別天地へ行け 26 [乃亜シリーズ♪(混沌的原案)]
私は、灯が好きだ。
『霊光』は、地下道の鉱物が、わずかな灯に反応して輝きだす時間だ。
瞬くようなその光は、『月』や『三日月』や『星』などの大ざっぱな光り方とは別の・・・
『夕』の時、川面に揺れる光とも別の・・・
『霊光』・・・それは、秘められた魂が呼び覚まされるような、不思議な感動を呼び起こすような岩石のささやき・・・
そんなものだった。
私の中で、幼い頃の思い出の断片が、蘇った。
お祈りの時間だった。
わけもわからず、大人の真似をしていた私は、ある時、父に問いかけた。
「お祈りのときは、何を思うの?」
「何も考えなくていいんだよ。乃亜の心が、『ヒサマ』とひとつになったと思ってごらん」
「はい」
私は、一生懸命、心の中の『ヒサマ』を抱きしめようと頑張った。
だが、手の中をするりと抜けてしまい、うまくいかなかった。
「乃亜、安心して光になってごらん。心に『闇』はやってこない」
父さんは、静かに笑っていた。
私は、言った。
「『闇』は、なぜあるの?真っ暗闇、すごく怖い・・・」
「灯と闇が必要なんだ。そうでないと、みんな死んでしまうんだ」
「どうして?人間も?植物も?」
「そうだよ。『ヒサマ』の光がなければ、死んでしまう。水脈のそばから離れても生きられない」
「父さんは、よく旅に出るわね?暗いくらい地下をずっと行くでしょう?」
「うん、行くよ。父さんは、どこまでも行くんだ。地上を目指してね。さあ、乃亜、おしゃべりはここまで。お祈りをしよう」
小さな私は、一心にお祈りをした。
母は、心配そうに、私達の話を聞いていた。
『闇』に隠されていたものが、ぐったりとした少年の姿形を浮かび上がらせた。
死んでしまったのだろうか・・・?私は、地下道の端で、男の子の頬をなでた。暖かかった。
気を落ち着けて、少し休もう。
もう少し、明るくなれば、地下道の様子がはっきりするはず。
私は、心の中の「ヒサマ」を思い、目をつぶった。
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