人が、ひもを引っ張っても、くす玉は割れませんでした。ぽかんとしているところへ、会長が出てきて一緒に引っ張ったところ、なんと、くす玉ごと下に落っこちてきてしまったのです。 
(あちゃー、どうやって間を持たせればいいの?)
全身を冷や汗が流れるような気持ちで、真友はマイクのスイッチを入れ、みんなの前へ出ました。けれども、どうつくろっても、失敗は失敗です。何と言ったらいいのやら・・・謝る?それとも、ごまかす・・・?
 その時、ステージ裏から、雅紀くんが出てきました。
「貸して」
雅紀くんが真友の手からマイクを取って、大きな声で新入生たちに向かって言います。
「今のは、ドッキリだよ!」
すると、新入生たちから、
「ドッキリ?」
「そう、びっくりした?」
「びっくりした」
「あはは」
「今から、お兄ちゃんたちがいいというまで、新入生のみんなは、目を閉じて待っていてください」
「ええ、どうして?」
「どうしてもじゃ!音楽スタート!」
雅紀くんが、おばけの真似をしていうと、体育館のスピーカーから、突然、あらいばやしというお祭りの曲が流れてきました。そして、リラックスした雰囲気になったところで、雅紀くんがマイクを真友に持たせました。
「まったく、新さくら会は頼りないんだから」
じつは会の最中にステージ裏で、雅紀くんが、簡単なやりかたで予備のくす玉を作ってくれていたのです。
 そして、そちらのくす玉のほうは、見事に割れました。中から、
『ご入学おめでとうございます。ドッキリ大成功!』
と書かれたたれ幕が出てきました。これを見て、他の学年の先生方が、ほほうと笑いました。笑顔いっぱいで退場して行くちっちゃな子たちの姿は、とてもほほえましいものでした。
「以上をもちまして、新入生を送る会・・・あ、間違えました。迎える会を終わります」
最後の最後まで、とちってばかりの真友。これからどうなることやら、心配です。

