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ソフトクリーム・シェルター・アイドル [お話のかけら(練習中♪)]

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昼間の劇場ホール前で並ぶ、たくさんの人びと。
その中に、わたし達5人組がいた。今日は、大ファンのアイドルGの昼間の舞台公演の初日だった。
「どうしよう、緊張してきた」
「わたしも」
わたしと持田萌(通称もっち)は、口をそろえた。
「わたしたちが緊張しても始まらないのに」
「そうよね」
「混んでるかな、どうしよう行って来る?」
「なに?トイレの相談?」
遠野太一くんが言う。もっと早くに済ませておけばよかったとばかりに。
「わたしたち、行って来る。開場するまでには戻ってくるね。みんなちゃんと待っててよ?」
わたしが言うと、鳥谷くんは素直に「うんわかった」と頷き、
遠野太一くんは「はやく行って来いよ」と大きい声で言い、
仙葉亮くんは、「大のほう?」と、わたしたちをからかった。
わたしは、いらっとした。いつまでたっても子供っぽいからかいかたをされて、ちょっとむかついた。
「違う!公共の場で!小のほうよ!」
そんなことで、ムキになってしまう自分も、子供っぽい。
「アンったら、大きな声ではずかしい。みんなさ、もしあたしたちが遅くなりそうだったら、先に入ってていいからさ」
もっちが気弱に言うと、
「なに、待ってる?それとも先に行く?まあいいや、どっちにしても、指定席だから平気平気。2人まとめて、あんころもち、出動せよ」
仙葉亮くんが、ナントカライダーの真似をして格好つけて言ったので、もっちが、くすっと笑った。
わたしの名前は、遠野杏子。(杏子と書いて、あんずと読む)。でもなぜだか、あんこ、とかアンちゃんとかって呼ばれる。
もっちとわたしは、中学へあがってすぐに意気投合した親友同士だ。
もっちは、髪を肩へおろし、わたしは、ポニーテル。仲良し5人組で、よく出かけるのだけど、今日は、特別な日。
はやいとこ、ホールへ入りたい。

その建物といったら、ちょっと目立つのだった。巨大なソフトクリーム型の、白い屋根。
それを支えるワッフルのような外壁。公共の建物だからか、それとも、ただの建築デザイナーの悪趣味なのか、誰かが、意図して作ったにしては、なんだか微笑まし過ぎるような建物だった。
トイレの場所をさんざん探し、やっと見つけた。開演前のこんな時は、だいたい混んでるものなのに、誰も並んでおらず、すぐに中へ入ることができた。そして、入ってすぐに、わたしはおでこをぶつけた。続いてもっちが、わたしの背中にぶつかった。
「わっ」
いきなり、板壁が、目の前にあったのだ。
そこらじゅうに、目隠しのためなのかわからないが、板が張り巡らしてあった。もっちとわたしは、前後に手を携えて、道なりに入っていった。曲がりくねった狭い通路は間もなく終わり、地下へと続く階段がみえた。
「ねえ、ここ、なんか違うんじゃない?」
わたしたちは、誰に聞くともなくそういいながら、階段をおりた。
地下へ続く階段は、とても急だった。螺旋状に下へ下へと、おりる人を誘うようなつくりだった。前に星の科学館へ行ったときにもこんなつくりのところがあったけれど、こんなに長くはなかった。降りても降りても、ずっと地下へ行くばかりで、まるで、井戸の中に降りていくような錯覚さえ覚えた。繊細な神経のもっちは、気持ち的に耐えられなくなったらしい。
「ねえ、ここ、やっぱどう考えても変」
「うん、なんかね、もしかすると」
「地下シェルターかしら」
わたしたちは、ななめ目線で、顔を見合わせた。
「わたし、やっぱり戻って、確認してくるね。アンも戻るよね、だってここ怖いもの」
もっちは、わたしが、直行型な性格なので、このまま戻りたがらなかったらどうしようと思ったみたいだ。その読みは、正しい。さすがは、もっち。
「でも待って、もうちょっとしたら、下へ行き着くかもしれない。わたしは、降りてみる。トイレを発見したら、下から大声で叫ぶわ」
「なんて叫ぶの?」
「トイレあったよーって」
もっちの繊細な感性が、その言葉を受け付けないみたいだった。
「もっと、なにか合言葉を決めない?」
「合言葉?」
とっさに、「あんころ、もち」と浮かんでしまった自分が嫌になる。あわてて頭の中の消しゴムで消した。
「杏寿と厨子王」
もっちは、なんだか難しいことを言う。
「もっち、それはいくらなんでも、変だよぅ。やだ」
「じゃあ、どうする?」
たっぷり1分は、考えた。いろいろ思いついたことを言ったが、ことごとく却下された。
「なんでもいいじゃん合言葉なんて」
とうとう、しびれを切らしてしまった。
「わかった。じゃあ、アンに任せるね」
なになに?結局、今の相談は、ただの時間のロス?
もっちは、螺旋階段を逆方向に、カンカンと音を立てて上っていった。
私は、少しでも早くと、そのまま階段を駆け下りた。上下で、カンカンという足音が鳴り響いた。
そして、まだまだ続く螺旋階段の途中で、やっとドアを発見した。わたしは、もっちを呼ぼうとして、その前にそこがトイレであることを確認しようと、ドアを開けて、一足踏み出した。
が、その足を、すぐに戻した。中に、男の子がいたのだ。目が合ってしまった。わたしは、あわててドアを閉めた。
そして、その一瞬に、見間違いかと思うほど重要な、今日この晴れの日の舞台に輝くばかりのオーラを放つであろう人物を見たような気がした。
「エヴァンが、いたような!?見間違い、ヨネ」
品がなくってごめんだけど、トイレなんて引っ込んじゃった。
ドアの向こう側には、広い部屋があって、人気アイドルGのエヴァンくんが、椅子に座っていて、端正な横顔がこちらを向いていて・・・うきゃ~~(言葉にならない)。
わたしは、あらためて、中に入ろうか、自分の胸の鼓動と相談した。ここから、中へ入ればどこかへ通じているだろう。だけど、一回ドアを開けてすぐ閉めた子が、また入ってきたら、頭のおかしいファンの子だって思われるんじゃないかな。だめだ。エヴァンくん相手に、初めて生で会うのに。あ~どうしよう!
わたしは、前髪を整えようと、必至だった。
すると、もっとずっと階段の下のほうから、話し声と足音が聞こえてきた。


2009-07-25 00:16  nice!(0)  コメント(0) 
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