別天地へ行け 11 夕月の誓い [地下世界ヲ脱出セヨ 乃亜シリーズ♪]
11 夕月の誓い
人影は、携帯灯をミニマムにして、ぱっとつけた。
「!」
蓮だった。
「もう、帰ったのだと思っていたわ。何してるの?」
「君の方こそ、どうしてこんなところへ?」
「こんなところって、ここは広場でしょ?」
「禁止岩の奥だよ!」
私は、公園を出て、居住区外の禁止岩を越え、さらに奥の、キサマの灯の届かない、ずっと暗がりの場所に来ていた。
「う、嘘でしょ!?なんで・・・」
蓮が、止めてくれなかったら、もしかしたらずっと先まで歩いていたかもしれない。
「匂いに誘われたんだ」
「そんなっ」
急に、息が苦しくなり、鳥肌が立った。
匂いに誘われて、こんなところまで来てしまうだなんて、自分が信じられない。
でも、それは、事実だった。
そして、いよいよ強くなる甘い匂いは、さらに奥の岩の向こうから流れてくる。誰かが、奥で匂いの元を作っているに違いない。
「この奥で、何かを燃やしているんじゃないかしら・・・誰かが火遊びをしているとか?」
「大丈夫。火元はもう消してある」
「でも・・・」
「心配いらない。さあ、早くここを出よう」
蓮は行こうとしたが、私は、足をとめた。
「待って!もしかすると・・・この奥に、リウヤ君のお姉さんがいるかもしれないの。蓮と同じ第21区に住んでいる子よ、知ってるよね?」
「うん」
蓮は、歩き出した。私は、蓮の背中を見ながらしゃべり続けた。
「その子のお姉さんが、見当たらないの。一緒に来たはずなのに、公園にいないのよ。もしかして・・・あの奥にいるんじゃ・・・」
私は、蓮の背中にぶつかった。彼は、急に立ち止まると、振り向いて、私の両肩に手を置き、力を込めて言った。
「そのことを、僕以外の誰にも話しちゃいけないよ」
「どうして?」
「とにかく、君は早く家に帰ってくれ。ここは、危険だから。夜になる前にはやく!」
速足で歩きだした蓮に、強く手をひっぱられて広場に戻ると、時はすでに、夕月だった。
リウヤ君は、砂場でトンネルを作って遊んでおり、里奈は、ストンに座っていた。
「里奈!」
名前を呼ぶと、里奈は、顔をこちらに向け、少しほっとした様子を見せ、すぐに再び、こわばった顔になった。
「ごめんね、探したよね?」
里奈に、私の言葉は耳に入っていないようだった。里奈は蓮に向かって、いきなり攻撃的に言った。
「蓮、何しに戻って来たの?なぜ、乃亜と一緒なの?」
「私がね、禁止岩の奥へ・・・」
「僕が話す」
蓮は、里奈をなだめるのが得意だ。でも、今日の蓮は、何かが違っていて・・・。
「里奈、さっきは、ごめんよ。僕、やつらと、約束していたんだ。君を今日ここに連れてくること」
「そう」
「君の気持ちも考えないで、ごめん。ただ、やつらみんな君のことが好きなだけだから」
「聞きたくない」
「これからも、偶然会った時には、ちょっとは愛想よくしてやってくれよな。」
「・・・うん、でも、それは気が進まないけど」
蓮は、里奈の気持ちがわからないのだろうか。
彼女は、たくさんの男子達に好かれることを望んでいるんじゃない。彼女の望みは、たったひとりの大好きな人から愛されることだってことを。
そして、その大好きな人が、自分だってことも。
私は言った。
「ねえ、蓮!あなたの言いたいことはわかったわ。今度は、里奈の気持ちを聞いてあげて」
私は、里奈にかけよって、小さな声で言った。
「里奈、はっきり言わなきゃ伝わらないわ。ほら、今がチャンスよ。『夕月の誓い』を彼とするんでしょう。今がチャンスだわ」
「えーっ?えっと・・・急に言われたって、その・・・」
その時、リウヤ君が、里奈の顔を見上げた。
「里奈ちゃん、真っ赤っかだよ、どうしたの?」
「夕月の灯りのせいよ」
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