午後の授業が終わってすぐに、会長の将太くんが、真友のところへやってきました。
「放課後、今日の反省会をやるから、児童会室に来てくれる?」
「はい」
放課後になると、将太くん、ゆいちゃん、良介くん、真友の4人は、児童会室のテーブルの席につきました。話を切り出したのは、将太くんでした。
「みんな、今日はお疲れ様でした。今日の『新入生を迎える会』は、成功だったと思う人は手を挙げて」
そこにいた4人のうち、手を挙げた者はいませんでした。
「じゃあ、失敗だったと思う人は?」
今度は、ゆいちゃん、良介くん、真友の3人が手を挙げました。真友は、自分のせいだと思い、顔が真っ赤になりました。
「ごめんなさい。あたしが、うまく進行できなかったせいで・・・」
「もちろん、あれで、成功だったなんて言えないわ」
ゆいちゃんが、発言します。
「真友がとちりまくったって言う人がいるけれど、あの状況をひとりで乗り切れっていわれたら、誰だって動揺するわよ。ところで、将ちゃんはどっちにも手を挙げていないけれど、成功、失敗、どっちなの?」
「僕は、今日の会は、僕達の計画通りではなかったけれど、成功したと思っているんだ」
「どういうわけで?」
「まあ、簡単に言うと、新入生の笑顔がたくさん見られたから成功。かなり想定外だったけど」
会長の言うのもわかるけれど、どうも腑に落ちないといった調子で、ゆいちゃんが続けます。
「想定外って、くす玉のことよね?そもそも、どうして、朝になってくす玉が壊れていたの?わたしには、そこがどうしても納得できないのよ」
すると、ずっと黙っていた良介くんが、口を開きました。
「あのくす玉は、割れちゃいけなかったんだ」
ゆいちゃんが立ちあがって、良介くんに詰めよりました。
「どういう意味?教えてちょうだい」
そこで、会長が立ちあがって、ゆいちゃんを椅子に座らせました。
「副会長、落ち着いて。話は長くなる。良介くんが、朝、児童会室に来た時、くす玉は壊れていなかった。けれど、それは本物とすり替えられていたんだ」
「え・・・?」
真友とゆいちゃんが顔を見合わせました。
「その事に、気がついたのが、良介くんなんだよ、ね?」
会長が返事をうながすように良介くんの腕をつかむと、良介くんは震えながら、朝の出来事を話し始めるのでした。
「僕達が作った本物のくす玉は、もっときれいな色をしていた。だから、朝置いてあったくす玉は、一目で違うとわかった。それで、変だなと思って僕は、くす玉の中を開けてみた。そしたら・・・、中には、違う垂れ幕が入っていた。僕はパニックになって、くす玉を落として壊してしまった。雅紀くんに頼んで、修理してもらったけれど、結局、本番では開かなかった」
ゆいちゃんは、話の途中で聞きました。
「ちょっと待って、重要!その偽物のくす玉、垂れ幕には、なんて書かれていたの?」
「それは、もう捨てちゃったから・・・」
「おかしな言葉だったの?」
「僕、言いたくない」
良介くんが唇をかみしめていると、会長が言いました。
「僕は見た。およそ、新入生を迎えるには似つかわしくないような言葉が書かれていた。信じられない気持ちだよ」
「あたしも、会の最後にとんでもない言い間違いをしちゃったこと、ごめんなさい」
真友が言うと、会長は真剣な面持ちで言いました。
「そういうレベルの話ではないよ。この件は、もっとずっと悪質ものを秘めている」
 そこで、児童会室の扉をどんどんと叩く音が聞こえました。会長が、どうぞというと、雅紀くんが入ってきました。
「ちは!何やってんだよ、みんなで暗い顔して」
「雅紀くん、どうしてここに?」
真友が言うと、雅紀くんは、舌打ちをして、
「あ~めんどくさいな、なんだよ、俺を呼びつけておいて、その言い草は!」
「僕が、雅紀くんを呼んだんだよ。今日の功労者だからね。そこ座って。今、今朝の反省会をしているんだ」
「反省会って、そんなことばっかやっていると、どんどん辛気臭くなるだけじゃないの?よかったね、ひとり、天然な人を入れておいて」
「誰のこと?」
真友が言うとすかさず、雅紀くんが、
「お前のことに決まってるでしょ」
と言ったので、みんなが、くすくす笑いました。


















2 大運動会
お昼休みになると、最近、グラウンドに2つの大きな集まりができます。何をしているかというと・・・?
「フレー!フレー!赤組!」
「がんばれ、がんばれ!白組!」
応援合戦の練習です。運動会がもう間近にせまっているのです。
 お昼休みが終わり、4、5、6年生がそのままグラウンドに残りました。5時間目に合同体育があるためです。

「あたしのぼうし、知らない?」
真友は、体育のぼうしを探していました。5時間目の体育に必要なのです。すると、ゆいちゃんが話しかけてくれて、探すのを手伝ってくれました。
「水飲み場のところかもしれないよ」
「行ってみよう」
2人が走って行ってみると、そこには、クラスメイトが数名いました。
「ねえ、ここに、体育のぼうしが置いてなかった?」
「これでしょう、はい」
渡してくれたのは、寺沢奈絵ちゃんでした。奈絵ちゃんは、小柄で色の白い女の子です。
「ありがとう」
「ううん。真友ちゃんの名前が書いてあったから、持っていこうとしていたところなの」
「よかったね、見つかって」
みんなで歩いていると、先に集合していたクラスメイトがこちらに声をかけました。
「みんな、こっちだよ。学年ごとに整列しなさいだって」
「はあい」
 先生の指示で、住んでいる地区をもとにして、生徒たちは赤組と白組に分かれます。自分達の呼ばれる番を待っている間に、ゆいちゃんは、メンバーの分析を始めました。
「なんか人がかたよっちゃってる。とくに男子は、白組にばかり運動神経のいい子が集まっているわ」
「ほんとだ」
「はい!あ、呼ばれた。わたしは白組だわ」
ゆいちゃんが言いました。
「奈絵ちゃんは?」
「赤組よ」
「真友は?」
「あたしも、赤組。おてやわらかにね、ゆいちゃん」
「えー?じゃあ、ここからそっちは、敵なの?」
全体が、赤組と白組に分かれたところで、続いて、団体種目とリレーの選手の順番が発表されていきます。
「リレーのアンカーは誰になるのかな?」
「こればかりは絶対、足の速い人じゃなきゃだめよね。アンカーは責任重大だもの。はくだけで足が速くなるくつとか、巻くだけで万能選手になれるはちまきとか、誰かつくってくれないかなあ」
真友がどきどきしていると、奈絵ちゃんがほっと息をついて言いました。
「アンカーは男子に決まったわ」
続いて、団体競技の練習です。いくつかの競技は、前にもやったことがあります。今日は、おもに、騎馬戦の練習をしました。男子の騎馬戦が、活気にあふれているのに対して、女子のは、いまひとつもりあがりにかけていました。そして、真友のチームはとくに、おとなしい子が集まっていて、すぐにぼうしをとられてしまうのでした。

