運命の舟 [お話のかけら(練習中♪)]
春まだ浅い日、僕の舟は帆を張り、大海をさまよっていた。
陸を出てから、幾度も夜を数えたが、南海諸島は、まだ、影も形も見えてこない。
水平線にまるく切り取られた水の上を、
風の向くまま、流されるにまかせていた。
内陸の生活は、僕のこころを乾燥させた。
生活のために生きることが、無意味に思えて、
冒険をしたいと思った。
ひきとめる奥さんを残して、僕は、南海の幻の水の都を探す旅に出た。
伝説によれば、南海の風に流されるままに、進めば、1000にひとつの確率で、
たどりつけるという。
生きるか、死ぬか、一か八かの賭けに出たのだ。
その時、不意に雷鳴がひびき、豪雨になった。
海面を、おびただしい水の雫が打ち、
僕の小さな船は、あっという間に浸水した。
僕は、海へ肩までつかった。
空を仰ぐと、再び、雷鳴がし、稲妻が、僕の身体をつらぬいた。
稲妻は、光のエネルギーで僕を包んだ。
その時、髪がゆるやかに長い美しい女の幻影を見た。
女の幻影は、想いを宿した視線を残し、消えていった。
鮮烈な残像を、僕のこころに残して。
しばし呆然としていた眼の先に、
ぼんやりと島が見えて、僕は、はっとなった。
島が見えた。
僕は、浜辺まで、泳いだ。
白い砂浜が、ずっと広がっているだけの、なにもない島だった。
浜辺から、島の真ん中へ歩いて行くと、そこに、小舟があった。
その中に、誰かが寝ていた。
僕の胸を、衝撃が走った。
この人を、僕は、あの稲妻に打たれた時に見ていた。
彼女の髪は、ゆるやかに波打って腰まであり、
粗末な服を着ていても、美しさは隠せなかった。
見つめるのが罪なくらいだった。
僕のこころは、高鳴った。
この人は、きっと、僕を知っている。
僕も、彼女を知っている。
時も場所も超えて、僕らは、運命により出会ったのだ。
もし、彼女が今、ここで目覚めて、僕を見つめたなら・・・。
あの稲妻のような、衝撃が走るだろうか。
あの想いを宿したまなざしにとらわれたなら、僕は、一歩も後に引けなくなるだろう。
このまま、立ち去るべきか、それとも・・・。
だけど、僕のこころは、彼女の瞳を確かめたかった。
ここで、待とう。
南海の孤島で、ひとり横たわっている彼女が、
目覚めるまで。
僕は、波の音を聴き、悠久を思った。
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