 そして、5月のよく晴れた日。いよいよ、大運動会の日がやってきました。開会式、準備体操、短距離走、玉入れ、綱引き、大玉ころがし、PTAのパン食い競走などがあり、午前の部が終わりました。それぞれが、応援に来てくれた家族のもとでお弁当を食べた後、いよいよ午後の部が始まります。
 ここまでの得点は、赤組が510点。白組が550点です。
 応援合戦は、なんと同点。続く騎馬戦は、高学年の見せどころ。最後の大量得点のチャンスです。とくに、赤組は、ここで負けたらもうばん回のチャンスはありません。
先生の号令とともに、騎馬戦が始まります。
「それでは、男子1回戦をはじめます。騎馬を作ってください。用意、はじめ!」
白組大将の雅紀くんが、掛け声をかけます。
「よし!ガチンコ勝負だ!行くぜ」
対する赤組の大将は、将太くんです。
「みんな、がんばって!」
1回戦は白組の勝ちでした。雅紀くん率いる騎馬隊が、圧倒的な強さを見せました。そして、2回戦にいく前に、作戦タイムが取られました。
赤組大将の将太くんが、味方を集めて言いました。
「2回戦は、絶対に負けられない。作戦を立て直そう」
「白の大将の騎馬がめちゃくちゃ強いよ」
「赤の4年生がほとんどやられちゃったもんなあ」
4年生がしゅんとしてしまったので、将太くんが力づけました。
「大丈夫さ。2回戦めは、大将がぼうしを取られなければいいんだ。そのためには、君たちの力が必要だ。4年生と5年生は、なるべく僕の周りにくっついて、みんなでバリケードを作って、敵の騎馬を近づけないようにしてほしい。いいかな?」
すると、5年生の渡辺慎太郎くんが、
「そんなのつまらない。おれたちの騎馬は攻めさせてよ」
と不満を言ったので、将太くんがうーんと考え込みました。
「それなら、慎太郎くんは、白組大将のぼうしを取ってこられる?」
「それは・・・わかんないけど」
「わかんないなら、だめなんだ。ここは、勝ちにいくための作戦を立てなくちゃならないから」
慎太郎くんは、口をとがらせ、目をそらしました。
作戦タイムが終わった後、6年生の瞬くんが、5年生の慎太郎くんの背中をたたきました。
「慎太郎、めげるなよ」
「・・・」
「あっちの大将が強すぎなんだよ。でもさ、俺らの騎馬で団結して、絶対にぼうしをとって来てやるよ。だから、お前らは大将を守ってくれ!」
「そんなのつまらねえ。俺の力を封じるなら痛い目にあわせてやる」
「慎太郎、そうじゃないんだよ、これは、赤組が勝つための作戦だぞ。白に勝たせるつもりか?」
「白には、負けたくねえ!」
「よし、その意気だ。頑張ってくれ!」
そして再び、先生の号令があり、男子2回戦が始まりました。
「ガンバレ!」
「負けるな!男子」
応援の声が飛びかいます。男子の試合は、怖いくらいにぶつかりあって、すごい迫力です。騎馬は何組もくずれかかっては持ちこたえています。
「今度は、赤が盛り返しているよ!」
「男子2回戦めは、赤組が勝った!」
「次は、あたしたちね」
 騎馬戦女子1回戦目は、始まってからしばらくたっても、両軍なかなかぼうしをとれないでいました。真友の騎馬隊のメンバーは、戦うのをさけて、ぼうしをとられないように、端のほうを走っていましたが、結局、前と後ろではさみうちにされ、白組5年生の騎馬に取られてしまいました。
「ごめん、あっさり取られちゃった」
奈絵ちゃんが申し訳なさそうに言った時、真友は、となりの騎馬隊が激しい戦いをしているのを見ました。足をけったり、髪の毛をひっぱったりしているのです。そしてそれは、赤組5年生でした。しかも、上に乗っている子は、あごにぼうしのひもをかけています。真友は、その子の騎馬隊を引きとめました。
「何すんの!」
「ぼうしのゴムは、外さなくっちゃ」
真友が言うと、騎馬の上に乗っていた赤組5年生の斉藤まりえちゃんが、怒り出しました。
「味方なのに余計なお世話よ!あんたたちなんか、すぐ負けたくせに」
「やめ!」
そこで、先生の声がかかり、女子一回戦が終わり、作戦タイムとなりました。 
 
「みんな、けがしてない?」
白組大将のゆいちゃんがみんなを気遣って言いました。すると、ひざから血を流している4年生や、突き指をした5年生がいて、ゆいちゃんは、せつない気持ちになりました。
「みんな、無理しないでね」
「ゆいちゃんも、傷が」
「あ、これ?大丈夫よ」
「これじゃ、まるでケンカみたい」
「そのようね。赤組はひきょうな手を使ってくるから、みんな気を引き締めて。2回戦めも、がんばろうね!」
 
 作戦タイムの間中、赤組はずっともめていました。
「反則をしたら、した人は負けになるの。ぼうしは後ろかぶりで、ゴムひもはかけないこと、いい?」
赤組大将の柳沢浩子ちゃんが、はっきりと言いました。すると、5年生の斉藤まりえちゃんが、立ちあがって抗議したのです。
「あたしたちが反則をしたというのなら、6年生はどうなんですか?全然やる気がないと思います。逃げ回ってばかりいる6年生に注意されたくないです」
まりえちゃんが、真友の方を見ました。
「あたしたち、赤組のために必死にがんばっているんです。邪魔しないでください」
「そんな」
真友は、言い返したい気持ちをぐっとこらえました。涙で目の前がグラグラと揺れました。あたしたちは、ぼうしをとられないように逃げ回った。それは間違っていない。だけど、結果は、ぼうしをとられてしまった。それはやっぱり悔しい。それに、正しいと思って注意をしたことで、こんなふうに言われるのは悲しい。同じ赤組同士で、どうしてこんなに言い争いをしているのかもわからない。あたしは一体、この騎馬戦で、誰と戦っているんだろう?味方、敵、それとも・・・?
すると、5年生のもうひとりの女の子がおずおずと言いだしました。
「まりえちゃん、ちょっと言い過ぎだよ。反則はやっぱり、しないほうが・・・」
「なによ、裏切るの?」
「ち、違うけど」
見ると、まりえちゃんの騎馬をささえていた女の子達は、足に傷を負っていました。真友は、はっとしました。もしかしたら、この子たちは、まりえちゃんに逆らえなくて、反則は悪いことだって分かっていて、従っていたの・・・?
 赤組大将の浩子ちゃんが言いました。
「もう、作戦タイムはあまりないわ。とにかく、みんな正々堂々と戦って!反則するくらいなら、戦いに出ないで!」
真友の騎馬隊のメンバーの、トモとけいちゃんが、ひそひそと言いました。
「あの、まりえって子、自分だけが頑張ってるつもりなのかしら」
「真友も何か言ってやればよかったのに」
「言い返せなかった。ごめん」
「謝ることなんてないよ。あのまりえって子が生意気なんだから」
「けど・・・あたし達もちょっとたるんでたかも」
「負けてられないね」
「うん」
そこで、けいちゃんが提案しました。
「奈絵は、正直、騎馬に乗るには性格が優しすぎると思うの。白組大将のゆいに対抗するには、真友が上に乗った方がいいんじゃない?」
「あたしが?」
「十分戦えると思う。腕も長いしさ」
「そうだよ、下はあたし達が支えるから、上でがんばってみなよ」
奈絵ちゃんもこれに同意しました。
「真友ちゃんがやる気なら、あたしは下で支える。こう見えて、結構力持ちなの」
「わかった。みんながそう言ってくれるなら」
真友は、3人の騎馬に乗りました。
「ごめん、重いでしょ」

「用意、始め!」
騎馬戦女子2回戦が始まりました。騎馬戦もこれが最終決戦です。ここで、赤組女子が勝てば、逆転できます。。
「真友、行けーっ」
一番に白組大将のぼうしを取りに行ったのは、真友の騎馬でした。ゆいちゃんは、真友の攻撃をひょいとかわして逃げます。
「危ない、後ろ!」
けいちゃんの声にはっとし、後ろから来る騎馬に応戦している間、まりえちゃんの騎馬が、ゆいちゃんの騎馬へ突入しました。
「みんな、お願い!」
ゆいちゃんが手を挙げて声をかけると、白組の騎馬が2騎やってきて、まりえちゃんのぼうしを取りました。
仲間の騎馬が次々とやられていく中、真友の騎馬は、浩子ちゃんを守ろうと懸命に応戦していました。
「浩子ちゃん、右よ!」
「前、前、前!」
前方へ逃げたはずのゆいちゃんの騎馬隊が目の前にいるのに気がつかず、あっと思った時には、浩子ちゃんのぼうしはなくなっていました。
ゆいちゃんの騎馬隊は、風のようにくるくる回りながら、赤組の包囲網を破ってきたのです。
「やめ!」
終わってみると、なんと、白組大将ゆいちゃんは、4つもぼうしを取っていたのでした。
「白組の勝ち!」
勝ちが告げられると、白組女子から歓声があがり、ゆいちゃんの騎馬は抱き合って喜びました。

 騎馬戦が終わった後は、フォークダンス、そして最後に全校リレーを行なって、大運動会は閉会式をむかえ、幕を閉じました。終わってみると白組の勝ちでした。
 全校生徒が参加賞をもらい、それから、PTAのお父さんとお母さん、6年生は、片づけのために居残りをして、その後、解散となりましたが、生徒達は、まだおしゃべりを続けていました。
大ざくらの木の根元では、ゆいちゃんと真友が話をしています。
「びっくりしたわ。真友が、本気であたしにむかってくるんだもの」
「あたしも・・・って、自分でびっくりしてたら世話ないよね。ゆいちゃんの騎馬は、まるでつむじ風みたいに、みんなのぼうしを巻きあげたね。圧巻だったよ」
「そう?みんなのおかげよ」
ゆいちゃんは、そう言ってピースサインをしました。その頬には、ばんそうこうが貼られていました。
「傷、だいじょうぶ?」
「ちょっとひりひりする。じきに治るわ」
「傷がはやく治るおまじないがあるんだ。家に帰ったら、本見てみるね」
「なんだ。今すぐ、おまじないしてくれるのかと思ったわ」
「だいじょうぶ。おまじないは、遠くからでも祈れるから」
「急がないのね?真友らしいわ。じゃあ、家に帰ったら祈ってちょうだい、忘れないでね」
ゆいちゃんは、内心、真友は家に着く頃には忘れてしまうんだろうなと思いながら、にっこり笑いました。


2011-08-17 23:23  nice!(1)  コメント(0) 
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短篇小説 W   別天地へ行け

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